第6話  ブラック・ジョーカー    ①

文字数 2,111文字

大鳥レイジは、某上場企業に属している今や世に知らぬ者は殆んどいない、『魔術師』と言われている発明家である。彼は本日、自身の開発した自動人形≪オートマドール≫の定期点検をするために、組織『PANDORA』に派遣されたのだ。
レイジは、自作のファルコンで、森の奥深くを爆走する。スピードの出しすぎは彼の悪い癖なのだか、ジェット気流の様な爽快感が忘れられないのだ。深い森の奥をしばらく走ると、ベルサイユ宮殿の様な豪勢な建物が丘の上に聳≪そび≫え立っていたのが見えた。門の前で通信室と交信をして、開けてもらう。中に入り大理石の通路を走ると、左右にはメルヘンな庭園が広がっていた。しばらく走ると、建物の中からそそくさと人が出てきた。
「ようこそ、お越し頂きました。」
サンタクロースの様な恰幅のいい大柄のマネージャーが、額にハンカチを拭いながら出迎えた。その体躯は、かっちりとした背広とは対照的に、ちぐはぐな感じがした。
「わざわざ、すみませんね。ああいう事があったもので、色々たてこんでいましてね…」
「それは、お気の毒です。例の、黒玉達を見せてもらえませんか?」
「すみませんが、それは極秘事項なんですよ。貴方にはには関係、ない。」
マネージャーの目は、明らかに丸くなり泳いでいた。
「関係ない訳ないでしょう。僕がモデルを開発したんですから。」
「だから、これはウチの問題なんですよ!」
責任者は、何かをひたすら誤魔化すようかのような素振りで、強く強調して話した。
「はぁ…」
レイジは、眉をUの字にして丸太の様に腕組みをした。
「今回見てほしいのは、地下にありますよ。」
レイジは案内され、パルテノン神殿を連想させるかの様な豪勢な通路を進んだ。柱の向こうには、壮大な庭園や森が聳えていた。柱の側で痩せっぽちな少年が項垂れながら階段に座っているのが見えた。少年は、右腕が本来の3分の1程しかなかった。少年は、何か瞑想しているかの様にぼんやり庭を眺めていたのだ。
それが、レイジと少年の出逢いであった。
「あの子は…?」
「ああ…、例の生き残りですよ。他にも数名生き残った子供がいますが、コイツだけは特別なんですゆわ。」
「特別とは?」
「そういえば、貴方もジェネシスですよね。何かを感じないのですか?」
「はい、感じましたね。ですが、この子は人間の様な気もしますが…。ただ、何か重く深いものを感じますね。異質というか…。」
「・・・そうなんですよ。」
「あの子は何者なんですか?」
「…それも極秘事項です。」
マネージャーの眼光は何処までも深く強かった。

通路を通り抜け薄暗い階段を下ると、ドーム型の広いホールに出た。そこには無数の自動人形≪オートマドール≫がマネキンの様に直立して、並んで眠っていた。
「コレは、結構古い物から新しい物まで混在していますね。例の奴ら≪…………≫とは、コイツ等の中ですか?」
「いや、最新モデルの方なんだが、」
レイジは一体一体、吟味していた。
「少し、弄≪いじ≫りましたね?」
「…はは、そんなことはないでしょう。」
マネージャーは、ハンカチで額の汗を拭うと、苦虫を噛んだような顔をした。
ー螺子≪ねじ≫が少しずれてるな…ー
レイジは工具を取り出すと、近くの一体のボディの外側を外し、内部をじっと睨み付けていた。


しばらくすると、奥の方で一体の自動人形≪オートマドール≫の眼が点滅していた。そして全長3メートルの彼の両腕は円盤の形に変形し、チェーンソーの様に激しく回転し、2人に向かって突進してきたのだ。直径60センチ程の巨大な円盤は凄まじいスピードで回転している。
「ひっ…」
マネージャーは慌てふためき、近くの自動人形≪オートマドール≫の陰に隠れた。
レイジは電光石火の如く電気砲弾≪バズーカ≫を取り出し、彼の額を狙い打った。
「やめた方がいい…。コイツはこの程度じゃ効かないんだ!実は、コイツは最強で…」
マネージャーは明らかに焦蒼しきっている。
自動人形≪オートマドール≫は雷の様に激しくバチバチした音をあげ、動作がゆっくりになっていった。そして彼は三歩後退りをすると、その場で倒れこみ、動きを停止した。

ー何だ…。コイツは開発した覚えはないぞ。ー

レイジは豆鉄砲でも喰らったかの様な顔になり、呆然としていた。しかも今までの自動人形≪オートマドール≫に感じられなかった強い殺意がしたのだ。
「コイツはウチで開発したニューモデルでして…。まさか、こんな事になろうとは…。しかし、大鳥様は流石ですね。」
「いや、いいですよ。そんなことより、他に同類の者は何体いるんですか?」
「…あと、12体います。」

ーそれにしても、誰かに見られている様な気配がするのだがー。一体か、いや、二体…三体いるぞー

入り口に入った時からずっと、得体の知れない殺気をレイジは感じ取った。姿は見えないが、ブラックホールの様な重苦しい冷たい何かが三体、こちらをずっと見ている。

ー今はなるべくここから離れなくてはー

レイジとマネージャーは、足早にその場を後にした。
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