第13話 デス・ホライズン ①
文字数 4,947文字
それは、水色の空が徐々にオレンジ色に染まっていく時刻であった。
「あ~あ、やってらんねー。」
とある街の一角のレトロ風のスナックでキースはビールを片手にすっかり出来上がっていたのだ。まだ店は開店したばかりであり、客も九曜を含め2人だけであった。
「あら、九曜ちゃんそういう頼もしいトコロが好きなのよ。あの時だって、そうやって私を助けてくれたじゃない?」
カウンター越しに女は頬杖をしながら、九曜の葉巻に火をつける。
「あの時はあの時だ。この前はな、俺は死ぬとこだぜ?あの博士に頼まれた時、片道地獄行きの切符渡されたかと思ったんだよ。」
キースは葉巻をふかしながら、5杯目のジョッキを飲み干した。ピッチャーはすっかり空になっていた。
「あの大鳥って子、凄いんでしょ?超有名みたいよ。」
女は黄色い声でカウンターに身を乗り出している。相当カケルを気に入っているようだ。
「いや、アレはダメだな。まず、身体がなってない。へなちょこだ。その上、精神が未熟なお子ちゃまだ。」
「ねぇ、今度連れて来てよ。あの子。」
女の目は、子供の様にキラキラ輝いている。
「駄目だ、駄目だ。アイツは生粋の女嫌いなんだ。表面は繕ってるが、指一本触れられただけで、軽くキレるんだよ。ホント、質が悪いぜ‥‥。」
九曜は軽く溜息をしながら、しきりに髪を掻きむしる。
「私、そういう男にそそられるのよ。て言うか、今日はどうするの?仕事は?」
「いいや、俺には俺のペースってもんがあるの。それより、今日、泊めてくれる?」
すると、九曜の背後でカチンと球が当たる音がした。自動人形が流れるような器用な手付きでビリヤードの玉を打っていた。玉はカチンと音を立て静かに穴に落ちていった。
九曜は、彼の首筋にあるシリアルナンバーを見ると、慌ててバズーカを構えた。
「やばいぞ!セイラ、お前、裏口から逃げろ!!!」
女は軽く頷くと、子鹿のように萎縮し裏口から逃げた。
ーまさか、俺をついてきたー?ー
優男はチラチラと九曜を眺めていた。
ー恐らく…、コイツは組織の末端で月宮の部下だ。しかし、気配は感じなかったぞ‥‥?ー
すると、優男はビリヤードのキューを構えたまま、九曜目掛けて高速移動した。九曜は素早い反射神経で優男の右腕を掴むと、そのまま綺麗な円を描き背負い投げをしたのだった。
「やあ、御機嫌よう。何処から俺をつけてきた?」
九曜はそのまま優男の頭を床に叩きつけ、バズーカをつきつけた。
「おやおや。これはこれは、月宮様じゃ有りませんか?。」
男は表情一つも変えず飄々と首を傾げた。
「しかしながら、君には届きませんよ?」
「試してみるかい?」
九曜は眉間にシワを寄せ、バズーカの引き金を引いた。
爆弾の弾けるような音と共に辺りに粉塵が部屋全体を覆い尽くし、焦げ臭い臭いが中を立ちこめた。
「やれやれ。下品極まりない戦闘形態。知性が微塵も感じられないー。」
優男の頭部は軽く穴が空いただけで、形状を保つていた。
「それより、日々谷ミライとサイモン・ベイカーは今、何してる?」
「日々谷、サイモン・・・ですかー?」
「知ってんだろ?お前は、パンドラの手下だもんな?」
九曜の押さえる力は益々強くなり、腕は1.5倍ほどに膨れ上がった。
「さぁー、どうなんでしょう。私でもなかなか会えないんですよ。何せ、組織は機密事項が多いものでー。」
優男は軽く頭を傾げると押さえつけられた状態で、海老反の体勢で軽々と起き上がった。
ー何と言う力だー。
九曜の押さえつける右腕は、まるで子供の力の様に非力であった。
優男は素早い身のこなしで攻撃をかわし、壁と天井をピョンピョン飛び回る。
「全く・・・。すばしっこい兎だぜ。。」
優男は跳ね返り、九曜の頭部目掛けて蹴りを入れようとした。九曜は思いっきり椅子を優男に投げつけた。重たい椅子は落雷の様な電流を浴びながら、丸でロケットが打ち明けられるかの勢いで、優男に直撃した。しかし優男は、蝿を払うかのように軽く払いのけた。九曜の頭部に蹴りを入れようとした。九曜はヒョウの様な素早い身のこなしで優男の脚を掴むと、軽々と投げつけた。優男はマネキンの様にそのまま軽く店の奥の奥まで軽く吹っ飛んだ。
「お前、あの九曜か‥‥‥。怪力自慢でジェネシスの中でA級クラスの、…雷帝の」
「バーか、俺よりもっと強い奴らがお前の身近に二人居るだろ?でも知らんで、残念だよ。」
「お前…。」
優男はガタガタ震えながらも最後の力を振り絞り、九曜目掛けてドロップキックを仕掛けてきた。
「おっと、残念。そこはデッドゾーンでした。」
九曜は分厚い左腕で優男の足を受け止めると、そのまま右腕で優男の頭部をグーパンチで、叩きつけた。九曜の腕は益々膨れ上がり、その周りを分厚い電流がメラメラと覆いつくしていた。
「お前、その力は…?」
「さあな。モーメントの揺れじゃねぇの?」
九曜は益々、腕に力をこめた。電圧は益々強くなり、鋭い衝撃音と電流がたちまち店内に広がった。そして雷の様にチカチカ光りながら、爆音を上げそして爆発した。
優男は、そのまま動きを停止した。
ちょうどその時刻、カケルはあの事件以来、サイモンに会うべくどうやって組織に潜り込もうか博士の自宅で、暗中模索していたのだった。
「何と言う事だ…。」
「どうしたんだ?」
「兎に角大変なんだ。あの時の生き残りを呼ばねば…。」
博士は今まで見たこともない形相で、真剣にモニターを睨み付けている。
「あの、一ヶ月ほど前にビックウェーブカップがあっただろうー。」
「あぁ、奴と日々谷がでたレースか?あの、糞忌々しい野郎が…。」
「そうなんだ。その者の能力を分析したんだが、なんと恐ろしい事が解ったんだよ!」
「日々谷を飲み込んだ事か?」
「それもあるが、このアスクレピオスでモーメントの激しい揺れを関知したんだ。80%の確率でこの街全体で大災厄が起きるぞ!」
アスクレピオスと呼ばれた装置は直径1メートル程の土星型の形状をした模型であり、そこから電磁波の流れを関知することが出来る。中でもVXから流れ出る電磁波は特徴的でかなり強い傾向にある。
青木博士は、独自の方法で例の生き残りの2人を自宅の研究室に呼ぶことにした。
「わざわざ来ていただいてすみません、20分ほどお時間頂いても宜しいでしょうか?」
「お前、大鳥カケルか?」
三澄が頭をかきながら、まじまじとカケルはを凝視していた。
「はい。そうですけどー。それが何かー?」
カケルは真剣に装置のメーターを確認している。
「今回俺らが呼ばれたのは、例の事件の目撃者だからか?それとも他に何かあるのか?」
「ええ、今回は貴方達を守るために呼びました。」
「あ、大鳥カケルかー!最近ちょくちょく見るよなー。」
来栖はお祭りにいってるかのように、陽気にラップを口ずさんでいた。
「おい、もっと音量下げてくれないか?」
三澄は苦いものでも口にしたかのように顔をしかめている!
「あ?漏れてないよな?音ー。」
来栖はヘッドホンの音量を確認すると、カケルの方を向いた。
「えぇ、何も聞こえてませんがー?」
「はぁー、これだから嫌なんだ。俺の能力はー。」
トリスタンは軽く貧乏ゆすりをし、コーヒーをすすった。
「何て言うことだ!?」
奥の方から博士の悲愴感漂う声が漏れてきた。
「博士、どうした?」
「私の家のセキュリティは完全だぞ?しかし何故ー。」
「しかし、何故かー。」
奥の暗がりの方から低く透き通る声が聞こえてきた。奥から、長髪の美青年が姿を現したのだった。
「お前は、月宮だな?」
「大鳥、知ってるのか!?」
「先日はリゲルが御世話になったよ。」
「日々谷をどうしたんだ?」
「どうもこうもー。彼女は僕の可愛い可愛い人形さ。」
月宮は、博士の方を向いた。
「やぁ、青木君。僕を覚えているかい?」
博士はお化けを見るような目で、小刻みに振るえていた。
「いやー、お久しぶり。オリンポスは相変わらず侘《わび》しいもんだね。」
「ー何故私の家なんかにー?」
「何故って、僕は君のこの素晴らしい宝に用があるんでね。」
月宮は目の前にある、アスクレピオスに軽く手を触れた。装置は、強い静電気を起こした。
「これは、渡さんぞ!お前に使える代物じゃないんだー。ほんの少しでも使い方を誤れば、大惨事に……」
「ふぅーん、使えない
月宮は興味ありげに、博士の製作した無数の装置をまじまじと眺めて回った。
「でも、やっぱり僕はコレが一場番欲しいなー」
月宮は微笑みながら、アスクレピオスを眺めていた。
その瞬間、青い電磁波がイリュージョンの如く、月宮の周囲を取り囲み、彼は動けなくなった。そしてすっぽりオシリスの泉に飲み込まれた。
「やれやれー」
月宮は、軽くため息をついた。
「君たち人はいつも同じことをするー。」
「2人とも、あっちのバリケードの中へー。」
カケルは2人を向こう側に促した。
「おい、ここは何なんだよ!?」
来栖は戸惑っている。
「奴は元は俺と同じタイプのジェネシスだったんだよー。」
「え、でもコイツから何も感じないぞ!?」
「それが奴の能力さー。奴は今、サイボーグだ。」
三澄は額から汗をかきながら、月宮を睨みつけている。
「ー、え!?コイツはマシンなのかー!?」
来栖は、何かを感じたかのように身震いをした。
「ミライ、やれ。」
ミライは、チーターの様なスピードで2人目掛けて突進してくる。
「2人とも早く逃げて!!!」
カケルは瞬時に二人を仕掛けの裏口に誘導すると、突進してくる日比谷を背負い投げした。日比谷は、15メーとる程軽く吹っ飛ぶと、バッタのように天井を跳ね、カケルにドロップキックを食らわした。カケルは日比谷をかわすと、10メートル程間合いをとった。
「やれやれ、時代が変わっても科学が進歩しても、君たち人の思考原理はいつも同じ。まるで発展途上だよ。」
天使のような美貌の男は悪魔の様にほくそえむ。
「ミライ、今は止めるんだ。楽しみは後に取っとかないとー。」
すると、再びドロップキックを再開しようとした日比谷の動きはピタリと停止した。と、同時に博士の身体は鉄の様に段々重くなっていった。
「成程。強い者には最強の攻撃を仕掛けるー。何と言うか、単純だね。」
どういうわけか、彼には攻撃が効かないのだ。まるで、イリュージョンにかかったみたいである。
「大鳥レイジは、勇猛果敢で聡明でエネルギッシュな存在だったよ。まるでヘラクレスだ。でもあのサソリ
「ならば、お前がレイジを越えることは不可能だと言うことを、この剣《つるぎ》で教えてやろうか?」
「カケル君、よすんだ!」
カケルは這いつくばる博士の制止を無視した。そして月宮目掛けてクレイモアを振るい、猛火の勢いで向かった。カケルの端正な顔立ちは般若の形相になっていた。
月宮は薄ら笑いを浮かべながら、身動き一つしていない。不思議な透明のような分厚い気圧は、カケルをバスケットボールのように30メートル後方へ弾き返した。
「博士、知らないかい?ジェネシスは、強い者から順にS級からC級の、4つの階級にランク付けされるんだ。世界中のおよそ100万人ものジェネシスの内、大半がB級かC級だが、その内の10%がA級クラス、5%がS級に振り分けられるのだ。そしてここに居るカケルクンと逃げた2人はA級クラスだね。」
「知っていたさー。だから、こうしてー。」
博士は、しきりに自身の体を動かそうとした。しかし、身体は岩のように動かないー。
「そしてS級は、A級から下より異次元のパワーを有してんだ。」
月宮はカケルに歩み寄ると、飄々と彼を蹴りつけた。猛烈な蹴りがカケルの肋骨を直撃した。カケルは、鉄パイプが突き刺さるような痛みで悶え苦しんだ。
「カケル君、僕は元はS級のジェネシスなんだよ。最新のVXなんて屁でもないのさ。実はね、君の父親も大鳥レイジも元はS級だったんだよ。」
そして月宮は、息もつかぬ間に2発3発と、カケルに強烈な蹴りを食らわした。カケルは潰れた蛙ように這いつくばり、床にへたりこんだ。
「見てみたいと思わないかい?あの英雄《えいゆう》と呼ばれた男の息子が、A級からS級へ変貌する様をー。」
天使の様な悪魔は、大胆不敵に薄ら笑いを浮かべていたのだった。
「あ~あ、やってらんねー。」
とある街の一角のレトロ風のスナックでキースはビールを片手にすっかり出来上がっていたのだ。まだ店は開店したばかりであり、客も九曜を含め2人だけであった。
「あら、九曜ちゃんそういう頼もしいトコロが好きなのよ。あの時だって、そうやって私を助けてくれたじゃない?」
カウンター越しに女は頬杖をしながら、九曜の葉巻に火をつける。
「あの時はあの時だ。この前はな、俺は死ぬとこだぜ?あの博士に頼まれた時、片道地獄行きの切符渡されたかと思ったんだよ。」
キースは葉巻をふかしながら、5杯目のジョッキを飲み干した。ピッチャーはすっかり空になっていた。
「あの大鳥って子、凄いんでしょ?超有名みたいよ。」
女は黄色い声でカウンターに身を乗り出している。相当カケルを気に入っているようだ。
「いや、アレはダメだな。まず、身体がなってない。へなちょこだ。その上、精神が未熟なお子ちゃまだ。」
「ねぇ、今度連れて来てよ。あの子。」
女の目は、子供の様にキラキラ輝いている。
「駄目だ、駄目だ。アイツは生粋の女嫌いなんだ。表面は繕ってるが、指一本触れられただけで、軽くキレるんだよ。ホント、質が悪いぜ‥‥。」
九曜は軽く溜息をしながら、しきりに髪を掻きむしる。
「私、そういう男にそそられるのよ。て言うか、今日はどうするの?仕事は?」
「いいや、俺には俺のペースってもんがあるの。それより、今日、泊めてくれる?」
すると、九曜の背後でカチンと球が当たる音がした。自動人形が流れるような器用な手付きでビリヤードの玉を打っていた。玉はカチンと音を立て静かに穴に落ちていった。
九曜は、彼の首筋にあるシリアルナンバーを見ると、慌ててバズーカを構えた。
「やばいぞ!セイラ、お前、裏口から逃げろ!!!」
女は軽く頷くと、子鹿のように萎縮し裏口から逃げた。
ーまさか、俺をついてきたー?ー
優男はチラチラと九曜を眺めていた。
ー恐らく…、コイツは組織の末端で月宮の部下だ。しかし、気配は感じなかったぞ‥‥?ー
すると、優男はビリヤードのキューを構えたまま、九曜目掛けて高速移動した。九曜は素早い反射神経で優男の右腕を掴むと、そのまま綺麗な円を描き背負い投げをしたのだった。
「やあ、御機嫌よう。何処から俺をつけてきた?」
九曜はそのまま優男の頭を床に叩きつけ、バズーカをつきつけた。
「おやおや。これはこれは、月宮様じゃ有りませんか?。」
男は表情一つも変えず飄々と首を傾げた。
「しかしながら、君には届きませんよ?」
「試してみるかい?」
九曜は眉間にシワを寄せ、バズーカの引き金を引いた。
爆弾の弾けるような音と共に辺りに粉塵が部屋全体を覆い尽くし、焦げ臭い臭いが中を立ちこめた。
「やれやれ。下品極まりない戦闘形態。知性が微塵も感じられないー。」
優男の頭部は軽く穴が空いただけで、形状を保つていた。
「それより、日々谷ミライとサイモン・ベイカーは今、何してる?」
「日々谷、サイモン・・・ですかー?」
「知ってんだろ?お前は、パンドラの手下だもんな?」
九曜の押さえる力は益々強くなり、腕は1.5倍ほどに膨れ上がった。
「さぁー、どうなんでしょう。私でもなかなか会えないんですよ。何せ、組織は機密事項が多いものでー。」
優男は軽く頭を傾げると押さえつけられた状態で、海老反の体勢で軽々と起き上がった。
ー何と言う力だー。
九曜の押さえつける右腕は、まるで子供の力の様に非力であった。
優男は素早い身のこなしで攻撃をかわし、壁と天井をピョンピョン飛び回る。
「全く・・・。すばしっこい兎だぜ。。」
優男は跳ね返り、九曜の頭部目掛けて蹴りを入れようとした。九曜は思いっきり椅子を優男に投げつけた。重たい椅子は落雷の様な電流を浴びながら、丸でロケットが打ち明けられるかの勢いで、優男に直撃した。しかし優男は、蝿を払うかのように軽く払いのけた。九曜の頭部に蹴りを入れようとした。九曜はヒョウの様な素早い身のこなしで優男の脚を掴むと、軽々と投げつけた。優男はマネキンの様にそのまま軽く店の奥の奥まで軽く吹っ飛んだ。
「お前、あの九曜か‥‥‥。怪力自慢でジェネシスの中でA級クラスの、…雷帝の」
「バーか、俺よりもっと強い奴らがお前の身近に二人居るだろ?でも知らんで、残念だよ。」
「お前…。」
優男はガタガタ震えながらも最後の力を振り絞り、九曜目掛けてドロップキックを仕掛けてきた。
「おっと、残念。そこはデッドゾーンでした。」
九曜は分厚い左腕で優男の足を受け止めると、そのまま右腕で優男の頭部をグーパンチで、叩きつけた。九曜の腕は益々膨れ上がり、その周りを分厚い電流がメラメラと覆いつくしていた。
「お前、その力は…?」
「さあな。モーメントの揺れじゃねぇの?」
九曜は益々、腕に力をこめた。電圧は益々強くなり、鋭い衝撃音と電流がたちまち店内に広がった。そして雷の様にチカチカ光りながら、爆音を上げそして爆発した。
優男は、そのまま動きを停止した。
ちょうどその時刻、カケルはあの事件以来、サイモンに会うべくどうやって組織に潜り込もうか博士の自宅で、暗中模索していたのだった。
「何と言う事だ…。」
「どうしたんだ?」
「兎に角大変なんだ。あの時の生き残りを呼ばねば…。」
博士は今まで見たこともない形相で、真剣にモニターを睨み付けている。
「あの、一ヶ月ほど前にビックウェーブカップがあっただろうー。」
「あぁ、奴と日々谷がでたレースか?あの、糞忌々しい野郎が…。」
「そうなんだ。その者の能力を分析したんだが、なんと恐ろしい事が解ったんだよ!」
「日々谷を飲み込んだ事か?」
「それもあるが、このアスクレピオスでモーメントの激しい揺れを関知したんだ。80%の確率でこの街全体で大災厄が起きるぞ!」
アスクレピオスと呼ばれた装置は直径1メートル程の土星型の形状をした模型であり、そこから電磁波の流れを関知することが出来る。中でもVXから流れ出る電磁波は特徴的でかなり強い傾向にある。
青木博士は、独自の方法で例の生き残りの2人を自宅の研究室に呼ぶことにした。
「わざわざ来ていただいてすみません、20分ほどお時間頂いても宜しいでしょうか?」
「お前、大鳥カケルか?」
三澄が頭をかきながら、まじまじとカケルはを凝視していた。
「はい。そうですけどー。それが何かー?」
カケルは真剣に装置のメーターを確認している。
「今回俺らが呼ばれたのは、例の事件の目撃者だからか?それとも他に何かあるのか?」
「ええ、今回は貴方達を守るために呼びました。」
「あ、大鳥カケルかー!最近ちょくちょく見るよなー。」
来栖はお祭りにいってるかのように、陽気にラップを口ずさんでいた。
「おい、もっと音量下げてくれないか?」
三澄は苦いものでも口にしたかのように顔をしかめている!
「あ?漏れてないよな?音ー。」
来栖はヘッドホンの音量を確認すると、カケルの方を向いた。
「えぇ、何も聞こえてませんがー?」
「はぁー、これだから嫌なんだ。俺の能力はー。」
トリスタンは軽く貧乏ゆすりをし、コーヒーをすすった。
「何て言うことだ!?」
奥の方から博士の悲愴感漂う声が漏れてきた。
「博士、どうした?」
「私の家のセキュリティは完全だぞ?しかし何故ー。」
「しかし、何故かー。」
奥の暗がりの方から低く透き通る声が聞こえてきた。奥から、長髪の美青年が姿を現したのだった。
「お前は、月宮だな?」
「大鳥、知ってるのか!?」
「先日はリゲルが御世話になったよ。」
「日々谷をどうしたんだ?」
「どうもこうもー。彼女は僕の可愛い可愛い人形さ。」
月宮は、博士の方を向いた。
「やぁ、青木君。僕を覚えているかい?」
博士はお化けを見るような目で、小刻みに振るえていた。
「いやー、お久しぶり。オリンポスは相変わらず侘《わび》しいもんだね。」
「ー何故私の家なんかにー?」
「何故って、僕は君のこの素晴らしい宝に用があるんでね。」
月宮は目の前にある、アスクレピオスに軽く手を触れた。装置は、強い静電気を起こした。
「これは、渡さんぞ!お前に使える代物じゃないんだー。ほんの少しでも使い方を誤れば、大惨事に……」
「ふぅーん、使えない
使えない
か…。」月宮は興味ありげに、博士の製作した無数の装置をまじまじと眺めて回った。
「でも、やっぱり僕はコレが一場番欲しいなー」
月宮は微笑みながら、アスクレピオスを眺めていた。
その瞬間、青い電磁波がイリュージョンの如く、月宮の周囲を取り囲み、彼は動けなくなった。そしてすっぽりオシリスの泉に飲み込まれた。
「やれやれー」
月宮は、軽くため息をついた。
「君たち人はいつも同じことをするー。」
「2人とも、あっちのバリケードの中へー。」
カケルは2人を向こう側に促した。
「おい、ここは何なんだよ!?」
来栖は戸惑っている。
「奴は元は俺と同じタイプのジェネシスだったんだよー。」
「え、でもコイツから何も感じないぞ!?」
「それが奴の能力さー。奴は今、サイボーグだ。」
三澄は額から汗をかきながら、月宮を睨みつけている。
「ー、え!?コイツはマシンなのかー!?」
来栖は、何かを感じたかのように身震いをした。
「ミライ、やれ。」
ミライは、チーターの様なスピードで2人目掛けて突進してくる。
「2人とも早く逃げて!!!」
カケルは瞬時に二人を仕掛けの裏口に誘導すると、突進してくる日比谷を背負い投げした。日比谷は、15メーとる程軽く吹っ飛ぶと、バッタのように天井を跳ね、カケルにドロップキックを食らわした。カケルは日比谷をかわすと、10メートル程間合いをとった。
「やれやれ、時代が変わっても科学が進歩しても、君たち人の思考原理はいつも同じ。まるで発展途上だよ。」
天使のような美貌の男は悪魔の様にほくそえむ。
「ミライ、今は止めるんだ。楽しみは後に取っとかないとー。」
すると、再びドロップキックを再開しようとした日比谷の動きはピタリと停止した。と、同時に博士の身体は鉄の様に段々重くなっていった。
「成程。強い者には最強の攻撃を仕掛けるー。何と言うか、単純だね。」
どういうわけか、彼には攻撃が効かないのだ。まるで、イリュージョンにかかったみたいである。
「大鳥レイジは、勇猛果敢で聡明でエネルギッシュな存在だったよ。まるでヘラクレスだ。でもあのサソリ
あのサソリ
に殺られてしまうなんて、滑稽だよー。」「ならば、お前がレイジを越えることは不可能だと言うことを、この剣《つるぎ》で教えてやろうか?」
「カケル君、よすんだ!」
カケルは這いつくばる博士の制止を無視した。そして月宮目掛けてクレイモアを振るい、猛火の勢いで向かった。カケルの端正な顔立ちは般若の形相になっていた。
月宮は薄ら笑いを浮かべながら、身動き一つしていない。不思議な透明のような分厚い気圧は、カケルをバスケットボールのように30メートル後方へ弾き返した。
「博士、知らないかい?ジェネシスは、強い者から順にS級からC級の、4つの階級にランク付けされるんだ。世界中のおよそ100万人ものジェネシスの内、大半がB級かC級だが、その内の10%がA級クラス、5%がS級に振り分けられるのだ。そしてここに居るカケルクンと逃げた2人はA級クラスだね。」
「知っていたさー。だから、こうしてー。」
博士は、しきりに自身の体を動かそうとした。しかし、身体は岩のように動かないー。
「そしてS級は、A級から下より異次元のパワーを有してんだ。」
月宮はカケルに歩み寄ると、飄々と彼を蹴りつけた。猛烈な蹴りがカケルの肋骨を直撃した。カケルは、鉄パイプが突き刺さるような痛みで悶え苦しんだ。
「カケル君、僕は元はS級のジェネシスなんだよ。最新のVXなんて屁でもないのさ。実はね、君の父親も大鳥レイジも元はS級だったんだよ。」
そして月宮は、息もつかぬ間に2発3発と、カケルに強烈な蹴りを食らわした。カケルは潰れた蛙ように這いつくばり、床にへたりこんだ。
「見てみたいと思わないかい?あの英雄《えいゆう》と呼ばれた男の息子が、A級からS級へ変貌する様をー。」
天使の様な悪魔は、大胆不敵に薄ら笑いを浮かべていたのだった。