第32話     堕天使の羽    ⑤

文字数 3,954文字

辺り一面、眩い青白い光が覆い尽くした。リゲルは、光に包まれながら冷徹にカケルの能力を分析した。

ー大鳥カケルの能力は、電磁波の流れを読み取りその流れを変える事ー。
多分、白鳥が造ったカマキリ型のマシンにもそうやって仕掛けを仕込んだんだ。彼の電磁波の流から内部の構造を読み取り、彼の身体に自分の電磁波をぶつけて流れを操作した。そして、マシンの身体にガタがつき、自然と壊れた。
多分、カマキリの内部から各組織の電磁波の流れを変えたのだ。それでマシンは、身体が脆くなりそれで戦闘不能になったー。
大体の動きは掴めてきたー。

「お前ー、何で俺とカノンの事を知ってるんだ?」

「私も当時はアルカナの一員だったからな。ジェネシスの事は、一通り憶えているよ。そもそも何で、#自動人形__オートマドール__#とジェネシスが造られたか根本的な理由は、知ってるか?」

「俺達の役割は、スクラップになった#自動人形__オートマドール__#を回収する事だ。それ以外に何もない。」

「成程。知らないのか?『ショー』だよ。ショー。」
リゲルは、ワイヤーに縛られながらも余裕の表情を浮かべていた。それと共に自身の身体に
「近代は平和で富裕層は、退廃してる。彼等は強く刺激を求めてるんだよ。#自動人形__オートマドール__#とジェネシスは、金持ちの娯楽の道具でしかならない。資産家達が沢山金をつぎ込み、ギャンブルに興じる。レースで戦いマシンと戦い、負ければ命を落としかねない。言わば『玩具』なのだよ。アストロンと繋がる扉が開いたのも、金持ちが刺激を求めた結果なのかも知れないがな…」
リゲルは顔色一つ変えずに淡々と話す。その間にカケルのワイヤーを掴むと、溶かそうとした。
 カケルはそハッとしながらも、力を強めた。
 #自動人形__オートマドール__#は、元々は産業の効率化や人間の生活に寄り添う為に造られた。現在、孤独な人や貧困層もマシンの恩恵を受けている。自分達ジェネシスの仕事は、スクラップとなったマシンを回収する事ー。
 前からリゲルの言っていた事は勘付いてきたが、実の父や大鳥レイジ、自分のしてきた事はただのマッチポンプでしかないと言う事になるー。穴の空いたバケツに注水する様なものだ。カケルは大鳥レイジが今まで開発して事を否定する事になると思った。リゲルが、自分の認めたくない根幹の領域にまで口出ししてきて、カケルは怒りと恐怖と言う複雑な感情で支配された。
「人外の化け物め。貴様の演説はここまでだ。」
カケルの瞳は青白く光った。リゲルの身体全身にひびが入るー。リゲルの両腕両脚はビキビキ音を立てながら、粉々に粉砕されていくー。

ーこれが、大鳥カケルの最大限の力か…

 リゲルは顔色一つ変えずにカケルを見ると、青白い炎の渦に飲ま込まれていった。

 ミライはふとアリスを見た。アリスは、再び動きを停止していた。どういう事か、このマシンはカケルの電磁波に弱いのだろうかー?ふと、カケルを助ける為にこのマシンを倒すべきだと言う、脳からの司令の様な物がきた感覚を覚えた。しかし、一方でそれを拒絶している自分がいた。

ー自分は、組織のジェネシスなのだー。
 
 すると、ミライの胸ポケットにある通信機が鳴り出した。
『ミライ!今まで何処に行ってるんだ!?時間だぞ。』
「…はい。ちょっと、気になった事があるので…」
ミライは、そう言うと、カケルとリゲルを視界の端に入れた。その時、ドクンとミライの心臓が高鳴り、脳にキーンと言う耳鳴りが響いた。

ー大鳥カケル…昔、見た憶えが…

 ミライはしきりに頭を押さえながら、その場を後にした。


 アリスは再び動きを開始した。翼を拡げ、2人目掛けて矢を放った。
「悪い。野暮用を思い出した。お前との遊びも、次の機会としようー。」
リゲルは両腕両脚を逆再生したかのように素早く元に戻した。そして器用に矢を避けると、2階まで高飛びしその場を後にしたのだった。
「待て!!!」
 アリスは、カケル目掛けて羽をドリルの様に伸ばした。
 カケルは舌打ちすると、自身の構えていた、長剣で応酬した。剣から青いオーラが炎を纏い、そしてアリスの片翼目掛けて切り込んでいった。片翼は炎に包まれながら、激しく蛇行し波打ち再びカケル目掛けて襲い掛かってくる。
 カケルは、剣を構えると、翼目掛けて全身全霊を振り絞り切り込んでいった。剣と翼がぶつかると、その衝撃で突風が巻き起こった。その突風は悪魔が降臨したかのような世界の終わりを感じる位の地獄のようであった。
 カケルはその渦に飲み込まれないように、ワイヤーで自身の身体を樹木に固定すると、ひたすら体勢を立て直した。
 建物の柱がガタガタ静かな音を立てながらヒビが生えてきている。カケルは再びアリス目掛けてチーターの様な素早さで剣を振るい突進していく。アリスは両翼をドリルのように素早く回転させると、カケル目掛けてその両翼で襲い掛かってくる。カケルは脱兎の如く素早さで翼を避けると、アリスの頭部目掛けて剣を振るうー。

ーコイツの電磁波の流がイマイチ読めないー。複雑で電流の流れも一定方向じゃないー。どういう事なんだ…?

 アリスはVXではないー。動きはモデルとなったの人間の性格や言動を模倣したものだ…性格も元の人間を極力真似たのだ。
 このマシンは、誰が造ったのだ…?並のVXの倍以上の殺傷能力がある。
 カケルの長剣とアリスの両翼が激しく音を立て、軋んだ音とバチバチと花火の様な光線を放ちながら、激しくぶつかり合う。ぶつかる度にカケルは強力な引力に引き寄せられそうな感覚を覚えた。カケルは再び自身の身体を樹木に固定すると、両脚を踏ん張りながら全ての力を振り絞り剣で切り込んでいった。
 アリスは目を紅くさせ、カケルをじっと見つめていたー。その紅く深い瞳はただじっとカケルを殺すー。ただそれだけを考えていたのだった。


 ミライは、組織の集会にたどり着いた。
「遅かったじゃないか。ミライ。お前は、今まで何処で何を道草していたんだ…?」
広間の教卓に、白い帽子に白装束を着た初老の男が大声を出してきたを
「あの…マキナというVXをご存知ですか…?」
ミライは恐る恐る尋ねた。
「マキナ…?あれは、只のマネキンではないのか?」
「…いいえ。マネキンではありません。動いていたのですから…」
「そんな筈はない。そのマネキンは、200年以上も前からそのままなんだよ。何を馬鹿げて…」
「でも、あの時、ちゃんと戦ったんです。その証拠がコレです。」
ミライは背負っていたリュックの中からバラバラに解体したマキナの部品を取り出して見せた。
「コレは、見覚えのないパーツだぞ…」
上官は、目を細めながらじっくり眺めている。
すると、部品の一部がカタカタと小刻みに激しく震えた。
「コレは、例のアレではないのかね…」
「は、早く、逃げるんだ…!」
「コレを持ち出して来るだなんて…!」
その場が騒然となった。
その部品は、マシンの脳に当たる部分と思われた。ミライは、右脚で強く踏みつけた。すると、強い光を放ち、ミライはその衝撃で10メートル後ろに押し出された。
「は、早くこの場を出ねば…!」
会場にいた者達が、一斉にドアを開けるとその場を去ったのだった。
 上官とミライは呆気に取られながらその部品を眺めていた。すると、他の部品もカタカタ激しく震え全ての部品が宙に浮き、脳に当たる部品から、マキナの声が漏れ出した。
『日比谷ミライ…まさか、これで全てが終わったと思っていたのですね。良いでしょう。これから、計画を実行に移します。』
「け、計画…?」
 ミライは不安に感じながらも体勢を立て直した。すると、眩いカナリア色の光が辺りを包み込んだ。ミライと上官は目を覆った。
 すると、部屋の至るところにガタガタ激しく軋みが起き、二人はその場を出ようとした。しかし、その光は重く二人は地面にへばりついていた。その揺れは段段と強くなっていき、建物全体に深い亀裂が生じた。ミライは軽く悲鳴をあげ柱に掴まりじっと固まっていた。
「ま、まさか、これは…!?」
上官は、柱に掴まりながら瞳を小さく揺らし、その光景を見ていた。
「上官、知ってるんですか…?」
ミライは上官の方を向いたが、彼は依然として固まったままであった。
 その時ー。再びミライは激しく頭痛を覚えた。その光景は、まさにデジャブの様なものであったー。幼少時の自分が年上の少女に手を引かれてしきりにマシンから逃げていくー。その追いかけてくるマシンの発する光と同じ様な物を憶えたのだ。
 自分は、何か、重要な事を忘れていたー。早くそれを思い出さねばならないー。その、年上の少女が強い鍵を握っていると言う事を、直感で強くそう感じたのだ。

『日比谷ミライ…貴女は今まで組織の駒として悪事を働いてきました。私は貴女にそれを望んではいません。新世界の発展の為に、共に…』
「ええい、黙れ!」
上官が鋭い形相で宙に浮かんでいるパーツを睨みつけた。彼は、明らかに何かを隠しているようだった。

ー駒…悪事ー?

 自分は、今まで上に命じられるがままの事をしてきた。ジェネシスを倒せと言われたから倒す。VXを手助けしろと言われたからそうしてきた。悪事なぞ働いていた憶えはない。
すると、再び脳内で、キーンと言う強く高い音が木霊してきた。
 ミライは、自分の手を引く少女の、昔見た年上の女性の顔がぼんやり浮かび上がってきた。

ー貴女は、誰…?誰なのよ…?

二人はは強い重力に襲われ、身動きが取れないでいた。

 すると、その時だったー。ミライは激しく頭痛を覚えた。そして、その少女のー、その女性の顔が鮮明に浮かび上がり、走馬灯の様な映像が脳内再生されたのだった。それと共に朱色の眩い炎が空間全体を覆い尽くしたのだったー。
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