2 三つの戦士

文字数 2,345文字

 ここは西暦2099年。

 ――黒いアマトとなりアマナムと戦い、体力を奪われた男はとある建物の前で力尽きていた。

 人の家、いや、これは大学の施設か? 男は薄れる意識の中で思う。
怪物との戦闘の後、男はどうにか逃げきったが、余りの疲労と空腹でまともに動くこともできない。

 黒いコートに黒い革の手袋、そして白人の様な顔立ち。
 漆黒のアマトとなるこの男は、何度となく怪物に遭遇し、その度に戦い、逃げ帰った。
 彼はもう心身ともに限界であった。
 おれはなぜ戦わされるんだ。戦いを避けられないんだ――
 そんな怒りと恐れの中、彼は意識を失った。

――目覚めると、男はベッドの上にいた。
目の前にいる、背の小さく愛らしい面容の女性がそうしてくれたのだと思った。
女性は効く。日本語は話せますか? と。
男は金色の髪をはらい、少し苦しそうな表情で答えた。
ああ、大丈夫だ、と。


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そして四十川たち。

 四十川がニコニコしながら元気よくアマトだと告げると、女性は頓狂な声で驚いた。
 それと同時に、建物の二階から物音がするのが聞こえた。

「……? 中に誰かいるのかい?」

 四十川が問うと、女性はなぜかバタバタしながらアワアワしている。無頓着そうな長い髪の毛、秋よりも小さな身体、そしてその身体をすっぽり包むかのような白衣。どうやらあわてんぼうの女性のようだ。

「……大丈夫かアンタ?」 四十川は色々な意味で聞いた。

「……は、はあはあ……、大丈夫、です……。先程、表で倒れていた人がいまして、すこしアタフタしているもので……」

 そう言うと白衣の女性は心配そうに階段の上の方を見つめた。なんかあるんかな? 四十川も同じ方向を見たがただ階段が見えるだけだ。

「……! そ、そういえば、そうですよ! あの、胸の大変大きなあなた、ほほほ、本当にアマトで……!?」

――アマト? アマトがいるのか?
 そう思ったのは上の階のベッドで寝ていた、黒いコートに身を包んだ男。彼は下の階からアマトという言葉が聞こえた瞬間眼を開け、ゆっくりと立ち上がった。

「――そうか。なんかよく分からんけど大変だネ。ところでお願いなんだけどサ、疲れたんで中で休ませてほしいのと、アマトってのとかこのよく分からん大学のこと、聞かせてくんないかい?」

 下の階にいる四十川は気さくそうにそう言う。ちらりと自分のいる玄関から中を見てみたが、床の抜けそうな廊下にいくつかの薄緑のこれまた塗装のはげた扉が見えるだけで、他に人の気配は感じなかった。――いや? 今二階から物音がしたかな? 四十川は思った。

「……え! そ、それですよそれ! あ、あなたさまは、アマトなんですか!? 本当だとしたら、そこの所をよくお聞きしたいのですが……」

 女性は小さい身体と子供の様な困り顔でぎゅうと四十川のズボンを掴んでいる。
 いや、見た目だけなら本当にどこか少女のようだ。

「あ~もう何なんだよこの嬢ちゃんはよォ! 聞きたいのはこっちだい!」

 四十川がそう言った時、二階から乱暴に男が降りてきた。
 この真夏に黒のロングコート。金髪に青とも緑ともつかぬ浅葱色の瞳。起きたばかりなのかそれとも何かの疲労ゆえなのか、余り健康そうな血色ではない。

「…貴様、アマトなのか? 本当か――」

 男は白衣の女性を強引にどけさせ、四十川に迫った。何とも、鬼気迫る、それでいてどこか安堵しているような表情で。

「オウオウそうだよ。なんかすごい神々しい人に言われたモン。つーかあんた日本語上手――」

「……拳に印はあるか? 変身したときのだ」

「……印? なんじゃそりゃ。」

 四十川は男の方を悪戯っぽく軽く睨みながらそう言っている。ちょっと雰囲気が怖いなあ。 横にいる秋は思った。

「……知らんのか? そんな事も知らず、アマトなどと……。フウ、ただの勘違いか……」

 男は呆れた様子で四十川を見た。だがちらりと四十川の左の拳を見た時、男は驚いた様に呟いた。

「やはり…… アマトか!? ……しかし何故変身もせずその印がある!?」

「ホ~ラな言った通りだろ…… ってなんじゃこりゃあ!」

 四十川の左手の甲には、ビー玉ほどの、鈍く黒光りする石の様なものが埋め込まれていた。

 ……!? この女は何故左手に…… 色も我々のものと違う……  
それも変身もせずに…… そしてなぜそれを知らぬ……?
 男はそう思いながら四十川を、意味の分からないものを見る目で睨んだ。
 四十川は、こいつあたしに惚れやがったなとちょっと思った。

「あの! ええと!」

 白衣の女性が二人に割って入った。ぴょこぴょこ動いている。
 これは互いを沈めさせようと思ったのか、ただの天然なのか、四十川はわからなかった。

「あの、そ、そうですね! 背の高く、身体もダイナマイトなあなたは、驚くべきことにアマトのようですし、昨日外で倒れられていた白人のあなたも大変アマトについて詳しいようです。ちょっと事態がつかめず混乱しておりますが、良ければこのアマト研究所で――」

「アマト研究所……?」

 金髪の男が怪訝な顔をした。そして白衣の女性を睨んでいる。

「あ、倒れられていた方にはお伝えしておりあませんでしたね。
ここはアマト研究所なのです。ですが……」

 白衣の女性が続けて何か言おうとした時、表で大きな音がした。

―――怪物が、暴れているのだ。
 そして、重厚なメカニカルスーツをまとい、けたたましく弾丸を発射して戦う蒼き戦士RXが、そこにいた――――
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