4 蒼と黒

文字数 3,731文字

「――のニュースです。
国衛軍の対アマナム特殊部隊、ACSEED所属の人型装甲特殊スーツ
「RX」、通称アレックスが、〇〇町に現れたアマナムを倒すことに成功しました――

――街では国衛軍を、ACSEEDを称賛する声がある一方、軍の増長だと非難するデモなどが見られますが、警察の無力を批判する声も聞こえるとのことです――」


 ―――ここは西暦2099年。
 そう、四十川たちとは遠く離れた世界。

 人々は謎の怪物「アマナム」の脅威にさらされていた。
 人々の中から現れ、どういう訳か特定の人間に狙いを定めて襲っていくアマナム。
 だが人間も怯えるだけではなかった。
 今、人間の技術の粋を集めたヒーロー、とも言うべき「RX」が、怪物アマナムを倒すために出動しようとしていた。


「一般市民より通報。××地区〇〇地点において、アマナム出現との一報」
 
 様々な機器に囲まれた、格納庫のような場所。
 そこに何とも存在感を放って鈍く光る蒼色にして人型の機械。そしてそのボディの隅々に見られる、重厚感のある装甲と機械部品の数々。
 大きさは2㍍も近い。いくら機械に囲まれているとはいえ、この人型の特殊装甲スーツは、その場所において異彩を放っている。

 一人の男が入ってきた。続いて何人かの作業員らしき者も入る。そして人型にして蒼色のそれは、手や足、胴など各部が自動的に開いていく。
 脚先から頭まで、男は蒼色のそれについにすべて包まれてしまった。

饗庭(あえば)中尉、出動です。」

 出動の指令ともに、蒼色の戦士となった男は歩き出した。


 夜の街――
 屋根ガラスの向こうとの対比で、アーケードの中はひたすらきらめいて見える。
 街の中心、駅と直結したそれは、3階建ての、白を基調に欧風の堂々たる威厳漂う造りで、まるで外国にいるようだ。
 だがそんな中を若者たちが、アベックが、酔っ払いが、様々な者たちが自由に行きかっている。それはその威厳なる雰囲気を、少し壊してしまっている気もしなくはない。

 だがその雰囲気を、さらに壊す者が現れた。
 女性の大きな悲鳴……いやそれではない。
 白のゴシック調の柱をバックに、怪物が立っているのだ。

 全身は深い緑、形は人の様なそれを何ともまがまがしく成しており、まさしく化物である。
 そして頭部、これがまた異様であり、目、鼻、口があるはずの顔のほとんどの部分は黒くも鈍く光る石、の様な物に覆われている。――そう、どこか特撮ヒーローのマスクのように。
 そしてそのマスクのような黒き石の上下の両端からは、まるで猛獣の牙のようなモノが伸びている。――そう、どこか特撮ヒーローの、仮面のようでもあるのだ。
 だがその不可黄緑色の身体と全身からほとばしるまがまがしさ故、とてもヒーローなどには、見えないが。

 ――そう、この存在こそがアマナムである。
 アマナムはこの世界に幾多も存在するが、大まかな姿は個体により異なる、が、この黒い石のようなもので出来たマスク、というのは全ての個体共通なのだ。
 
 怪物アマナムは歩き出した。
 人々は逃げまどうが、自分のスピードで歩くのがやっとなほどの人口密度のアーケードの中である。店から慌てて出てくる者、パニックになる者、呆然とする者で溢れかえっていく。アマナムの近くにいる者は、人という人で満足に逃げることもできない状況だ。 
 だがアマナムは逃げきれぬ人々をなぎ払うだけ。どういう訳かそれ以上危害を加えようとはしない。さらには人間では考えられぬほど高く飛び跳ねて、これはなんと、人ゴミの中、わざわざ人がいないところを選んで着地していくのである。

 アマナムは、逃げまどう人々の中からどういう訳か特定の者に追いすがるように狙いを定めていった。
 アマナムは人ごみをなぎ払い、飛んで避けてはを何度かすると、一人の、まだハタチを超えたばかりの頃か、うら若くやけに肌を裸出した服を着た女の前に飛び降りた。そして同時に異形の掌を女に近づけ、そしてその顔を鷲づかみにし、高く掲げるように持ち上げた。

「きゃああああああああああああ」

 深い緑色の、元は人間だったはずの指が女性の顔に食い込んでいく。
 悲鳴は嗚咽にも変わり、今にも女性の命が絶たれると思われたその時、異形の怪物は背後から痛烈な一撃を受けた。するとアマナムは鈍く低い呻き声を上げ、ひとときの間ひるんだ。
 怪物の手から解き放たれる女性。そのあまりの事に呆然としながらも、泣きじゃくりながらその場から必死に逃げ去っていく。

「オイ、貴様喋れるのか?」

 アマナムを背後から撃ったのは、蒼き機械の鎧を身にまとった男。彼は怪物にそう尋ねた。
 だがアマナムはうめくだけで何も言わず、それどころか蒼き戦士、RXに目もくれず、先程の女性を追いかけていく。

「フン。喋れないか。……だろうな」

 蒼き戦士―RXは手にしていた、蒼い無骨大きい銃でアマナムを何度も撃ち続けた。
 怪物は立ち止まり呻き声をあげる。そして振り返って蒼き戦士の方を見、そしてもう一度逃げ去る女性の方を見る。
 何やら、迷っているようである。

 なぜこの化物は自分に攻撃してこない。やはり―― 蒼き機械の鎧に身を包んだ男はそう思った。するとそこで、アマナムは意を決したようにそのRXの方に向かってきた。

「やっとか…… だが!」

 蒼き機械の鎧は、その図体からは信じられない程の速度で怪物に向かって走った。
そして二つはぶつかり合った。

 アマナムはすさまじい力でRXを殴る。人間ならひとたまりもないだろう。だがRXは少したじろいだだけで、今度は怪物を殴り、蹴り、投げ飛ばす。
 いつのまにか、一方的な戦いである。

 するとアマナムは信じられない跳躍力で飛び掛かり、今度はRXを押し倒した。
 だがRXは素早く腰の武器を取り、それをアマナムの腹へと突き刺した。
 怪物は今までにないけたたましい悲鳴を上げる。そしてRXはダメ押しのように斬りつけ、刺していく。

ついに怪物は、動かなくなった。

「中尉、やりましたね。やはりアレックス…RXは強いです。アマナムの問題もこれで解決していくでしょう」

 アサルトライフルで武装した隊員のような男、身につけているのは迷彩服。彼はRXを身に着けた男、蒼き戦士へそう言った。まだ若そうな彼は、純粋で、羨望のようなまなざしで彼を見ている。

「ああ……。だが、いくらこのアレックス、RXが強くとも、全てのアマナムを倒すなど無理な話だ。全く、どうしたもんか……」

 絶命した怪物は、段々と崩れ、男がそれを足で小突くと脆くも崩れ去っていった。

 蒼き戦士たちは、アマナムの死骸を気に掛ける事も無く、その場を後にしていったのだった。


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 ここもそう、蒼き戦士RXたちが活躍する世界と同じ2099年。

 夜の繁華街、人々の行き交う場所。そんなところではあのRXが再びニュースを彩っていた。
 そしてそんな街の謙遜から少し離れた、夜の雑木林。
 闇夜に映える月光は、漆黒の身体の戦士と、深い緑の怪物、アマナムの姿を照らしていた。

 黒い姿の戦士、それこそはアマトであった。
 彼はこの2099年の世界に存在するアマトのうちの一人なのである。

 両者は向かい合ったまま、動こうとはしない。
 何処かで枝の折れる音がした。黒のアマトは大地を蹴り、闇夜に同化したかと思うと草木を避けながら素早く回り込み、背後からアマナムに襲いかかった。アマナムは倒れ呻き声をあげたが、再び起き上がると今度は黒いアマトに襲い掛かった。

 黒いアマト、それはある男が変身した姿である。
 彼は決して進んで戦いたい訳ではない。
 だが、男の意志に関わらずそれらは、アマナムたちは襲ってくるのだ。
 アマトを襲う、それが何故かはわからない。だがそれがアマナなのである。
 黒いアマトは一瞬の隙を突きアマナムに一撃を食らわせると、闇夜の木々に紛れ素早くその場を後にした。
 月明かりに照らされたその姿は、どこか騎士の甲冑を思わせ、しかし全身は確実に脈動し、右手の甲には眼球ほどの大きさの、鈍く紅く光る石の様なものが身体に埋め込まれている。
 それが2099年の世界、そこに確かに存在するアマトの特徴でもある。

 アマナムを完全に振り切ると、黒いアマトは人の姿に戻った。月夜に映える金の髪、よく通る鼻筋、そして青色とも緑色ともつかぬ瞳。
 男は疲れていた。怪物から逃げるため国を離れここまで来たが、それでも奴らの手からは免れられなかった。

 激しい披露、もうろうとする意識。男はあてもなく彷徨った。そして少し都会の明かりが見えてきたころ、月夜に映える並木道が目に入った。男はそこを歩き、どうやら自分がいる場所が大学であることに気付いた。

 だが、男に残された体力もそこまでだった。男は月明りの大学の、一つだけぽつりと立つ建物の前で力尽きたのだった。
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