1 繋がる世界と
文字数 2,643文字
―――四十川が変身し、そして3人が世界が回るかのような不思議な感覚に襲われたのち、
3人は、いつの間にか意識を失っていた。
四十川が目を覚ますと、3人は芝生の上にいた。
四十川は自分の身体を見てみた。ロングパンツ、ロングブーツにニット。身体は元に戻っている。
あの姿は何だったんだ? もう終わりかよつまんねー! つーか夢か? そう思いながら2人を起こした。
「え? センパイここは?」
「……? いつの間にワタクシたちは大学に戻ったのですかな?」
周りを囲むゴシック建築、石のベンチに吹き出る噴水。3人が寝転がっていたのは、彼らが見た事も無く知りもしない、おそらくは大学の、誰もいない中庭の芝生の上だった。
「でもさあ、ウチの大学こんな中庭あったっけ。あたし見たことねーぞこんなトコ」
四十川は葉っぱを青々と付けたサクラの木を見ながらそう言った。少し違和感を感じる。
そして、何やらやたらに暑さを覚えた。
「確かに……。この壮麗な白を基調としたゴシック、こんな建物はウチの大学にはなかったかと……」
そう言うと字浪は石造りのそれをペシペシと叩いた。確かにそれは温かかった。
よく見ると、3台の自転車と買った酒やつまみも転がっている。秋と字浪は、青々とした芝生に転がるそれらを四十川の命令で片付けた。
「おい、ちょっと待て。おかしいぞ」
四十川は気付いた。いや気付いていた。
青々とした芝生、建物より高く伸びる、日の光を浴びて青く輝くイチョウの木。
四十川たちは冬休み明けの季節を過ごしていた。こんな事はあり得ない。
「ほんとだ…… 変ですよ…… 真冬にこんな……」
「真冬? こんなに暑いのにか?」
四十川は着ていたニットも脱ぎ捨てTシャツ一枚となった。
「と、とにかくココは変ですな。出ましょう」
自転車を押し、中庭を出る。
そしてそこには、3人が見た事も無い、壮麗で荘厳なキャンパスが広がっていた。
真っ直ぐに伸びる石畳の道、それを囲む青々とした芝生。透き通った池の中に吹き上がる噴水と、その向こうの赤レンガの雄大な時計台。
そして学生たちは、広々としたキャンパスを涼しげな格好で行き交っている。
「あら~。ドコかねここは」
「えっとぼく、こんなところ見た事も無いんですけど……」
「まあ、ワタクシたちのいた大学ではありませんなあ……」
学生が行き交う中、大理石のベンチが1つだけ空いている。四十川たちはそこに座り、何も言えず青々とした空を眺めた。
間違いなくそこは、見た事も無い場所、なのだから。
「なーんか、スゲエことになったな。とりあえずそれしか言えんわ」
「はい……」
「はあ……」
3人は自分たちの身に起きたことを確かめ合った。
謎の人物に出会い、そのせいなのかどうなのか、四十川は姿を変えた。そして四十川が変身ゆえの驚異的な身体能力を見せたのもつかの間、
気付けば見知らぬ土地にいたのだ。
「……まあアレだな。考えててもしょーがない。歩くか!」
捨てるわけにもいかないので、3人は自転車を押しながらキャンパスを歩くことにした。
どう考えても季節は真夏、ミンミンとセミが軽やかに鳴いている。
3人ともできるだけ涼しい格好になり、周りの人間に話すこともせず、
ただトボトボと壮麗な石畳の道を歩いて行った。
変わる季節、見た事も無い場所。
四十川は暑さとその身に起きたことで頭がコンランしそうだったが、とりあえずさっきの朱いあの戦士の姿、あれにもう一度なって暴れてみたい。道行く学生を見ながらそう思った。
すると学生が1枚の紙を落とした。四十川はそれを拾う。
『2099年度、夏季集中講座について』
拾った紙の冒頭には確かにそう書かれていた。
――?! 2099年? 印刷ミスか? でももしかして、そういうコトもありえるよな!?
……二人にこれを見せようか、見せまいか――
四十川がワクワクしつつ悩んでいると、3人はいつのまにやら人気のない、大学のものなのかそうでないのかわからない、畑や野っぱらばかりの場所へ来ていた。大学らしいものと言えばイチョウの並木くらいである。
いやその中に唯一、大学のものらしい2階建ての、和洋折衷の古びた木造建築があった。
そして四十川はその建物の入り口に掲げてある、明らかに手書きの人間大の看板を見つけた。
先程拾った紙を知りのポケットにしまい、四十川は立ち止まった。
「? センパイどうしました?」
「あの看板――」
そこに書いてあるのは、『アマト研究所』という文字だった。
「あまと……?」字浪はピンと来ていない。
「なあ、あの時綺麗な顔のにーちゃんだかねーちゃんだかが言ってたのがアマトだよな?」
四十川は姿を変えてしまう前、あの謎の人物が言っていたことを再び思い出した。
――アマトとして戦ってください、と。
「あーそうでしたな。四十川氏がアマトだーなどと言っていたらヘンシンしてしまったのではないですか。あーもう何が何やら」
「そうそう。つーことはさっきの姿がアマトってことだよな。んであそこには、アマト研究所と。行ってみるしかないねえ」
四十川はフンフン言いながらアマト研究所と書かれた建物の方へ歩いて行った。とりあえず仕方がないので二人もついて行く。
近くまで行ってみれば、白衣などに交じって女物の洗濯物が干され、
横にある畑にはジャガイモが植えてあり、3人が見た事も無いエンブレムのワンボックスカーのような車が止まっている。まるでちょっとした家だ。
「ン? これ人ん家じゃねーの? ダイジョウブかこんなの……」
四十川はところどころ塗装もはげ、金具も錆びついた玄関の扉を見た。築半世紀はいってるな、勝手にそう思った。
「でも研究所って書いてありますよ。手書きですけど」
「インターホンがありますな。ぽちっとな」
字浪がそれを押す。数秒の静寂の後、ハーイという可愛らしい声が小さく聞こえ、ガチャリと扉が開いた。
「緋仙道さんですか…… えっ?」
扉の先にいたのが思っていた人物と違ったのか、女性は小さく頓狂な声を上げた。
「おーすこんちわ~。あたしアマトで~す」
「えええ!」
四十川が元気よくそう言うと、 女性はまた頓狂な声を上げたのであった――――
3人は、いつの間にか意識を失っていた。
四十川が目を覚ますと、3人は芝生の上にいた。
四十川は自分の身体を見てみた。ロングパンツ、ロングブーツにニット。身体は元に戻っている。
あの姿は何だったんだ? もう終わりかよつまんねー! つーか夢か? そう思いながら2人を起こした。
「え? センパイここは?」
「……? いつの間にワタクシたちは大学に戻ったのですかな?」
周りを囲むゴシック建築、石のベンチに吹き出る噴水。3人が寝転がっていたのは、彼らが見た事も無く知りもしない、おそらくは大学の、誰もいない中庭の芝生の上だった。
「でもさあ、ウチの大学こんな中庭あったっけ。あたし見たことねーぞこんなトコ」
四十川は葉っぱを青々と付けたサクラの木を見ながらそう言った。少し違和感を感じる。
そして、何やらやたらに暑さを覚えた。
「確かに……。この壮麗な白を基調としたゴシック、こんな建物はウチの大学にはなかったかと……」
そう言うと字浪は石造りのそれをペシペシと叩いた。確かにそれは温かかった。
よく見ると、3台の自転車と買った酒やつまみも転がっている。秋と字浪は、青々とした芝生に転がるそれらを四十川の命令で片付けた。
「おい、ちょっと待て。おかしいぞ」
四十川は気付いた。いや気付いていた。
青々とした芝生、建物より高く伸びる、日の光を浴びて青く輝くイチョウの木。
四十川たちは冬休み明けの季節を過ごしていた。こんな事はあり得ない。
「ほんとだ…… 変ですよ…… 真冬にこんな……」
「真冬? こんなに暑いのにか?」
四十川は着ていたニットも脱ぎ捨てTシャツ一枚となった。
「と、とにかくココは変ですな。出ましょう」
自転車を押し、中庭を出る。
そしてそこには、3人が見た事も無い、壮麗で荘厳なキャンパスが広がっていた。
真っ直ぐに伸びる石畳の道、それを囲む青々とした芝生。透き通った池の中に吹き上がる噴水と、その向こうの赤レンガの雄大な時計台。
そして学生たちは、広々としたキャンパスを涼しげな格好で行き交っている。
「あら~。ドコかねここは」
「えっとぼく、こんなところ見た事も無いんですけど……」
「まあ、ワタクシたちのいた大学ではありませんなあ……」
学生が行き交う中、大理石のベンチが1つだけ空いている。四十川たちはそこに座り、何も言えず青々とした空を眺めた。
間違いなくそこは、見た事も無い場所、なのだから。
「なーんか、スゲエことになったな。とりあえずそれしか言えんわ」
「はい……」
「はあ……」
3人は自分たちの身に起きたことを確かめ合った。
謎の人物に出会い、そのせいなのかどうなのか、四十川は姿を変えた。そして四十川が変身ゆえの驚異的な身体能力を見せたのもつかの間、
気付けば見知らぬ土地にいたのだ。
「……まあアレだな。考えててもしょーがない。歩くか!」
捨てるわけにもいかないので、3人は自転車を押しながらキャンパスを歩くことにした。
どう考えても季節は真夏、ミンミンとセミが軽やかに鳴いている。
3人ともできるだけ涼しい格好になり、周りの人間に話すこともせず、
ただトボトボと壮麗な石畳の道を歩いて行った。
変わる季節、見た事も無い場所。
四十川は暑さとその身に起きたことで頭がコンランしそうだったが、とりあえずさっきの朱いあの戦士の姿、あれにもう一度なって暴れてみたい。道行く学生を見ながらそう思った。
すると学生が1枚の紙を落とした。四十川はそれを拾う。
『2099年度、夏季集中講座について』
拾った紙の冒頭には確かにそう書かれていた。
――?! 2099年? 印刷ミスか? でももしかして、そういうコトもありえるよな!?
……二人にこれを見せようか、見せまいか――
四十川がワクワクしつつ悩んでいると、3人はいつのまにやら人気のない、大学のものなのかそうでないのかわからない、畑や野っぱらばかりの場所へ来ていた。大学らしいものと言えばイチョウの並木くらいである。
いやその中に唯一、大学のものらしい2階建ての、和洋折衷の古びた木造建築があった。
そして四十川はその建物の入り口に掲げてある、明らかに手書きの人間大の看板を見つけた。
先程拾った紙を知りのポケットにしまい、四十川は立ち止まった。
「? センパイどうしました?」
「あの看板――」
そこに書いてあるのは、『アマト研究所』という文字だった。
「あまと……?」字浪はピンと来ていない。
「なあ、あの時綺麗な顔のにーちゃんだかねーちゃんだかが言ってたのがアマトだよな?」
四十川は姿を変えてしまう前、あの謎の人物が言っていたことを再び思い出した。
――アマトとして戦ってください、と。
「あーそうでしたな。四十川氏がアマトだーなどと言っていたらヘンシンしてしまったのではないですか。あーもう何が何やら」
「そうそう。つーことはさっきの姿がアマトってことだよな。んであそこには、アマト研究所と。行ってみるしかないねえ」
四十川はフンフン言いながらアマト研究所と書かれた建物の方へ歩いて行った。とりあえず仕方がないので二人もついて行く。
近くまで行ってみれば、白衣などに交じって女物の洗濯物が干され、
横にある畑にはジャガイモが植えてあり、3人が見た事も無いエンブレムのワンボックスカーのような車が止まっている。まるでちょっとした家だ。
「ン? これ人ん家じゃねーの? ダイジョウブかこんなの……」
四十川はところどころ塗装もはげ、金具も錆びついた玄関の扉を見た。築半世紀はいってるな、勝手にそう思った。
「でも研究所って書いてありますよ。手書きですけど」
「インターホンがありますな。ぽちっとな」
字浪がそれを押す。数秒の静寂の後、ハーイという可愛らしい声が小さく聞こえ、ガチャリと扉が開いた。
「緋仙道さんですか…… えっ?」
扉の先にいたのが思っていた人物と違ったのか、女性は小さく頓狂な声を上げた。
「おーすこんちわ~。あたしアマトで~す」
「えええ!」
四十川が元気よくそう言うと、 女性はまた頓狂な声を上げたのであった――――