3 変化と力
文字数 2,519文字
四十川の姿は、すっかり変わってしまった。
グラマラスなる自分の身体が、一糸たりとも纏わずそのまま朱色へと染まった……
一瞬、四十川にはそんなふうにも思えた。
――その姿を何と現せばよいだろう。
ちょっとエッチなゲームやアニメなぞに詳しい者が見れば、そういった作品に出てくるような、全身に間違いなくフィットする朱いラバースーツのみを着用した女戦士、といったものにも思えるかもしれない。
だが、この姿はそういったものとは全く無縁。
朱くなった身体は、勿論ツルツルとなどしておらず、どこか荒々しい、まるで、屈強な生物の肌のような質感をしている。
それでいて四十川の顔は人間のままである。だが首から炎か何かのように朱色たる部分が伸び、それが頬にまで達している。そう、まるで紋様のように。
しかし四十川特有の、骨太で大胆にして妖艶な、美くもダイナミックなボディライン、曲線美は、朱い身体のままでも見事に健在で、そしてむしろこれは動きやすいためにだろうか、人からバカみたいにデカいと言われ続けてきたその胸と尻はなんと1回りほど小さくなっており、そして安定した形となっている。
そして四十川自身はその身体で感じている。
――湧き上がるかのようなエナジー
全身が、脳が心の奥底が、理屈を超越した、まるで人間から進化でもしてしまった様な力を感じている。
「えっなんだコレ! スゲーじゃんヤッホー!」
四十川は飛び跳ねて喜んだ。それも、常人には考えられぬ高さで。
「?!? こ、これ、何ですか? センパイの肌に張り付いているんですか?」
「え、どうだろ……」
四十川と秋が触ってみる。その感想は前述の通りであった。
四十川は自分で今一度マジマジと見てみた。よくよく見れば変身の影響か、いつもの四十川より幾何かガッチリとしているようにも感じた。そして動きやすいようにか、胸も尻もいつもより少しだけ小さめに抑えられ、どこかより安定した形をしていた。もう一度ジャンプしてみると、自慢の胸は揺れなかった。
「つーことは、これはあたしの身体それ自体が変化してるってコトだな? おっぱい揺れないとかおかしーモン。しかもちょっと縮んどるし~」
四十川はにやけながら言っている。
楽しいのだ。もしこれが万一夢でもあっても、なんて清々しい気分だろうと息を大きく吸い込んだ。
「ええ! 胸が揺れないとは残念ですなあ! ……いやいやいや、というかこれはどういう事なんですかな? ヘンシン、してしまうなど~」
「なんだよハゲ。ユメがねえなあ。あんただって毎週日曜朝起きて特撮ヒーロー見てんじゃんか」
「いやいや、そういうコトではなく……。ううん……」
字浪は事態がつかめず髪をガサガサ掻いている。もっとハゲたいのかと四十川は思った。
「……! というかこの姿! ワタクシが先ほど渡したデザインと、よく似ておる気がしますが……」
「……あ、ああ。さっきヘンシンするとき、なんとなくあんたのデザインを思い浮かべたんだ。それでこうなっちまったのかナ……」
四十川は自分の尻をペシペシする。
しかし自慢の柔らかく弾力抜群の尻は、まるで大型動物の皮膚かの様に硬かった。
しかし、思い浮かべた姿になってしまうとは。もっとかっこいい姿を想像すればよかったのかと四十川は少し後悔した。
「四十川氏、そんなにワタクシのデザインを気に入っていたのですな……! うう、嬉しいですぞ……」
「うっせーハーゲバーカ。……まーとにかく部室に帰るか! なんかよーワカランけどみんなにこの姿見せちゃお」
「ええ! 大丈夫ですかセンパイ? そんなあおっぴらに……」
「ダーイジョウブだって~。おっこの身体、スゲー身が軽く感じるぜ!フンフン♪」
四十川は自転車も忘れて、スキップで横断歩道を渡ろうとした。あまりの事に浮かれているのだ。
「ちょっとセンパイ! 信ご――」
「え?」
秋の叫びもむなしく、赤信号で横断した四十川の目の前にはトラックが迫っていた。
鳴り響くクラクション、叫ぶ秋と字浪。
一瞬の事に四十川にはどうしようもなく、ただ――――
「あーセンパイ!!!」
「そ、そんな四十川氏!!!」
その刹那、二人は目を瞑った。
しばらくして恐るおそるに目を開けた時、そこに映っていたのは……
ただのアスファルトだった。
「え?」
二人は素っ頓狂な声を上げた。
四十川はちゃんと五体満足で生存していたのだ。それも、信号機の上に乗っかって。
「お?」
四十川も意味がわからなかった。
四十川は、ぶつかる刹那に真上にジャンプしたのだった。そして信号機を掴み、その上に乗ったという訳だ。
四十川は高みからの景色をしばらく眺めると、そこから歩道までぴょんとジャンプし、すたと綺麗に着地した。
「ビックリさせないでくださいよも~」
「ううう、ワタクシもうだめかと……」
色々意味がわからないが、秋も字浪もとりあえずホッと胸をなでおろした。一方当の本人は嬉しそうだ。
「見たか? あのジャンプ力! やっぱあたしは凄い力を手に入れたんやなって……」
自転車を押しながら、四十川はものすごい上機嫌でいる。何だかよく分からないが、間違いなく凄い力を手に入れたのだから。
もしかしたら、憧れていたヒーローに、成れるのかもしれないのだから。
「しかし、マンガみたいな展開でしたなあ。わざわざ丁度トラックが来るなどと……」
「だろ? 最近流行の小説かマンガみたいに、異世界に行けるところだったのになアッハッハ」
「も~。センパイ全然緊張感ないんですから~」
「というか、あんなにジャンプしてしまうなど、四十川氏はもう人間では――」
その瞬間、目の前が、世界が、
まるでエネルギーが、オーラがほとばしったかのような紅一色に染まってしまった。3人にはそう、見えた。
そしてグルグルと回る感覚と世界、薄れる意識。
3人は一体、どうなってしまうのか―――――
グラマラスなる自分の身体が、一糸たりとも纏わずそのまま朱色へと染まった……
一瞬、四十川にはそんなふうにも思えた。
――その姿を何と現せばよいだろう。
ちょっとエッチなゲームやアニメなぞに詳しい者が見れば、そういった作品に出てくるような、全身に間違いなくフィットする朱いラバースーツのみを着用した女戦士、といったものにも思えるかもしれない。
だが、この姿はそういったものとは全く無縁。
朱くなった身体は、勿論ツルツルとなどしておらず、どこか荒々しい、まるで、屈強な生物の肌のような質感をしている。
それでいて四十川の顔は人間のままである。だが首から炎か何かのように朱色たる部分が伸び、それが頬にまで達している。そう、まるで紋様のように。
しかし四十川特有の、骨太で大胆にして妖艶な、美くもダイナミックなボディライン、曲線美は、朱い身体のままでも見事に健在で、そしてむしろこれは動きやすいためにだろうか、人からバカみたいにデカいと言われ続けてきたその胸と尻はなんと1回りほど小さくなっており、そして安定した形となっている。
そして四十川自身はその身体で感じている。
――湧き上がるかのようなエナジー
全身が、脳が心の奥底が、理屈を超越した、まるで人間から進化でもしてしまった様な力を感じている。
「えっなんだコレ! スゲーじゃんヤッホー!」
四十川は飛び跳ねて喜んだ。それも、常人には考えられぬ高さで。
「?!? こ、これ、何ですか? センパイの肌に張り付いているんですか?」
「え、どうだろ……」
四十川と秋が触ってみる。その感想は前述の通りであった。
四十川は自分で今一度マジマジと見てみた。よくよく見れば変身の影響か、いつもの四十川より幾何かガッチリとしているようにも感じた。そして動きやすいようにか、胸も尻もいつもより少しだけ小さめに抑えられ、どこかより安定した形をしていた。もう一度ジャンプしてみると、自慢の胸は揺れなかった。
「つーことは、これはあたしの身体それ自体が変化してるってコトだな? おっぱい揺れないとかおかしーモン。しかもちょっと縮んどるし~」
四十川はにやけながら言っている。
楽しいのだ。もしこれが万一夢でもあっても、なんて清々しい気分だろうと息を大きく吸い込んだ。
「ええ! 胸が揺れないとは残念ですなあ! ……いやいやいや、というかこれはどういう事なんですかな? ヘンシン、してしまうなど~」
「なんだよハゲ。ユメがねえなあ。あんただって毎週日曜朝起きて特撮ヒーロー見てんじゃんか」
「いやいや、そういうコトではなく……。ううん……」
字浪は事態がつかめず髪をガサガサ掻いている。もっとハゲたいのかと四十川は思った。
「……! というかこの姿! ワタクシが先ほど渡したデザインと、よく似ておる気がしますが……」
「……あ、ああ。さっきヘンシンするとき、なんとなくあんたのデザインを思い浮かべたんだ。それでこうなっちまったのかナ……」
四十川は自分の尻をペシペシする。
しかし自慢の柔らかく弾力抜群の尻は、まるで大型動物の皮膚かの様に硬かった。
しかし、思い浮かべた姿になってしまうとは。もっとかっこいい姿を想像すればよかったのかと四十川は少し後悔した。
「四十川氏、そんなにワタクシのデザインを気に入っていたのですな……! うう、嬉しいですぞ……」
「うっせーハーゲバーカ。……まーとにかく部室に帰るか! なんかよーワカランけどみんなにこの姿見せちゃお」
「ええ! 大丈夫ですかセンパイ? そんなあおっぴらに……」
「ダーイジョウブだって~。おっこの身体、スゲー身が軽く感じるぜ!フンフン♪」
四十川は自転車も忘れて、スキップで横断歩道を渡ろうとした。あまりの事に浮かれているのだ。
「ちょっとセンパイ! 信ご――」
「え?」
秋の叫びもむなしく、赤信号で横断した四十川の目の前にはトラックが迫っていた。
鳴り響くクラクション、叫ぶ秋と字浪。
一瞬の事に四十川にはどうしようもなく、ただ――――
「あーセンパイ!!!」
「そ、そんな四十川氏!!!」
その刹那、二人は目を瞑った。
しばらくして恐るおそるに目を開けた時、そこに映っていたのは……
ただのアスファルトだった。
「え?」
二人は素っ頓狂な声を上げた。
四十川はちゃんと五体満足で生存していたのだ。それも、信号機の上に乗っかって。
「お?」
四十川も意味がわからなかった。
四十川は、ぶつかる刹那に真上にジャンプしたのだった。そして信号機を掴み、その上に乗ったという訳だ。
四十川は高みからの景色をしばらく眺めると、そこから歩道までぴょんとジャンプし、すたと綺麗に着地した。
「ビックリさせないでくださいよも~」
「ううう、ワタクシもうだめかと……」
色々意味がわからないが、秋も字浪もとりあえずホッと胸をなでおろした。一方当の本人は嬉しそうだ。
「見たか? あのジャンプ力! やっぱあたしは凄い力を手に入れたんやなって……」
自転車を押しながら、四十川はものすごい上機嫌でいる。何だかよく分からないが、間違いなく凄い力を手に入れたのだから。
もしかしたら、憧れていたヒーローに、成れるのかもしれないのだから。
「しかし、マンガみたいな展開でしたなあ。わざわざ丁度トラックが来るなどと……」
「だろ? 最近流行の小説かマンガみたいに、異世界に行けるところだったのになアッハッハ」
「も~。センパイ全然緊張感ないんですから~」
「というか、あんなにジャンプしてしまうなど、四十川氏はもう人間では――」
その瞬間、目の前が、世界が、
まるでエネルギーが、オーラがほとばしったかのような紅一色に染まってしまった。3人にはそう、見えた。
そしてグルグルと回る感覚と世界、薄れる意識。
3人は一体、どうなってしまうのか―――――