第12話 新生騎将編

文字数 2,817文字



 翌日、日が昇り始めて数刻が経過した頃、城門を通過した者達が列をなしていた。近隣諸侯からもエリオット陛下の下へ馳せ参じた者が多数見受けられる。この事から、内乱後のログワルド一族のやり方に余程堪えていたのだろう。叛逆者は全て捕らわれ奴隷として扱われる。爵位ある者は異義申し立てれば即死罪。悪王に忠義を尽くした賊人は出世する。僭称者たる偽りの王である証拠でさえ手に出来ぬ時代であったのだから仕方あるまい。
「これほど集まるとは思ってもいませんでした」
 レイバルトの一言をアルフィード、エリオット、そして昨日居なかったアルテミスは受け取った。
「確かにここまで集まるのは想定外だな。だが、選奨しがいもあるぞ」
 今、この国に必要なのは真の忠誠心唯一つ。それを見定めるためにアルフィードは、
「それじゃあオレはこの場を離れる。アルテミス、エリオットを守ってあげてくれ」
「今日の(まつり)に反乱は起きないでしょ」
 その言葉を聴き、アルフィードは王剣をエリオットに渡すとその場を後にし、エリオットは露台から顔を出すと、外の様子を伺う。
「何人集まっているのかな?」
 エリオットの言葉につられてアルテミスも中庭を見下ろすと群衆の数をざっと数え、
「ざっと千人かな。この中でどれだけ選ばれるかは私にも解らないけれど、優秀な騎士が選ばれるかもね」
(そろそろかな)
 アルテミスが空を見上げると上空に僅かな粒子が集い始めていた。そのまま覗き見ると下方からアルフィードが城内から姿を現した。だがアルフィードの視線は空に向いてはいない。
「クラウディア王国、国王エリオット陛下とアルフィード殿下の御前である。控えよ!」
 王都クリムレスタで唯一許された数少ない騎士及び門番の一声に王国民は一斉に片膝をついた。これはクラウディア王国の王族に敬意を示す行為である。
「皆の者、膝を上げよ」
 アルフィードの優しい声に国民は耳を傾け指示に従う。その姿を目視するとさらに言葉をつなげる。
「これより騎士選抜の儀を執り行う。自分と一対一の決闘を行い、実力ある者にのみ王族直属の騎士として認めよう。貴方らの実力に期待する」
 アルフィードの言葉に国民は焦りをみせた。殿下に刃を向けることで不敬にあたる可能性と国王エリオットの反感を恐れての事だろう。
「構う事はない。本気を見せてくれることを期待している」
 そう伝え、アルフィードはエリオットの方へ視線を向ける。
「さぁ、ここからだよエリオット君。王剣を握って」
 女神アルテミスの指示に従い王剣アルカロンを把持すると天へと切っ先を掲げた。
「ボクの命は――」
「王剣アルカロンは生命力を蓄積できるの。装飾部分が光っているでしょ」
 言われるがままに王剣を見つめ、光を確かめる。
「今まで王位継承や政で使う際はいつもアルフィード君が王剣に蓄えていた。だから安心して使えるよ」
 そう小声で促すとエリオットは言葉を発する。
「王剣アルカロンの指し示す王たる器の我が申す。汝に栄光あらんことを」
 それと同時に王剣は光を放ち、王族直属騎士を目指す者達に勇気を与えた。過去百年の輝きとは比較できない真の王剣の神々しさに、やはりと納得したように一同は言葉を放つ。
「エルヴァスやその先代とは全く違う。やはり仕えるべきは真の王族だった。だが本当に大丈夫か?」
 王都の外れから入城して来た者達にも理解できているように、エルヴァス含む過去の偽王は不徳極まりない者だった。それでも今回の王はまだ子供、エリオットに対して不満の一つや二つないといえば嘘になろう。王族であり、幼くして国王に就いた者。我侭で国が崩壊する恐れもあるだろう。だが王に認められさえすれば、幼き王に助言と呈して国を牛耳る輩も居るだろう。そうさせないために信頼できる騎士を見極める為、アルフィードはこの政を計画していたようだ。
「そしてここに聖を司る神々の一柱を紹介する」
 エリオットの言葉は国民をさらにざわめかせる。
「神なんて伝説にしか存在しないはずだろ」
「だがアルフィード殿下やエリオット陛下の力を見る限り、存在しないとは言い切れないんじゃ……」
 愚痴をたらす国民の視界にアルテミスが姿を現す。神々しく輝く白銀の髪に青の瞳、装飾の腕輪をつけた少女。国民の誰もが目を疑うほどの絶世である。
「私が聖導十二神王の一柱、アルテミス。国を思い、国王エリオット君を守る剣と成れた者に、私を含む神々が加護を授けてあげる。だから裏切りだけはしないでね」
 そう云い終えるとアルテミスは両手を広げ、幾十、幾百、幾千、幾万もの金色に輝く粒子が彼女を包み込み、その場から姿を消した。刹那、中庭で待つアルフィードの側で再び粒子は収束を始め、人の形を成し、アルテミスは再び姿を現した。アルフィードとは違う使い方であるが、アルテミスは正真正銘、神の一柱である。
「女神……様」
 人智を超えた現象に人々は黙り込み、僅かな時間でその場に居合わせた者達はアルテミスの存在を認知せざるを得なかった。
「とりあえず試合開始だ。一対一でオレに挑め。腕がよければエリオットが認めてくれる」
 と宣言し、周囲は活気に満ち溢れる。
「王剣の代わりに普通の剣で戦う。我こそはと思う奴からかかって来い!」
 アルフィードの声明と同時に、一人の男が武器を携え戦いを挑んだ。が、結果は一瞬で決まった。アルフィードが相手の武器を弾き飛ばし、実力無しと判断された。
「次!」
 次の男は大斧を持つ。
「アルフィード殿下、実は――」
「来ないならこちらから行くぞ!」
「はい!!」
 アルフィードの言葉に気圧され、戦いに身を投じさせられた。斧を片手で振り回すも柄が木材であるが故に脆く、剣で切り落とされる。このように弱き者達の相手を一時間ほど続けた時、アルフィードの口からため息が漏れ出す。
「皆弱すぎる。これじゃエリオットも守れやしない!」
 憤りを露にするアルフィード。最低でも六聖騎将並みの実力を持つ者を求めていた。しかしこの場に居るほとんどがアルフィードに一撃すら与えられない。せめて騎士並みの実力者が居れば助かるのだろう。
「失礼します。アルフィード殿下。俺なら期待に答えられるかと思います」
「君は……あの時の」
 声をかけたのは一月前、アルフィードが救った赤髪の少年だった。その少年は出合った頃と比べると少々逞しく見えるが果たして言葉通りの実力があるのか。
 少年の武器は双剣であり、柄頭が長い鎖で繋がれていた。
 自信ありげな表情を見せる少年。どのような剣技を繰り出してくるのか期待で満ち溢れていた。アルフィードは固唾を呑み、身構える。少年から溢れる「やる気」だけは今までの相手を上回っており、胸は高鳴るばかりである。
 二人は剣を構えると互いの切っ先を向け、試合を開始した。
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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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