第14話 新生騎将編

文字数 2,327文字



 王族直属騎士団選抜試験は無事事なきを得、少数精鋭の騎士団が結成された。特にレオスはドリュアス戦での功績が認められ、王宮内謁見の間にて叙任式が執り行われる事となった。
「此度は真に大義を見せてもらいました。まずはレオス・キャビアス、あなたに王族直属騎士・六聖騎将の地位を与えます」《ルビを入力…》
 エリオット自ら席を立ち、レオスへ手を向けると六聖騎将の証である剣と双翼を模した六聖証を授与された。
「エリオット陛下のお役に立てるのであれば、俺はどんな命令でも従います」
 今までの騎士とは違い、エリオットに付き従うと宣言したレオスに、アルフィードは疑問を抱く。
「その忠義は見事なものだが、一度救われた命だろ、大切にしようと思わないのか?」
「助けられた命です。陛下と殿下の為に使わせてください」
 確固たる忠誠心を見せつけ、アルフィード、エリオットの両名に己の意思を伝える。その心は曲がることのない絶対忠義を示していた。
「人間は何世紀(いつ)になっても変わらないんだね」
 アルテミスだけは人とは違う。幾千年も生きる神であり、幾千年も人間を見続け守ってきた十二の神の一柱である以上、人間のことは熟知しているのだろう。
「何か言ったか?」
「ただの独り言♪」
 アルテミスを睨め付けるも溜め息一つを吐き、言葉の追撃を諦める。
「それよりも叙任式の途中だよ……終わらせたいから静かにして」
 エリオットは周囲の空気を読み、会話の終点を待っていたが、我慢も限界に近づき一言物申し、アルフィード達は静寂を身に纏う。
「お前のせいで怒られただろ」
「あら、私のせい?」
「お前が邪魔するからだろ」
 女神アルテミスとアルフィードの口論はエリオットの視線が遮った。
「と、とりあえず、叙任式は終わらせよう」
 さすがのアルフィードもエリオットの逆鱗には触れたくないようで、取急ぎ叙勲式を終えるとレイバルト・キャビアスがエリオットへ頭を下げる。
「陛下、我が息子レオスを六聖騎将の一人に指名して頂き、真に感謝しております」
「俺も――いえ、自分も陛下と殿下、そして真のクラウディア王家に永遠の忠誠を誓います」
 膝をつき、アルフィード、エリオットに忠誠心を露わにした。
「これにて叙任式を終了する」
 レオスの騎士叙任式は幕を閉じ、その場の空気は平常を保つと、エリオットはどっと疲れた表情を露わにする。今回が初の国王としての務めであるから仕方がないともいえるだろう。その務めを終えたエリオットたちにレイバルトは語り掛ける。
「しかしながら過去の六聖騎将の裏切り、本当に起きたとは信じられませんね。斯く言う私もエルヴァスが偽りの王だと知るまでは王族だと信じていました」
 六聖騎将は過去数百年の間、国の均衡を保ってきた。その六人の騎士が同時に裏切るなどありえぬ話。だが、エルヴァスの放った聖導兵器という言葉が可能性を秘めているのもまた事実。
「六聖騎将は国王陛下を御守りする要、ドリュアスの脅威も起き臥しが続く以上、裏切る事は国を見捨てるも同然。それほど国王の命令に背かざるを得ない程の事だったのでしょう」
 ログワルド一族の聖導兵器による魅力に取り付かれたのだろう。しかし兵器とつくからには危険であることも承知のはず。だが百年前の出来事などアルフィードとアルテミスしか知る者はいない。
「すべて、元・六聖騎将のシャルナに聞いてみないと解らない」
「だな。とりあえずは生かしているけれど、何処に聖導兵器を隠しているか、ぶん殴ってでも吐かせてみるか」
 アルフィードも力ずくで聞き出そうと決めたその時、アルテミスは口を開き、この場にいるアルフィード、エリオット、レオス、レイバルトの四人に語りかけた。
「昔の話だけど、ドリュアスは――」
 アルテミスの語る昔話に四人は視線と耳を傾ける。
「聖導兵器は実在する。千寿の樹の誕生から数百年後、アトランティスという大陸で造り出され、平和をもたらすはずだったの」
 聖導兵器は聖法を扱える者を必要とする。聖法を扱える者の肉体に管を刺し、神経を機械と結合させることで自由を奪い、死ぬまで拘束される。聖法の発動には、神の呼び声を入力しなければならない。そして発動後は生命力を抜き取り聖法の変換を促す。
 今は無きアトランティス大陸で作り出された兵器であり、堕天の呪印を恐れぬよう聖法使いを核とした生体兵器である。
 聖の力は人智を超えた力であり、兵器として使用する際、膨大な生命力を必要とされ、放出し続ける事で堕天の呪印は消えるが、アトランティス人は肉体の異変と同時に大陸中に死の病を撒き散らした。
 聖法は浴び続ければやがて死に至る。蔓延した聖の力は大陸中の生物を滅ぼし、歴史から忘却された。それがアトランティス大陸で起きた悲劇、メルナ大陸にはその設計図だけが行き着いたのだろう。
「それが本当ならばログワルドの家系は大馬鹿者の集まりですね」
「まったくその通りだ」
 レイバルトの一言でアルフィードは頷くと、残されたエリオット、レオスもそれに釣られて頷く。
「だからこそ、今も残っているならこの世に出してはいけない。人類を永遠に苦しめる危険な兵器なの」
 どれほどの危険な兵器であろうと、数千年の時を経ても存在し続ける事などありえない。それが一般的な解答である。だが設計図が残されていたら、兵器の試作型でも持ち込まれていたら、クラウディア王国以外の国が作り出していたら、ログワルド一族の手に渡る可能性も少なからず可能性がある。ありえない事こそありえるのが現実だ。
 未だに見つかっていない事が唯一の救いなのだろう。
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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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