第6話 王位奪還編

文字数 3,600文字



「今の王宮にどれだけの騎士が護衛についている?」
「王宮内部には――」
「アルフィード君、用意できた?」
 アルテミスが扉を開けるなり言葉を向けた。王位奪還の策を練る三人の間に割って入られ、シャルナの声先が途切れた。
「遅いぞ、アルテミス」
「ごめんね、ちょっと邪魔が入っちゃって時間掛かっちゃった」
 アルテミスの存在に不意をつかれたシャルナはすぐさま槍を構える。彼女と顔を合わせるのは初めてのようで、敵対者と勘違いしたのだろう。
「待て、シャルナ。彼女は敵じゃない」
 掌で槍を受け止め、言葉で制する。
「しかし――いえアルフィード様がおっしゃるのであればそうなのでしょう」
 アルフィードとアルテミスの仲は誰よりも深い。アルフィードに黄金の林檎を与えたのも彼女だった。故に恩があり感謝もあるのだろう。故に刃こぼれした使えぬ槍を向けるシャルナを静止させる。
「邪魔だった騎士たちは皆片付けたけど大丈夫だった?」
「彼らは元から不要なので構いません。では続きを」
 アルフィード含む四人は王宮内部の構造と、王室への道筋、護衛の数、幾多もの分岐を思考しつつ最短距離で到達する術を模索していた。
「オレが手っ取り早く逆賊として乗り込むか」
 王へ牙を剥く者として単騎乗り込み、王国騎士団、六聖騎将を相手取り殲滅する。この作戦ならば勝利は必然だろう。王国でアルフィードに勝てる騎士など一人も居ないのだから。
「そこでエリオットの登場とともに王剣で――」
「その前に王国騎士団が壊滅します」
 言葉を遮られたアルフィードは舌打ちをしつつもシャルナの言葉に異義は立てない。彼なりの経験なのだろう。騎士団の壊滅が国を滅びへ導くという意味を含むということを理解しているようだ。
「ならオレが死なない程度の加減で――」
「そもそも一人で突入してどうにかなる状況ではないかと思われます。国民の信頼も得ずに王位を取ったとしてもいずれは……」
 次の策も欠陥があるように言われ、新に策を提案する。
「さっき殺した騎士の鎧を着て進入する」
「あなたの身長の騎士は数少なくて目立ちすぎます」
「ならば百年前にあったと聞く地下通路を使い、王宮へ侵入する」
「百年も経っていれば、廃れて閉ざされていますよ」
 あらゆる策が否定され、ため息を通り超えて睨めつける。さらに一言耳に入らぬ内心で、
(オレ一人で十分だろ! 何が足りないって言うんだ)
「王宮直属騎士団に入隊するという手もありますが、時期が違うので間に合わないでしょう」
「いっその事、逆賊捕えたという名目で忍び込むか?」
 それこそ無謀といえる策だった。捉えられた状態で王宮へ忍び込むまでは誰もが考えられるシナリオ。だがその間に殺される、地下牢へ閉じ込められる、下手すれば王宮外で斬首となる可能性もある。そうなればアルフィードの正体も露見しかねない。
「そもそも、王様は何が目的なの?」
 エリオットの素朴な質問にシャルナはピクリと眉を動かす。
「エルヴァスは黄金の林檎を食した者が手に出来る力を欲している。つまり聖法の使い手を得ることを目的としています。今までは……逆らった者を奴隷にして使い物にならなくなれば実験に利用する。しかし扱いが悪かったせいか悉く失敗に終わり、見かねたエルヴァスはアタシの奴隷、エリオット様を使うよう命令が下りました」
 語り始めるシャルナに、アルフィードはしばしの休息と思い、エリオットと膝を休める。
「何のために奴隷制度を作ったんだ? 他国の者でも逆らえば捕らえたりするのか?」
「世界を手にするのに必要な聖導兵器を造るため、奴隷制度を作ったそうです。そして他国に情報が漏れないよう自国の者のみを奴隷にしておりました」
「聖導兵器?」
 聖導兵器という単語にアルフィードが疑問を持つ。聖法とは生命力を使い具象化する神にも等しい力。その力を兵器として利用した国の存在はいまだ確認されていない。
「聖法の使い手を核にする兵器らしいのですが、詳細は聞かされていないので」
 シャルナの口からは詳しい情報は得られなかったが聖導兵器というだけあってかなりのことなのだろう。アルフィードとアルテミスの二人は危険という証拠の脂汗を流していた。
「聖導兵器の核……か、エルヴァスは世界でも取るつもりか」
 ごく普通の人間に聖法の術をぶつければ生命力が溢れ、器が耐え切れず自壊を引き起こす。その核となる使い手の無尽蔵に湧き出る生命力を他人が扱う術があるとしたら、人類を滅ぼす脅威国家と成り得る。
「それなら進入するより、アルフィード君を差し出す名目で正面から入ったほうが得策だよね」
 アルテミスの独断だが当を得ている。だがその先にある危険度も高いであろう。アルフィードが捕まればどうなるか。しかし王宮内部に入り込むにはそれしか方法が無い。
「危険ですがそれしか方法はありませんね。一応、六聖騎将のアタシが連れて行けば怪しまれることは無いが、その後のことも考えねば次に進めません。王位奪還に必要なのは昔から伝えられている聖法を扱う者は王族の証とされるため、エルヴァスの首を取るには必要不可欠なのです」
 過去、アルフィードが今まで行なってきた行為を王族の力として伝えられてきたらしい。つまるところ国民には王族とは聖法を扱える者と認識されているようだ。
「ボクが王族であると国民に知れたら殺される。そうならないためにエリーっていう名と奴隷として扱うことで今まで免れてきたんだ。この髪も整えていないのは王子として君臨する時、改めて整えるためわざと伸ばしてるんだよ」
 エリオットは自分のことを語りだす。
「聖法さえ扱えれば、今の国民も真の王族と認めてくれる筈だった。けれどボクには力がない」
 力の入手に失敗した悔しさを嘆く。エリオットの気持ちも解らなくはないのだろう、アルフィードは彼の感情を理解している。過去、妹エミリーを救うために選んだ道と少なからず似ているのだから。
「だが成功したとしても聖導兵器の核にされる可能性もあるんだよな。失敗したからこそ、その可能性もなくなったわけだ。でも王宮には六聖騎将が五人居るんだろ? シャルナ一人でどうこうできる相手じゃないだろ」
 王国最強と謳われる六聖騎将のうち五人を相手にシャルナ・オルバード一人でエリオットを守り抜き、王の首を取ることは極めて困難、不可能ともいえる。
「六聖騎将は各区域に一人配置されているのはご存知ですね。それでも年中、丸一日、定時報告か緊急以外、王宮に居るわけではありません。そこを狙う予定でした」
 その言葉にアルフィードは納得した表情を浮かべ、掌を打ち納得した。
「六聖騎将の居ない間に奇襲か、なるほどそれは良い策だ。六聖騎将の五人が相手だと守りきれる確証も無いからな」
 アルフィード、エリオット、シャルナが少なからず納得の行く形でまとまった中、アルテミスは物言いたげな顔を魅せる。その表情は可愛らしさを含む。
「まずはここから出よう。血なまぐさいところに居ると、エリオット君が可哀想だよ」
 確かにその通りだと頷いたアルフィードは、その忌まわしい血にまみれた死臭の部屋からエリオットの手を握りしめる。
「では、アタシが出口まで案内します」
 一行は周囲を警戒しながらその部屋を後にした。
 仄暗い通路から飛び出すと、あたり一面に陽射しが視界を照らす。まぶしくも温かい太陽を背に、王宮へ顔を向ける。
「まずは服から買いに行こう。奴隷服じゃ色々面倒だからな」
「はい、お金」
 アルフィードに渡した財布には98万ベルグが入っていた。
「これで下準備を済ませておいて。私は少し用事があるから」
「えっ、一緒に来ないのか?」
 いきなり大金を渡されて戸惑うアルフィードは困惑を隠せない表情をみせる。
「私好みで良いなら――」
「いや、オレが選ぶ」
 彼の返事は即答だった。アルフィードは何を想像したのだろうか。知ることは出来ないが予想はつくもの。アルテミスの性別は女性、つまりエリオットに女装させる可能性を考慮したのだろう。
「ではアタシも、アルフィード様に壊された槍を新調してきますので、エリオット様をよろしくお願いします」
 シャルナの睨め付ける強い眼光はアルフィードに向けられた。その意味を汲み取ったのだろう、彼女の言葉に少なからず罪悪感を抱く。
「あっ、とその……武器は済まないと思ってる」
「いえ、御気になさらないで下さい。アタシの実力不足と実感しておりますので。それで待ち合わせは王宮前の噴水広場15時集合で宜しいでしょうか?」
「あぁ、そうだな。集合場所も近くて助かる」
 そう言うとアルフィードはすぐさまエリオットの手を掴み、その場を離れると城下町へ足を運んだ。
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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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