第17話 新生騎将編

文字数 2,625文字

「レオスが無事で良かったよ。でもなんでお酒なんか持ってきたの?」
「それは――」
「気にする事ないぞ。どうせアルテミスから飲めって言われたんだろ」
 アルフィードの鋭さに驚愕しつつも、こくりと頭を下げるレオス。謝罪の為に立ち上がるが酔いは消えておらず、再び嘔吐する。
「うゔぉげぉ~」
 吐瀉物の着地点はアルフィードの頭に降りかかった。偶然とは言いがたいほど狙っていたように思えるこの状況。
「レオス、わざとかな?」
 拳を強く握りしめ、誰もが見て解るような怒りの表情を六聖騎将レオスに向けた。その凄まじさに、
「ご、ごめんなさい!!」
 脱衣所から走って逃げるレオス。怒り心頭に発したアルフィードは追跡を開始した。
「待ちやがれ! このゲロ獅子(レオス)!!」
 吐瀉物をかぶったアルフィードはあらん限りの力で追い、追われる立場のレオスは督責の鬼を恐れて逃奔を目指すが濡れた足が床で滑らせ、レオスは転倒した。
「逃げ場はないぞ、ゲロ獅子野郎!」
 捕まえようと手を伸ばすが、レオスも黙ってはいない。起き上がり、アルフィードの前に立つ。が、レオスの濡れた足跡がアルフィードを滑らせ、レオスの急所に顔面をぶつけてしまった。
「「!?」」
 レオスはあまりの痛さにその場で気を失い、アルフィードは未経験の屈辱で理解が追いつかず、二人は床に伏してしまった。その姿を後ろから追ってきたエリオットに見られるも二人は気付く事も出来ず、エリオットの目前で醜態を晒すことに。
「二人ともなにやってるの……」
 この出来事が話題になり、後にレオスはゲロ騎将、とアルテミスから呼ばれるようになる。
「王宮内で騎士同士暴れるのはダメだよね。ボクよりも熟知している経験豊富なアルフィードが暴れてどうするの?」
 初めてエリオットに説教されるアルフィード。いくら長く生きようと、階級が国王より下のアルフィードは反論する術がない。ましてや自ら殿下と名乗る以上、エリオットに逆らえば立場が危うくなってしまう。
「この馬鹿ものがぁ! 陛下と殿下にどれだけ迷惑かけるつもりだ!!」
 レイバルト・キャビアスが息子レオスに激昂し、肝心のレオスは申し訳ない表情で父親に頭を下げていた。国王陛下及び殿下にこれほどの迷惑をかけて厳罰なしはないだろう。
「でも――」
「言い訳無用!」
 その一言を終えると、レオスの頭上に拳を叩きつけた。その行為は父親としての罰であり、エリオットに対しての侘びと六聖騎将の地位を守るためである。
「痛ったぁ!」
 涙ぐむレオスにレイバルトから謝罪の一言をエリオットに伝える。
「レオスの処罰はこれで赦して頂きたい。足りなければ我が命で償います」
「そこまですることもない。多分、オレが悪かった。大人気なかったな」
 アルフィードの追撃の一言でエリオットも心が緩くなり、表情を和らげ判断を下す。
「そうだね。止められなかったボクにも責任はあると思う。今回は無かった事にするよ」
 無罪となったレオスは安心を表情で表す。アルフィードも久々の喧嘩でレオスを信頼したのか、彼と友情を育もうと考えていた。その二人を見ていたアルテミスは口元が緩んでいる。それを見たエリオットは、その意味を理解したのだろう。
「とりあえず、軽い罰は与えないと」
 その一言にアルフィードとレオスは驚愕を示す。
「今晩、ボクの部屋で夜を過ごすこと。これが罰。いいよね」
 軽すぎる罰に二人は口を広げてしまった。そして国王の部屋で一晩過ごすなどアルフィードの経験上、過去一度もなかった。
「ぷぷっ、やっぱりこうなったのね」
 エリオットの隣で笑うアルテミスにアルフィードは睨め付ける。
「ほとんどババテミスのせいだろ」
 聞こえぬように、ぼそっと小言で悪口を叩くがアルテミスには届いていたようで、アルテミスの持つ月の裏側(スキアー)という腕輪から弓を取り出した。それは天界エリュシオンにあるアルテミスの部屋に繋がるアルテミスだけが使える道具。
「だれの事を言ったのかな、アルフィード君?」
 怒りを隠しつつ弓を構えるアルテミス。狩りの女神と言われるに相応しい相貌を見せる。
「い、いやオレはお前のことを言ったんじゃ――」
 焦るアルフィードに問答無用で弓の弦を掴むと輝く矢が生成される。神であるアルテミスの使う聖法は人とは違う輝きを放つ。
「ヴェロス!《矢》」
 避ける暇を与える事無く輝く矢がアルフィードの頬を擦り、改めて女神の怒りを実感した。
「ご、ごめんなさいアルテミス様!!」
 ストラトスの称号を既に持ち、国を守り続けたアルフィードでさえ、アルテミスには逆らえない。神格化した人間と真なる神とでは、やはり差があるのだろう。
 そして夜、エリオットの部屋にて。
「あんの糞女神、オレを殺す気か!」
「まぁまぁ落ち着いて、アルフィードの気持ちも解るけど、力を与えてくれたのはアルテミスなんでしょ。だから感謝の念を込めなきゃダメだよ」
「……エリオットがそう仰るなら、明日朝一番に謝罪しますよ」
 怒りに燃えるアルフィードを宥め、落ち着かせる国王エリオット。アルフィードの役目はエリオットを――エミリーの子孫を――守る事であり、機嫌を損ねるわけには行かず、
「まぁ、アルテミスの事だからあれで許してくれていると思うが――」
 アルフィードの言葉上、アルテミスは比較的易しい神である事が窺い知れる。その神に謝罪を行うのは当然のこと。
「明日、改めてアルテミスに謝るよ」
 謝罪の約束を交わしたことで、エリオットは追及を止めた。
「あの、エリオット陛下、アルフィード殿下、自分はいてもよろしいのでしょうか?」
 今まで存在を忘れられていたレオスが二人に申し上げる。
「いいよ。多分だけど、こうなるように仕組まれていたと思うから」
 疑問を浮かべるレオスに追加の言葉が下る。
「レオスに酒飲ませたのはアルテミス。オレ達を親しくさせる為にわざとレオスに飲ませたんじゃないかな。そうなら、さすが女神というべきか、敬うべきなんだろうな」
「それは――自分にこの場を与えてくれた事に感謝すべきですね。明日、アルフィード殿下と供に行きます」
 女神であるアルテミスに敬い称する誓いを立てるレオス。
「とりあえずこの時間、夜の語らいを楽しもうか」
 三人は夜更けまで多様なことを語り、笑い、供に過ごした。

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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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