第10話 新生騎将編

文字数 2,994文字

 第二章・新生騎将



 王位簒奪事件、通称・エルヴァス事件から一月が経過した。100年前のクラウディア王国では情報通信技術、交通機関は栄えていた。しかし国の統制を乱したログワルドは偽りの王と悟られぬよう、自らの命で古き時代に戻された。この一月で元の状態に戻すのは困難といえる。そこを利用しようとした国民が地位欲しさに押し寄せてくる。
「エリオット陛下、我ら下々のもののために謁見の許可を下さり有難うございます」
「それで、用件は?」
 王位継承を済ませたエリオットは今までの王とは違い、年も若く何より王としての経験が乏しい。ならばこそアルフィードと共に国を治めるよう心掛けていた。
「私も元は貴族でした。ですので、爵位返上をして頂けないかと思いまして、はい」
 エリオットの過去を知り、正統な王族であることを知った国民の大半はそう申し出ていた。あわよくば貴族に成り上がれるという甘い考えがあっての行動だろう。狡賢いにもほどがある。
「それならば、名を申していただけないか? 過去の貴族の名が記された本は今ここにある」
 レイバルト・キャビアスはシャルナ・オルバードの居場所を伝えた功績もあり王都クリムレスタの文官及びエリオットの教育係としてアルフィードから推薦され、その命に従っている。
「ス、ステゴミル家です」
「ステゴミル? 聞いたこと無いな。それよりも同じような台詞をいう連中、何人居るんだ? 聞き飽きたぞ」
 アルフィードは謁見の間、エリオットの側であくびを漏らし退屈であることを態度で示す。それもそのはず、エリオットが王位についてからというもの、やってくるその大半は媚び諂っては己がかつて貴族であったと主張する者ばかりだからだ。
「ボクも座ったままで苦しいよ」
 始まりは国民の悩みを聞こうと提案したエリオット。その提案に賛同したアルフィードだが、よもやこういう事態になるとは想定していなかったのだろう。
 国民の大半が地位・名誉を目的として謁見しているが流石のアルフィードもやるべきではなかったと後悔している様子をみせる。
「お前はもう下がれ」
「ですが我が家は内乱前までは爵位を貰っており、男爵でした。ですから――」
 アルフィードの一言に反発するように申し立てる。しかし、アルフィードは国民の言葉を遮り、エリオットの口から追加の一言が与えられる。
「地位と言われても昔のことは知らないから――」
 チラッとアルフィードへ視線を向ける。「だそうだとよ、アルテミス」と女神へ視線でバトンを渡す。「なんで私なの?」と言いつつも二人の期待に答えるべく一人の国民に回答を与える。
「百年前から今日までの歴史上、あなたの家系、ステゴミル家は爵位どころか騎士でもなかったの。つまり出直してきなさい」
 笑みを含む睨みを効かせ、相手を怯ませた女神アルテミス。
「品の無い国民ばかりだな」
 止めの一言に、ステゴミルは涙と共に謁見の間からこれ以上何も言わず引き下がる。その様子からこの国民も邪と感じたレイバルトは謁見の間の扉を開け、番人に謁見の中止を命じた。
「これほど国民が己を尊大にする計画を企てていたとは思いもよりませんでした」
 国民の野心が見え透いて聞くだけで疲れるのだろう。エリオットも傍らで俯く。
「やはり国民の申し出を全部聞くのは問題があったな。今日のところは休むか?」
 アルフィードの心遣いに感謝しつつもエリオットは首を横に振る。
「それでもみんなの声を聞きたい。聞いて王として何をすべきか考えたい」
 奴隷として扱われた国民の痛みを知るエリオットだからこそ、理解しようと心がけているようだ。この経験は今までの王には持ち合わせていない力だった。そんなエリオットにアルフィードは助言を促す。
「王とは何か、それは国の象徴であり、国の統治者でもある。王無き国は国とは言えない。このことを頭に入れておけば問題ないさ」
 クラウディア王国の年長者だけあって、エリオットの年齢に合わせて簡易に説明したのだろう。王とは国民を支える柱なのだから。
「所でレイバルト、聖導兵器の所在はまだ掴めないのか?」
「それが……今も手がかりが掴めず。エリオット陛下、アルフィード殿下、申し訳ありません」
「そうか、苦労かけてすまない」
 エルヴァスの残した聖導兵器という言葉、そのありかを示す手がかりは今だ掴めずにいた。当人やシャルナ・オルバードは地下牢に幽閉されているが、一向に口開くつもりはないらしい。とどのつまり捜索は一時中止となる方向に持っていくようだ。
「あとは六聖騎将と騎士団だが、叛逆など起こさないように選別しないといけない。この一月で解ったが、騎士団員の不足は心もとないな」
 アルフィードの表情を一抹の不安が曇らせる。王都に残る騎士の中でも元奴隷である十代の少年達を臨時で採用している。エリオットと近い年齢であれば裏切る事も少ないだろう。故に数も数える程度しか存在しない。
「六聖騎将級の騎士の選抜は厳しいかと存じ上げます」
 レイバルトが呟くのも無理はない。六聖騎将ともなれば王族直属といっても過言ではない。元六聖騎将及びその部下はエルヴァスの取り決めに従った忠実な配下だった。そのような騎士団は捨てさり、この一月をアルフィード一人で守り抜いてきた。今だからこそいえるのであろう。必要であると。
「確かにその通りだ。だが、とりあえずやるべきことは国民の信頼を得ることと、新たな騎士団員の募集だな」
 王が変わった事により、王都では安定した方向へ持っていけるだろう。しかし王都以外の領土では不安が積もるものだ。差し当たりエルヴァスの配下が反乱を起こす可能性もある。
「国土全域に公文書を発令してあります。極力、乱が起きぬようエリオット陛下及びにアルフィード殿下に認められし者は六聖騎将の地位を与える。と書き記しております。この公文書を見て喰い付かぬ者はおりません」
「おっ、行動が早いな。お前を選んで正解だったな」
「お褒めに預かり恐縮です。暴動が起きぬよう少し前に準備を済ませていましたので、奴隷にされていた我が子や他の者達には歯牙にもかけないでしょう。それも含めて今のところは安泰です」
 レイバルトは文官に選ばれた時から既に行動に移っていたようで、国内の騎士団も六聖騎将の座を欲するだろう。その策略にアルフィードも少々驚きを見せる。
「しかしながら僅かな奴隷の行方がつかめておりません。その最中に騎士団再編となれば骨が折れるかと思います。それでも宜しいのでしょうか?」
「そこはオレ自身とエリオットが判断するから問題ない」
「そう……ですか。それではエリオット陛下とアルフィード殿下にお任せします」
 アルフィードの一言で納得させられたレイバルトはしぶしぶ承諾した。
「もう夕暮れだね」
 沈みかける太陽を見つめるエリオット。物思いに耽りつつ「国って大変だね」と呟き、その言からお疲れの様子と汲み取ったレイバルトは気持ちに答えるべく、
「それではエリオット陛下、今日はここまでにして明日、続きを行ないましょう。私はここで失礼します」
 そう伝えたレイバルトは謁見の間から踵を返し、その場にはアルフィードとエリオット、そしてアルテミスだけがその部屋に残る事となった。
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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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