第9話 王位奪還編

文字数 3,201文字

「アルフィードの傷、大丈夫……なの?」
 エリオットは悲しげな口調で話しかける。腹部から流れた出血は量からして重症だったにもかかわらずアルフィードは満面の笑みで「大丈夫だ。心配するほどの傷じゃねぇよ」と伝える。
「それよりも、あんな裏切り方されて心は大丈夫なのか?」
 シャルナ・オルバードの裏切りに心を抉られたエリオットがアルフィードの心配をして駆けつけた。目は充血しており、アルフィードが戦っている最中に涙を出し切ったようだ。
「シャルナはまだ生きているんだよね。きちんと話せる時が来たら真実を聞きたい。でもアルフィードのお腹が――」
 アルフィードは服を捲し上げ、腹部を見せる。刺されたはずの傷口は跡形もなく、修復されていた。
「言ってなかったけれど、アルフィード君は不死身なの。黄金の林檎は肉体を不死にするの果実で、聖法を扱うことは出来ないの」
「えっ? そんなの聞いた事ないよ」
 アルテミスの口から語られ、驚き戸惑うエリオット。不死身の人間など見た事もないのだろう。伝承にすら書かれていないから仕方のない事だ。
「他国にもアルフィード君のように力を持つ者は沢山いるんだよ。だから世界の均衡は保たれる。聖導兵器なんて造っても、他の国に勝てるはずもない。夢物語のままでいれば良かったのに、愚かだよね」
「他の国にも!?」
 他国にも存在する事を聞き、さらに驚愕を露にするエリオット。聖法の使い手が複数存在する事を初めて耳にしたのも一つの原因に繋がる。
 三人の会話の途中にエルヴァスは王宮の門を開けてアルフィードへ近寄る。
「さて、答えを聞かせてもらおうか」
「答えは当に決まってる。全ては国民が決めることだ」
 彼の即断に怒りを覚えるエルヴァス。おそらくはエリオットの事で相談に来ると計算していたのだろう。しかしアルフィードも王族であり、少なからずプライドもある。
「君さえ核になってくれれば、エリオット少年を王族として迎え入れてもいいのだぞ」
 いつでも上から目線の国王にアルフィードは見下すように、
「断る!」
 拒絶の一言を言い放ち中指を立てて意思を示し、その一言と態度でエルヴァスの怒りは沸点を越える。
「図に乗るなよ小僧風情が!」
 エルヴァスは腰に飾った偽りの王剣を片手で抜き、アルフィードに斬りかかる。しかし避けるそぶりもせず偽りの王剣を身で受ける。
「てめぇの四肢を斬って無理やり核にしてやる!」
 初撃で右腕を切り落とされた。かに見えたが、皮膚や筋繊維、骨が刹那の時間で繋がり再生を魅せた。これこそ黄金の林檎の真価である。手元が狂ったのかと次は腹部に突き刺すも、血液は流れるもののアルフィードは物怖じしなかった。
 腹に突き刺さった偽りの王剣を奪い取り、傷口を魅せる。突き刺したはずの腹部は癒えており、人間ではありえない現象だった。
「化物……」
 エルッヴァスの放った一言は的を射ている。しかし世界には彼と同じ力を持つ者が他にもいる事と、世界はアルフィード含む彼らによって均衡を保たれている事をエルヴァスは知らない。
「さぁ、国民の前で裁きを始めよう」
 アルフィードはエルヴァスの片足を掴み、エリオットに来るよう伝えるとそのまま引きずり王宮の門外へ出向いた。
「エルヴァス陛下がなぜこんな?」
「こいつ逆賊じゃ……」
「賊を捕らえれば俺達も貴族になれるかも」
「どうする? 賊を殺してエルヴァス陛下を助けるか?」
 今の国民がどれほど低俗なのか、小声ではあるが良く解る。エルヴァス本人が国民に対し睨み付けるも先まで喋っていた者達は皆後方へ退いた。何かあれば他人任せな民衆にアルフィードは心底呆れたのだろう。大きくため息をつく。
「エルヴァス・クラウディア、本名エルヴァス・ログワルド。ログワルドは政務官の地位で王族でもないただの国民だ。王族のみが扱える聖法を一度も使っていないのがその証拠」
「でもさっき光を見たぜ、あれは間違いなく――」
 アルフィードは偽りの王剣を民衆に差し出す。
「この王剣は全くの偽者。掴め。そして己で確かめろ!」
 一人の青年が王剣を手に取ると違和感をみせた。感触こそ王剣アルカロンと同じなのだろう。それ以外の異物に気付き、青年は異物に触れた。その時だった。
「な、んだよこれ!?」
 王剣は光を点滅させ、いかにも玩具である事を象徴するように光を放つ。国民に不信感を与えるがそれもそのはず。今まで国民は偽りの王剣の光を真の王剣だと信じていたから。
「今までのは全部偽物だったってことかよ、このクソ国王が!」
 国民は騙されたと知れば心は裏返るもの。どんな国でも起こりえる事なのだ。
「真の国王なら聖法を扱う事が出来るのは当たり前。使えるよな、エルヴァスが「国王」なら」
 アルフィードの言葉に国民は一斉に「そうだそうだ」と言い放つ。しかしエルヴァスは使える筈もなく、膝をつく。
 今こそとアルフィードは背中に担いだ王剣を掴み抜き取ると、自らの生命力を糧に光らせた。
「王剣の光……今までとは全く違う……これが、いや、あなたが――」
「エルヴァスの一族は百年前の内乱を引き起こした犯罪者だ。クラウディア王家ではないため、今までの王位継承は簒奪によるもの。今ここに真の王家の王位継承を執り行う!」
「うぉお本当の国王の誕生だ!!」
 アルフィードの言動に国民が歓喜する中、王位継承の儀の準備を始める。
(まずはエリオットを呼び、王位継承、そして国民を納得させる)
 王剣を大地に突き刺すと、
「エリオット、王位継承の儀を始めるぞ」
 さらに続けてアルフィードは儀式を開始した。
プロセフヒ・エテレイン(祈りて願う)バシレウス・ジノヴィオス(国王ジノヴィオスから)ヴァシロプロ・エリオット(王子エリオットへ)ステマ・ディノ(王冠を与える)
 その言葉と同時に王剣アルカロンは光だし、輝きが増す。その光景を目にした国民は今までの陳腐な継承が偽りだったと理解したようだ。さらに王剣アルカロンから生命の光が漏れ、エリオットの頭上で王冠を形作り、輝きを増した。
「さぁエリオット、王剣を掴め」
 アルフィードの指示通り王剣を掴むと、輝きを失うことなく光を放ち続ける。
「おぉ、これが真の王位継承の儀なのか」
「では先ほどの光も真のクラウディア王家が放った光……」
 王剣アルカロンはアルテミスの仲間の一人、へパイストスがアルフィードの為に作り出した剣であり、アルフィード・クラウディアと繋がりのある者にしか扱えない代物である。
 国民は偽りの王に騙されていたことを理解し、悔い改めるように膝を付く。
「ではあなたも……」
「オレはアルフィード・クラウディア。エリオットの――又従兄弟だ。王位はエリオットが受け継ぐ。異義のある者は?」
 クラウディア王家の復活に異議申し立てる者は居なかった。
「新たなる、いや、クラウディア王家の復活だ!」
 歓声が鳴り響く中、アルフィードはエリオットの手を握りしめ、
「オレはドリュアスを葬る役割がある。だからこれからはお前がこの国を支えるんだ」
「でも、ボクなんかが出来るかな」
「立派な王になるまでオレが付いていてやるよ」
 悩むエリオットに一言添えるアルフィード。その言葉に期待も乗せているのだろう。その行為を裏切らないために、エリオットは首を縦に振った。
 その頃、アルテミスは六聖騎将の生存を確認していた。
「アルフィード君が途中で切っちゃうから、まだ息があるのね。六聖騎将の行動も国民は赦さない。だから――」
 アルテミスは小瓶を懐から取り出し、蓋を開けると「カタラ・スィンヴォロ」と言葉を放ち、同時に六聖騎将の五人は生まれて初めて恐怖を覚えた。だが、今起きたことをアルフィード達は知らない。
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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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