第13話 新生騎将編

文字数 2,695文字

 先手を打ったのはアルフィード。剣が空を裂こうとするも、より速く後方へ飛び退る。次に少年の持つ双剣が牙を向けた。その一対なる剣は縦横無尽に振るわれ、アルフィードを防戦一方にさせるが剣は盾にあらず。アルフィードはグリップを強く握り、反撃に転じた。
 彼の振るう一本の剣は一振りで立場を逆転させる。少年はとっさの判断で鎖を上手く利用しアルフィードの斬撃を受け止めると、鎖を引きながら反発力を利用し刃を弾き返す。
(……倒した六聖騎将より強いかも)
「助けて頂いたご恩、今ここでお返しします。すべてはエリオット陛下とアルフィード殿下の為に尽くすつもりであります」
 少年は双剣を構え、切っ先をアルフィードへ向ける。
「これほどの実力、味方になってくれれば嬉しいな」
 模擬戦は再開され、二人の視線が相見える。攻撃を仕掛けたのは少年の方だった。双剣の連撃がアルフィードの剣を伝って手首に衝撃を走らせる。
(強い……な。オレも王剣に頼りっぱなしで腕が鈍ったか)
 アルフィードもまた剣を振るい、少年の隙を伺う。その二人の戦いに目を向けるレイバルトは驚愕を露にする。
「レオス、レオスじゃないか、なぜここに!?」
「レオス? レイバルトさんの子供なの?」
 エリオットが見下ろすと戦う少年は赤毛であり、輪郭、眼の色、共にレイバルトとは違う容姿にエリオットは少し興味を持ったのだろう。レイバルトに問いかけた。
「レオスは……あの子は捨て子なのです。それを私一人で育ててきましたので」
 その言葉と同時に、少年レオスの身を案じる表情が見て取れる。我が子のように慈しみをもって接していたことがエリオットにも伝わったのだろう。笑みを浮かべ、
「大切に育ててきたんですね」
 元・六聖騎将シャルナに育てられた経験を持つエリオットもレオスに興味が湧いていた。
 エリオット、レイバルトが見守る中、二人の戦いは終わる気配がない。
 アルフィードは三歩下がり剣を構えなおすと、レオスの持つ双剣を見つめ、
(鎖が邪魔だな。簡単に断ち切れる訳でもないし)
 己の持つ膂力で大地を蹴り、人間離れした跳躍力でレオスに近づき、剣をレオスに突きつけるが、それを見越してかレオスは剣先を鎖の輪で受け止めた。
「なっ、人間業かよ!」
 驚くのも無理はない。人並外れたアルフィードの突きを、レオスは動きを捉え受け止めたのだ。
「まだです! 殿下!」
 アルフィードはすぐさま剣を抜き再度構えるが、レオスは攻撃の隙を逃さなかった。
 剣と双剣は激しくぶつかり合い、幾度も金属音を響かせる。その戦いが鮮烈に強者たらしめる印象を示していた。
 レオスは剣を逆手に持ち返ると、鎖を上手く利用し鞭のように振るう。その勢い疾風の如くアルフィードの頬目掛ける。
「喰らうか!」
 顎を上に向けて剣身を避わし、空いた手ですぐさま双剣の鎖を掴み取る。危機的状況と感じ取ったのかレオスは鎖を引くが、アルフィードは膂力のみで牽引し、レオスとの距離を縮めた。
「これで終わりだな!」
「俺は絶対喰らいません!」
 アルフィードは拳を握り締め彼の額にぶつける刹那の時間、レオスは並の人間では不可能な反射速度で後方へ飛び退る。一瞬の出来事にアルフィードは驚愕し、そして笑みを見せる。
「エリオット陛下とアルフィード殿下に御恩があります。命尽きるまで守り抜く覚悟もあります。俺自身、認めてもらえるまで引きません!!」
 唯一つの決意をアルフィードにぶつけ、双剣を構えなおしたレオス。これほどの剣技(ちから)があればエリオットの護衛も任せられるのだろう。
 だが悠長に戦闘を楽しんでいる場合ではなかった。上空に集まる粒子は城内中庭に注がれ、それは人の形を成し、やがて肥大化し誰もが恐れるドリュアスへと変化していく。
 それを見た国民の一人が、
「エリオット陛下! 御無礼承知で申し訳ありません! 実は御助け願う為ここに参りました。陛下の為なら何でもする所業です。どうかお助けを」
 アルフィードが相手にした選抜試験の一人である彼の胸元に堕天の呪印が記されていた。その存在にアルフィードが気付いたのはドリュアスが降臨し終えた後である。
「アル――」
「ここは任せろ!」
 エリオットの指示よりも先にアルフィードは動き出すが、
「せっかく俺の、陛下と殿下に認められるかもしれない機会を! 赦さん!!」
 レオスもアルフィードと共にドリュアスへ挑む。
 王剣を持たないアルフィードだが、支給された剣を握り締め、過去の経験を活かし、磨き上げた剣技を持ってドリュアスの片腕を切り落とす。
 ドリュアスは樹木である以上、その造りには些か干割れが生じる。それを熟知しているからこそ成せるもの。
「ドリュアスと言っても樹木の使いだ。剣で断ち切れる!」
 アルフィードの一声に続きレオスも己の双剣でドリュアスに斬りかかる。
 一見すれば何故斬れたのか疑問に呈するはずだが、レオスは亀裂を見抜き双剣で残された腕を裂断した。腕を斬り落とされたドリュアスは歩く事だけを許された木偶に過ぎずない。
「せめて私も――」
 そう放ち、ドリュアスの餌となるはずの人間も加勢に入った。
 ただ一振りの刃物でドリュアスへ立ち向かうも、残された足で得物は弾かれてしまう。その隙を逃さぬアルフィードは剣を向ける。
「ゼーン・ズィナミ・ウシオディス・エルピス・ヘイス・カサリズマ!」
 振るうと同時に剣は罅が入る。鍛冶の神ヘパイストスの作りし王剣ではない為、聖法の力に耐え切れないのがこの剣の宿命ともいえる。肝心のドリュアスは金色の粒子と化して天へと昇り消えていった。
「ドリュアスと戦えるなんてさすがです、アルフィード殿下」
「レオスこそ、何も教えていないのに戦えるなんて想定外だったぞ」
 百年前まではドリュアスとの戦いなどアルフィード自ら百戦錬磨の騎士団に顕証していた。しかし内乱後の百年の間に国は変わり果て、剣技も情報も失われていた。
「俺は大木を相手に一ヶ月間修行してきました。全ては恩を返すために」
 レオスの両手の小指薬指に肉刺が出来ており並々ならぬ努力が垣間見える。
「そうか、逞しくなったな。この実力なら任せてもいいか。後は――」
 アルフィードは先ほど狙われていた者へ向けて歩み、片手を翳すと、
「その呪印、消すぞ。フィリア・セリシ・アラギ・メギストス・サブマ……フォス・セラピア」
 忌まわしき堕天の呪印は消失し、その者もアルフィードに感謝を示し、エリオットへの謝意を礼儀で尽くした。

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登場人物紹介

クラウディア王国・王子アルフィード


世界はドリュアスと呼ばれる樹木の使いに脅かされる。

千年前、妹エミリー・クラウディアを救う為、

女神アルテミスと儀式を行ない、不老不死となり、神の力「聖法」を授かった。

この物語はそれから千年の世界での出来事となる。​

女神・アルテミス


人々を見守る十二の神の一柱。

アルフィードに力を与え不老不死にした存在。

全知(ゼウス)の命令でクラウディア王国復興の手助けをする。

エリオット・クラウディア(エリー)


クラウディア王国、真の王族。

百年前、欲望に飲み込まれたログワルド家が内乱を起こし、国は瓦解。

生き延びたクラウディア王家の末裔であり、

数多くの子供達が偽りの王の奴隷として使われている。

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