真実がわからないっ!①

文字数 2,212文字

「ほら、ユウはあそこだよ」

 カオルに(うなが)され、高架下に目をやると、そこには学校の制服を着た女子がいた。日曜なのに制服っていう真面目さがユウらしい。
 そして腕には黒い猫を()いていた。

 一瞬、誰かと見間違えたような感覚が(おそ)った。
 気のせいか? いや、このシチュエーション、前にもどこかで……
 河原、高架下、少女、猫……

「ほらキリオ、ユウを待たせるなって」
 カオルが俺の背中を押した。
「お、おうっ」
 押された勢いのまま、河原まで下りてゆく。

「きゃっ」
 俺の足音に驚いたのか、さっきの猫がユウの腕から逃げ出してしまった。
「ご、ごめん」
 ユウは首を振った。
「ううん、いいの。本物が来たから隠れちゃったのかな」
 ん?

「本物?」
「あ、あの子、《キリオ》って名前なの、だから」
「なーる……って、俺の名前つけたの!?」
「やっ、私じゃないよ!」
 ユウが(あわ)てて手を振った。
 確かに、ユウにしては大胆(だいたん)な気がする。

「まだ付き合ってもない人の名前つけるなんて……ね? ホントに偶然、《キリオ》って呼ばれてるのを聞いて、それから気になっちゃったの」
「そーなんだ……」
 ん?

「今の

って……」
「あ、や、それはあのっ……」
 ユウは否定も肯定もできず、それが(かえ)って言わんとしていることを強調してしまう。
「これからっ……じゃなくって! あああ、私なに言ってんだろ?」

「ユウ!」
「えっ、は、はいっ」
「俺と付き合ってくれない?」
 自分でも驚くほどスッと言葉が出た。でも言われたユウの方がビックリしたようで、しばらく固まってしまった。

 そして少しして動いたかと思うと、俺の顔をじっと(のぞ)き込んできた。
 つーか、目! だから目ぇ恐いって!
 ただでさえ目がでかいのに、さらに見開いてる。

「うんっ!!」
 え、今「うん」って?
 そう言った瞬間、ユウは首を縦に振ってそのまま(うつむ)いた。
 そしてまた急にユウが顔をあげたと思ったら……
「うん! うん! うん!」
 おおっ、なんだなんだ?
 いや、返事はOKってことみたいだけど、凄いテンパってるっぽい。

「あ、や、分かった。1回でいいから」
「うん、うれし……」
 素直だなぁ、ユウは。
「俺も……」

「そこでちゅーっと……」
 二人だけのやり取りに、突然の乱入者が。
「え!? おわっ! カオル!」
「カ、カオル? なんで?」
 そういやコイツがいたのを忘れてた。ユウもビックリしてる。

「おまっ、ずっと見てたのかよ! そこはハズすだろフツー!」
「ごめんごめん、いい雰囲気だったのにお邪魔しちゃった」
 両手を合わせて謝ってるが、舌が微妙に出てる。なんだその茶目っ気は、確信犯だろ!

 だけど……そんな態度とは裏腹に、カオルの顔は(さび)しそうに見えた。なんか目も(かす)かに(うる)んでないか?
「カオル、お前……」
 決壊するようにカオルの(ほお)を涙がつたった。
「あれ……おかしいな、あれ?」
「カオル……」
 ユウも心配そうに声をかける。

「あはは、うれし涙」
「え?」
「ユウは私の親友だから……凄くうれしい。これでやっと安心できる」
「カオル……」
「あと、ちょっと寂しいのもあるかも。ユウを取られちゃって。こういうのも嫉妬(しっと)って言うのかな」
「べ、別に取っちゃいねーだろ」
「そだね。でも、おめでと、二人ともっ!」

「わっ」
「きゃ」
 カオルはそう言って、俺とユウをくっつけるように押し当ててその場から離れた。
「このやろっ」
 俺は何とか言い返したが、ユウは顔を真っ赤にしてしまっていた。

 当のカオルは道路側に駆け上がったところで振り返った。
「じゃあねユウ、また明日学校で! お昼はアタシとだかんねー! キリオもじゃあね!」
「俺はオマケか!」
 カオルは手を振りながら帰っていった。

「ったく、あのおせっかいめ!」
「でも……カオルには本当に感謝してる。色々と私のこと(はげ)ましてくれたり、キリオとのことも仲直りのキッカケを作ってくれたり」
「そうだな。いい奴だよな」
「うん!」
 ユウの満面の()みにクラっとくる。つーか、これだけ可愛かったら、落ちない奴なんていないだろ。
 でも確かに、カオルには感謝だな。

「ねえキリオ」
「ん?」
「明日……一緒に学校行かない?」
 ユウが大きな目で覗き込んでくる。駄目だその目は、なんでも「うん」って言っちまいそうだ。

「せっかく付き合うことになったんだし、ちょっとだけ(ひた)りたいなって。ほらっ、お昼はカオルと一緒だし、だから朝」
「ユウ、朝練は?」
「明日だけは朝練サボりっ」
 あの真面目なユウがサボリって、相当うれしいんだな。

「だからキリオも」
「ん、俺? 部活入ってないぜ」
「ちがーう、キリオは遅刻ばっかりだから、明日だけは遅刻サボってよね」
「おう……っ」
 やっべ、いちいち可愛いな!
 この雰囲気だったら、その……そっとユウに伸ばした手が空を切った。
 あれ?
 いつの間にかユウは俺の隣から移動して、道路に上がってしまっていた。

「じゃ、今日は帰るね! 明日の朝、キリオの家に迎えに行くからね!」
「え、ユウ、帰るって、じゃあ送ってくよ」
「ごめん、今すっごく走りたいの! キリオも走る?」

 ん? 走る? いやいや、ついてけねーだろ。
「ああっと、やめとく」
「ははは、だよね。じゃあね!」
「おう、こけんなよ」

 きっと、うれしくて何かせずにはいられないんだろうな。
 それにしても健康的な……(よこしま)な俺とはエラい違いだ。

 一緒に登校か……思い返すと今頃うれしさが込み上げてきた。
 なんだよ、青春してんな、俺!
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登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

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