また記憶がないっ!②

文字数 1,293文字

 キリオの家が見える場所まで来て、キリオが家から出てくるのをしばらく待つことにした。
 こういう時間ができると色々考えてしまう。

― どうしてキリオの記憶は消えてしまったのだろう? ―

 ずっと抱いていた疑問。それは昨日、本人に話を聞いて分かった。
 キリオが何らかの《秘密》を知っていること。そして……その《秘密》を記憶ごと消し去った人物がいること。
 (たちばな)からの報告で、その人物が誰かも(わか)った。それがキリオの身近な人であることも……

 緊急の要件なのに電話できない家の事情が(わずら)わしい。だから直接キリオに伝えないと。

「いってきまーす」
 家から出てきたのはキリオではなく女の子だった。妹さんかな?
 そういえば、キリオって朝弱いんだった。よく遅刻してるみたいだし、待つなら学校の方が良かったかもしれない。
 そんな心配を他所(よそ)に、しばらくしてキリオは出てきた。なぜか妙にキョロキョロしている。
「ぷっ。なんかキリオってば挙動不審。意外な一面見ちゃった」
 それはそうと、早くキリオに伝えないと。

「おはよー」
 声をかけつつ()け寄ると、キリオがこちらを振り向いた。
 思わず口元が(ゆる)んでしまう。出来るなら、このまま一緒に登校しながら話したいと思ってしまう。
 けれど、少し不自然な()が空いた。お互いの目が合った時、キリオはやっと呼ばれたのが自分だと気付いたようだった。
「……えっと、君は?」

 何かキリオの様子が変だ。私のこと……判ってない?
「キリ……」
 名前を呼び掛けて、口をつぐんだ。
「あっ、いえ、人違いでした。ゴメンなさい……」

 何を(あやま)ってるんだろう私。でも、この感じは……前にも一度経験したことがある。
 なんで? どうして? やっとまた距離が(ちぢ)まったと思ったのに。

 キリオがゆっくり私から遠ざかってゆく。そして少し離れた場所から話し声が聞こえてきた。

「おっす! キリオ!」
 キリオの親友の大和タケルだ。

「お、おう」
 ワンテンポ遅れてキリオが反応した。

 そしてもう一人……
「おっはよっ! 二人とも」
 !! あの女!

「おっす!」
「お、おう」
「な~に、キリオ何か変だぞー?」
「だろー」

 (はた)から見れば、きっと何気(なにげ)ないやり取りだろう。けれど、これほど(いびつ)なものはない。
 女がこっちを見て笑っていた。
 やられた!
 さらに女はキリオに何か話し始めた。(いや)な予感がする。いったい何て言ってるの?

 少しして、キリオだけこちらに戻ってきた。
 私と目が合うと、キリオは軽く会釈(えしゃく)し、通り過ぎようとした。

「ちょっと、学校はそっちじゃないですよ」
「知ってます。友達の家に寄るんで」
 !?
 友達って、森戸ユウのこと? でも、あの子は朝練に行ってるはず。
 訳の分からない状況に頭が混乱しそうだった。けれどすぐに、あの女が笑っていたことを思い出した。
 はっとなる。森戸さんは今日はまだ家にいるんじゃ? それを、あの女はキリオに伝えたんだ。

 私はただ、遠ざかるキリオを黙って見ているしかなかった。

 今回も、その前も、付き合った次の日にキリオの記憶が消された。これが偶然ではなく、誰かの意図や目的があるのだとしたら……狙われてるのはキリオ? それとも私?
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登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

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