真実がわからないっ!⑥

文字数 1,510文字

 昨日俺は、《中川シンヤ》が《シン》なのかどうか、それを確かめる為に隣町の高校に行った……はずなのに、カオルのヤツがシンと会っていた。いや、別に誰と誰が会ってようが問題ないんだ。けど違ぇだろ、カオルはシンのこと知らないって言ったろ、なんで嘘ついた?
 そもそもアイを追いかけ回してた連中を動かしてたのが中川シンヤで、そいつがシンなのかどうか確かめるはずだったのに、タイミング悪過ぎだろ。こんなもんただの偶然かもしれない、それなのに嫌でも結びつけようとする自分がいる。疑ってかかったまま頭から(ぬぐ)えない。クソ、最悪な思考だ。
 情報が少な過ぎて何の決定打もないから空振りのままループする。それじゃ答えなんか出るわきゃーない。当然授業もそっちのけだった。

 キーンコーン カーンコーン

 昼休みのチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した。俺の他にもダッシュしてる連中がいて焦ったが、コイツらは一階の購買が目的だろう、どんだけ腹減ってんだよ。まあ俺もクラスの連中にはそう映ってるんだろうが。
 二階まで降りたところで俺だけ足を止めた。目的はここ、三年の教室エリアだ。各教室からの生徒の出入りに注目して、アイが出てくるのを見つけると道を(ふさ)いだ。
「ちょっと、何?」
 怪訝(けげん)な顔をするアイ、さらに何事かと興味本位に視線を送ってくる周りの連中、どっちも気に食わなかったので俺はアイの手を取った。
「ちょ、ちょっと!」
「場所を変えよう」

 有無を言わさず強引に連れ出した。こっちはアイの機嫌を(うかが)ってる余裕なんてない。カオルが俺に嘘をついていた。少なくともアイは、そのことについて何か知ってるはずなんだ。だから今はできる限りの情報を聞き出して、自分で真実を見極めるしかない。
 前に河原でアイに呼び止められた時、アイは俺に何かを伝えようとしていた……それなのに俺はちゃんと話しもせず、()()の果てにアイを避けた。
 たぶん、その結果が今の状況なんだ。

「もういいでしょっ」
 屋上に出るとアイは俺の手を振り払った。続けざまに溜め息混じりでぼやく。
「はぁ……橘が余計なこと喋ったのね」
「え、橘? ああ、あのバイクの」
「まあ、そういうことなら仕方ないけど。でも……ここじゃあね」
 そう言ってアイは今きた方、屋上の入り口を振り返った。別にそっちは何もないだろと言い掛けたが、すぐに人の話し声が近づいて、お弁当や購買の袋を持った生徒が次々にやってきた。しまった、人のいない場所に連れてきたつもりが、単に一番乗りしただけだったのか。
「ごめん、場所ミスった」
「いいわよ別に。どのみち学校じゃ話し辛い内容だし、放課後あの河原に行くわ」
「や、でも俺、今日はちょっと……」
 昨日も一昨日も色んなことがあったので、今日こそはユウと帰らないと。もちろん口に出して言うことではないが、急にふられた為、口ごもってしまった。
「別に邪魔をする気はないわ。あまり時間も取らせないし、森戸さんの部活が終わる前に学校に戻れたら問題ないでしょ?」
「え、や、別に何も言ってないだろ! わ、分かった、放課後な」
 見透かされてるのが妙に恥ずかしくなって言い逃げしてしまった。

 そんな俺と入れ替わるようにユウとカオルが屋上にやってきた。
「よっ、キリオー!」
 カオルだ……特に変わった様子はない。
「ユウ、今日いつものとこで待ってるからな」
「うん」
 ユウはカオルのやってること知ってるんだろうか? いや、知ってるも何も、別に悪いことしてると決まった訳じゃない。
「こらっ、キリオ! アタシは無視かー!」
 ユウと目配せだけして、そのまますれ違った。
「むっか、キリオー! 無視してんな!」

 カオルはいつも通りうるさかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み