また記憶がないっ!③

文字数 1,159文字

― またキリオの記憶が消された ―

 あれから私はキリオの行動を追っている。
 以前は何が起きたか(わけ)(わか)らず、ただショックのあまりに(ふさ)ぎ込んでしまったけれど、今は違う。私だって、いつまでもじっとしたままじゃない!
 あの女は消した記憶の確認か、あるいは別の目的の為か、どちらにしてもキリオか私を監視する為に近付いてくるはずだ。
 そこで、私がキリオを、(たちばな)には私を尾行させる。何も知らずにあの女が()けてくれば、二重尾行になる。まさか自分が尾行されるとは思いもよらないはずだ。

 遠目(とおめ)にキリオの背中が見える距離を保ちながら歩く。今日は一人で帰るらしい。
 でもこの河原(かわら)沿い道は、キリオが家に帰るにしては遠回りだけど……あ、こっちは、あの高架下の方だ。

 キリオとの想い出が(よみがえ)る。あそこで二人は付き合う約束をした。記憶をなくしても、どこか頭の片隅(かたすみ)で覚えていてくれているのかもしれない。
 だけど、そんな私の(あわ)い期待はすぐにひっくり返った。

 高架下には……森戸ユウの姿があった。どうしてあの子が?
 キリオは彼女に近付いてゆく。

 な……に……コレ?

 私と森戸ユウがそのまま()()わったようなシチュエーション……
 何が起きてるの?
 まさかキリオ……こんなことで付き合ったりしないよね?

 駄目だ……見ているのが辛い。弱気な自分が顔をのぞかせ、この場から逃げ出したい衝動に()られる。ふと(うし)ろを振り向いてしまった先に、あの女が立っていた。

「アナタはっ!!」
 思わず声をあげてしまった。しかし、女はとぼけた顔をしている。

「えっと、アタシ……ですか? どこかでお会いしましたっけ?」
「このっ!」
「あっ、すみません。うちの学校の先輩……ですよね?」
白々(しらじら)しい! ふざけないで!」
 カッとなってさらに声が大きくなる。

 少し()を空けて、女はやれやれといった感じで続けた。
「あまり大きな声を出すと、あの二人の邪魔になりますよ」
 そう言ってキリオと森戸ユウのいる方を指差した。
 ここからでもなんとなく(わか)るほど、いつの間にか二人はいい雰囲気になっている。

「なんかお似合いですよねーあの二人。あはっ、そういえば髪の色も一緒だし」
 認めたくない発言なのに、受け入れ(がた)い状況を前に、何も言い返せなかった。
「それじゃ先輩、失礼しまーす」
 女はそう言って一礼すると、河原に降りていった。
「ユウー、キリオー」

 ちょっと!?
 キリオか私の後を尾けさせようと考えていたのに、どちらにも直接(から)んできた。まさかこっちの思惑(おもわく)が読まれてるなんてことは……ううん、それは絶対にないはず!

 でも、だとしたら……あの女の目的は何?
 キリオと森戸ユウをくっつけること? あり得ない。そんな理由で人の記憶を消すなんて考えられないわ。必ず他に理由があるはず!
 こうなったら徹底的にあの女を調べるしかない。
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登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

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