真実がわからないっ!②

文字数 1,222文字


 一人河原に残されたお陰で余韻(よいん)がヤバい。
「お、俺も家に帰るかな」
 河原から道路へゆっくり坂を()がると、めちゃめちゃ足取(あしど)りが軽かった。
 ははっ、浮かれてるなー、俺。

「柳君」

 ふい打ちで名前を呼ばれ、反射的にビクッとしてしまった。やべ、だせぇ。
 顔をあげると、見覚えのある人が立っていた。
 長い黒髪が印象的な、一つ上の学年の《倉木アイ》さん。前にも一度、呼び止められたことがあったので覚えてる。あの時は勘違いだったけど、今回はしっかり俺の名前呼んだよな?
 確かめるように彼女を見ると、逆にこちらを見ていたので思わず目を逸らしてしまった。
 めっちゃ見てるぞ? あの時も綺麗な人だなって思ったけど、そんな人が俺に用って何だ?

「ねえ、さっきの子と君は付き合ってるの?」
「え?」
 おいおい、まさかこの質問……もしかして俺、モテ期なのか!?

「いやぁ、付き合ってるかと言われると……」
 はは、困ったな、“ほやほや”です。って、それは言う必要ないだろ!
 ん? 待てよ今、

って言わなかったか?
 河原から道路に上がる時は、もう俺一人だったはずだ。ということは……その前のユウと一緒にいるところから見られてた?

 何かが引っ掛かった。
 この感じ、いつの間にか誰かに見られてたり……見張られてるような感覚……つい最近もあったよな? そう、電話! 例の非通知の女だ!

 いや、待て待て冷静になれ。もしそうなら、こんな堂々と出てこないだろ。そもそもこんな綺麗な人が……って、それは関係ねぇ! この間、俺に声を掛けてきたのも実は………って、ああ、ダメだ、意識し過ぎだっての!

 でも正直、この人に悪い印象ってないんだよな。
「……」
 あああ、マズい。このままずっと黙ってたらこっちが不審がられちまう。せっかく今は何もかも上手くいってるんだ、トラブルは()けないと。

「あ、えっと、すいません。俺、さっきの子と付き合ってるんで……」
「どうして(あやま)るの?」
「え、ああ本当に、何謝ってんだろ俺。す、すいません。失礼します」

 その場に()づらくなって、逃げるように小走りしてしまった。
 それにしても、どうして謝ったんだ俺? 別に何もしてないだろ。
 なんていうか、倉木さんが悲しそうな顔してたからつい……
 いや、綺麗とか悲しそうな顔してたとかで油断したら駄目だ。どう考えたって彼女と俺に接点は見当たらないし、残念だけどモテ期なわきゃーない。
 さっきのフリだって普通に不自然だったろ。何かあると考えるべきだ。

 そうだ、みんなにも倉木さんのこと聞いてみるか。万が一、誰かを通した知人だったら、それこそ後で平謝(ひらあやま)りしないと。
 だけどもし、誰も知らないようなら……あの人は警戒する必要があるってことだ。


 後日、タケルやカオル、ユウにヒロ、念の為シンにも電話で確認したが、誰も彼女のことを知らなかった。つまり、要注意ってことだ。
 もしまた何か言って近付いてきたとしても、彼女には関わらないようにしないと。
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登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

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