記憶がないっ!⑦

文字数 1,441文字

 例の5人のうち、4人まではとんとん拍子(びょうし)に会うことができた。まあ、何かしら(つな)がりがあったからな。だけど残りの一人、《シン》だけは何の手掛かりもない。俺の交友関係上、どのピースにもはまってないし、年齢も性別すらも分からない。
 つまり、裏を返せば……ここをクリアすれば大きく道が開けるってことじゃないか? 記憶も、例の《秘密》にも、グッと近付ける気がする。

 とはいったものの、どうしたもんかな。しらみつぶしに校内を歩き回るか? けど、交流の広いタケルやカオルが知らないってことは、この学校にいない可能性もあるよな。

 はっ! もしや、妹?
「シン子!」
 ないない、そんな名前。アホか俺は。「おしんこちゃん」って言われてイジメられちまう。
 じゃあ、母さん? それとも親父? いや、どっちも違ぇな。そもそもスマホに親を「シン」とは登録しないだろ。

 つーか、ないものをいくら考えたって仕方ない。それなら直接シンに電話しちまった方が早いな。
 ヒロと会えたのだって、自分で考えて行動したことで道が開けたんだ。頭が冴えてるのか、機運(きうん)が高まってるのか、とにかく今の俺は持ってる! このいい流れのまま一気に5人目だ!

 スマホの履歴を開いてコールに手をかける。タップする寸前で指が止まった。
「なんつーか、全く面識のない相手に電話するのって、結構抵抗あるな……」
 ははっ、何を今さら。今日一日ずっと似たようなことの繰り返しだったじゃないか。別に受け身でいけば大丈夫だろ。あれ? 俺から電話するのに受け身でいいのか? まあ、この際どうでもいいや。行くぜ!

 プルル……プルル……ガチャ

 出た!
『はい』
 男の声だ。
「あー、オレオレ」
 しまった、詐欺(さぎ)電話みたいになっちまった。
『キリオ君か。どうしたの?』
 お、普通に仲良さげじゃないか。けど、タケルやヒロと違って、何かこう真面目というか、育ちが良さそうな感じだな。

「ああ、ちょっとな。それよりシンは今どこにいるんだ?」
『どこって、普通に学校だけど』
 なんだ、シンも学校にいるんじゃないか。なのになんで誰も知らないんだ? もしかして学年が違うとか? げ、先輩か? って、ないだろ。部活も委員会もやってないのに先輩とか、ますます何(つな)がりか分かんねーよ。

「なんだ、学校来てたのか。なら昼飯一緒しないか?」
『え?』
 しまった、意外って反応だ。昼を誘う感じの関係じゃなかったか。

『えーっと、いいけど、君んとこの学校は河川敷(かせんじき)のさらに向こうだよね。もしかして近くに来てるとか? あ、まさか、サボりかい?』
 マジか、違う学校かよ! どうりで誰も知らない訳だ。
「いやぁ、悪ぃ。やっぱまた今度な」
『え? ちょっ、今度?』
「ホント悪い。じゃあな」
 話半分のまま、とにかく強引(ごういん)に電話を切った。これ以上話すと不審がられるのがオチだ。

 それにしても……シンと俺ってどういう関係なんだ? 同中(おなちゅう)か? いや、それが分かったところでなんだって話だよな。
 あっ、昨日のことも聞いてねぇ。まあ、電話の第一声からして、頻繁(ひんぱん)に連絡とってる感じじゃなかったし、いいだろ。

 しっかし、なーにが「大きく道が開ける」だ。まったく(たい)した勘だぜ。でも、思い切って電話したのは正解だった。学校中を探し回ってたら無駄足(むだあし)になるところだったしな。
 まあ主要な交友関係は把握できたんだし、今日だけでこれは充分過ぎる成果だろ。あとは家に帰って一回整理した方がいいな、うん。
 あ……その前に俺って、ちゃんと家に帰れるのかな?

(二話に続く)
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登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

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