真実がわからないっ!③

文字数 1,918文字

 ユウと付き合い始めて変わったことがある。学校帰り、ユウの部活終わりを待って一緒に帰るようになったことだ。
 の……はずなんだけど、今日は先に帰っててと言われた。どうやらカオルから駅前に寄り道していこうと誘われたらしい。あんのヤロ、付き合い始めのカッポーの貴重な時間を(うば)いやがって。
 まあ、なので今日は久しぶりに一人で帰っている。

 何気なくふらふら歩いてると河原沿いの道に出た。
 あれ、こっちは遠回りだよな? 何やってんだ俺。
「ああ、そっか、最近ユウと帰ってたからだ」
 ユウと一緒の時はこの先の高架下に寄って、そこに居ついてる猫にユウが飯をあげてたんだった。つーか、俺一人の時に来てどうすんだっての。エサとか持ってねーし。思わず苦笑いが出る。

 それと時間を持て余してるせいか、普段は気にも()めないことが目に入る。
 この河原沿いを流れる川はかなりデカい。ここから見渡せる範囲だけでも大きな橋が何本も()かっていて、中でもよく立ち寄る高架下の橋が一番長い。それ(ゆえ)か歩道があるにも関わらず車専用状態だ。歩いて渡ってる人なんて(まれ)だし、自転車ですらたまに見かける程度だ。
 けど珍しいな、渡ってる人がいる。それによく見たら、うちの学校の女子っぽい。しかも走ってんぞ!
「まさか、ユウじゃないよな!?」

 なんて冗談めかしたら、ユウではなかったが、見知(みし)った人だった。《倉木アイ》だ!
 あの長い黒髪といい、どこかお上品な走り方といい、間違いない。つーか何やってんだお嬢様が!

 橋の中央に差し掛かろうとした時、今度は河原からスーツ姿の男が二人上がってきたのが見えた。その二人ともが橋を渡り出す。
 なんだなんだ? 今日は結構人が渡ってんだな……って、なに呑気なこと言ってんだ! どう見たってあれ、追われてるじゃないか! おいおい、黒スーツだぜ? ただ事じゃないだろ!
 いやいや、だけど彼女だって俺からすれば要注意人物だ。できるだけ関わらないようにしようって決めたばかりだろ……

 アイが橋を渡りきった時、男達は橋の中央まで(せま)っていた。明らかに差が(ちぢ)まっている。
 なんだ? 何が起きてるってんだ?
「くっそ、とにかくあれこれ考えるのは後だ!」

 アイは橋を渡り切ると左手に向かった。その進行先を確認すると、もう一つの橋が目に入った。地形上、川上に当たる向こうの橋を渡れば先回りできそうだ。
 そのことに気付くと、アイとスーツ姿の男達を目で追いながら俺は走り出していた。幸い向こう岸にはオフィス街が集中してる。そこに(まぎ)れ込めば、あの追っ手どもを()けるかもしれない。

 川上の橋は川幅が狭くなって長さが丁度良いせいか、人や自転車の往来(おうらい)がそこそこあった。向こう岸を走っているアイを見逃さないよう、周りにも注意しながら走る。
 お互い真っ直ぐ進んでいけば合流できそうだ。
 そう思った矢先、アイは細い路地(ろじ)に入ってしまった。
「ちょっ! 待った、見失っちまう!」

 いや、アイなりに追っ手を撒くつもりなんだろう。あそこで元来た方向に戻るとは考えにくい。だとすれば、このまま進めば追っ手より先に合流できるはずだ。その一心でひたすら足を(はし)らせた。

 なんとか橋を渡り切った頃には、すっかり息があがり足だってあがらない。
「くそっ! きっつ……」
 こんなことなら普段から運動しときゃ良かった。
 息を整えながら周囲を見渡した。アイがさっきの路地を抜けてくるなら、そろそろ合流してもいいはずだ。そう思うと同時に少し先の曲がり角からアイが飛び出してきた。
 「来た!」

 アイもこっちに気付いたはずなのに、急に進路を変えてしまった。
「バカ! そっちに行ってどうすんだ!」
 すぐに後を追いかける。

「なんでアナタがここにいるのよ!? ああもうっ、そうじゃない! ついてこないで!」
 あれだけ走ってこの元気、なんだよお嬢様、結構タフじゃないか。
「なに言ってんだ、追われてんだろ! その先の道を左に入れ、オフィス街がある!」
「私に指図しないで!」

 アイは「ふん」って息を荒くしたが、左手を見ると素直に曲がった。オフィス街に入った方が得策だと判断したようだ。
 なんだよ素直じゃないか。

 案の定、そこは予想を超える人でごったがえしていた。ちょうど退社が始まり出したタイミングに重なったらしい。これなら自然と人ゴミに紛れ込むことができる。

 ものの5分としないうちに追っ手を振り切ることができた。まあ、正確にはこちらからも向こうを見失った訳だが。
 そうはいっても油断はできないので、アイと俺は適当なビルの地下駐車場に隠れることにした。ここなら人気(ひとけ)もないし、誰か来たとしても足音ですぐに分かる。パッと逃げ込んだにしては上出来だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

《柳 キリオ》
 主人公。記憶なし。茶髪。高二。

《一之瀬 カオル》
 キリオの幼なじみ。黒髪セミロング。明るく男女ともに交流が広い。ユウとは大親友。高二。

《大和 タケル》
 キリオの親友? 社交的で男らしいガッチリ系。黒のロンゲで一見チャラいがイイやつ。高二。

《森戸 ユウ》
 キリオの友達。一見ギャル風の茶髪ショート。真面目で真っ直ぐ。陸上部。カオルとは大親友。高二。

《村 上ヒロ》
 キリオの友達。金髪で若干ひねくれ気質。キリオと少しキャラかぶり。高二。

《倉木 アイ》
 キリオの彼女。黒髪ロングのお嬢様。強気な性格に見せているが寂しがり。高三。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み