第27話
文字数 520文字
スピンオフ篇#冷蔵庫11
タクミは、ホテルもレストランも予約せず、指輪も用意せず、わたしにプロポーズを果たした。
お兄さんも家業とはいえ社会人の弟の顔を殴るようなことはしなかったので、タクミは2日後にわたしの家にあいさつに来た。
お母さんは、食べ物商売の人は口が肥えているからと言って、ケーキだの肉だのをデパートで買ってきた。凝ったフレーバーティーのボトルも入っていて、ウチの冷蔵庫はよそゆきな感じになっていた。
ケーキを出されたタクミは、味をほめながらキレイに手際良く食べ進め、お母さんの世間話にもそつなく応じた。しばらく不在だったシティーボーイが戻ってきたようだった。
頃合いを見計らって、
「おじょうさんをボクにください。幸せにします」
と、良く通る声ですべり込ませ、両親があらあらと言っている間に、
「じつはナツキさんのお腹には、すでにボクの子供がいます。こちらについてはまことに申し訳なく、お詫びいたします」
と、さっきより深々と頭を下げて伝えた。
両親が、あらあらまあまあと言いながら、お夕食でもご一緒にと誘うと、
「店がそろそろ混み合う時間ですので」
と言って、さっさと帰っていった。
何もかも、店の空き時間に収めてしまう人だ。
タクミは、ホテルもレストランも予約せず、指輪も用意せず、わたしにプロポーズを果たした。
お兄さんも家業とはいえ社会人の弟の顔を殴るようなことはしなかったので、タクミは2日後にわたしの家にあいさつに来た。
お母さんは、食べ物商売の人は口が肥えているからと言って、ケーキだの肉だのをデパートで買ってきた。凝ったフレーバーティーのボトルも入っていて、ウチの冷蔵庫はよそゆきな感じになっていた。
ケーキを出されたタクミは、味をほめながらキレイに手際良く食べ進め、お母さんの世間話にもそつなく応じた。しばらく不在だったシティーボーイが戻ってきたようだった。
頃合いを見計らって、
「おじょうさんをボクにください。幸せにします」
と、良く通る声ですべり込ませ、両親があらあらと言っている間に、
「じつはナツキさんのお腹には、すでにボクの子供がいます。こちらについてはまことに申し訳なく、お詫びいたします」
と、さっきより深々と頭を下げて伝えた。
両親が、あらあらまあまあと言いながら、お夕食でもご一緒にと誘うと、
「店がそろそろ混み合う時間ですので」
と言って、さっさと帰っていった。
何もかも、店の空き時間に収めてしまう人だ。