第19話

文字数 594文字

スピンオフ篇#冷蔵庫3

 日曜日の昼に行くという約束を守って、わたしは教えられた店に向かった。
 川を渡るので来たことはなかったけれど、家からは歩いて25分くらいの距離だ。店が見えてきたのでLINEして、フサフサの街路樹の陰で待った。
 
 駐車場も間口も広くて、思っていたより大きい店だった。返信がないので、まずは入ってみると、「いらっしゃいませ」という気持ちのいい声に迎えられた。

 とりあえず端の席に座ってみた。
 テーブル席だけでも10席以上はあるし、向こう側の小上がりもけっこう広い。
 水を持ってきてくれた女性に、
「キモトさんはいらっしゃいますか?」
 と尋ねると、すぐに、奥から彼が顔だけ出して言った。

「注文して食べてて。もう少ししたら行くから」

「せっかくおごってもらうなら、特上の天ざるはいかがですか?」
 とお店の女性が言ってくれたので、それを注文してみた。

 おいしい天ぷらがたっぷりの特上の天ざるを半分くらい食べたところで、粉っぽい空気をまとった彼が現れた。
「来てくれてありがとう」
「どう?うまい?」
「一番高いやつ頼んだの?」
 とくだけた調子で話しかけてくる。

 そろそろ食べ終わりそうなタイミングで、
「コーヒー飲む?」
 と気の利いたことも言ってくる。

 最後に取っておいたシソの天ぷらを口に入れて
「のむ」
 と答えると、彼はわたしの手をグイグイ引っぱって、店の奥へ向かう通路を進んだ。
 

 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み