きれい、だった。
文字数 488文字
伸ばした手は届かなかった。
ぐずっ、と重い水音がして、僕は崩れ落ちた。
俯せに倒れ込んで、それでも腹這いに這い擦って……ヒメ先輩を目指す。
それでも微塵にも進まず蠢くだけの僕に
ヒメ先輩が近付いて来た。
あ……あ……と、息も絶え絶えに洩らす僕の顎を撫でる。
ヒメ先輩の指先が触れた途端、ぽうっ、とそこだけが、あたたかく灯って。
きれい、だった。
ふんわり、花が綻ぶように笑んだヒメ先輩は、崩れる泥みたいな中から『僕』を抱き上げた。
抱き抱えられ、『家族』と言う単語に、僕は思い出す。
“ほら! 凄いだろっ、最新機種! いっぱい、写真とか動画を撮ろうな”
“もうっ。お父さん、少しは私も撮ってよー!”
“えー、良いじゃないの。せっかくの端末だもの。お母さんは、お父さんに賛成”
“うー……お母さんまでっ”
老いた野良猫を引き取って、たいせつにしてくれた、僕の『家族』。
それが、みんないなくなってしまうなんて、誰が予想出来ただろう。