「────ここはね昔、踏切だったのよ」

文字数 365文字

 薄暗い、地下歩道に僕たちは来ていた。
高校の在った場所から二駅離れた、駅のすぐ横の地下歩道。
────ここはね昔、踏切だったのよ
 へぇ、と僕は相槌を打った。
天井を見上げて、カメラにも、薄汚れた天井が映る。
ここね、
 ヒメ先輩へカメラフォーカスが戻る。
ヒメ先輩は薄く微笑んでいた。
急ピッチで出来たのよ
 ……どうしてだと思う?
 ヒメ先輩の言葉に僕は、わからないと答えた。
人が死んだの。中年男性が、白昼堂々と飛び込んだらしいわ。
駅を発車した上りと駅に到着するところだった下りが、踏切で交差したとき
 人身事故────僕は、ヒメ先輩の説明に息を飲んだ。
轢いたのは、下り電車だった。でもね、上りも、揺れたのよ……
何でかしらね?
 上り電車はまた一つ先の隣駅で長時間停車したって。
……ただの時間合わせだと、良いわね
 先輩は笑って、来た道を引き返した。
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登場人物紹介

ヒメ先輩。『A高校郷土史研究会』を掲げた奥の部屋にいつもいる女性。セーラー服を着ていて、一見普通の女生徒のようだが……?ただ歩くだけで怪異と遭遇する世請くんを見兼ねて、世話を焼いている。

世請くん。何をするでも無く、ただ歩くだけで怪異や事件に巻き添えを食らう男子高校生。ヒメ先輩曰く、世請くんの意志に関係無く自ら怪異に向かっているとのこと。本人に自覚は無く何なら不服ですら在る……が、実質ヒメ先輩に助けてもらっている現状から強く反論出来ない。

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