僕、あのとき何て話してた?

文字数 422文字

 え、と僕は思うが、声が出ない。
 何でだろう。声を出そうとしているのに。
 手が、ぶるぶると、震える。持っているカメラも、当然ブレる。
 おかしい。僕はさっきまでヒメ先輩と喋っていたはずだ。撮影の許可を得て、地下歩道で踏切事故の話を聞いて。
 公園? には自殺者が多いとか、この辺は市自体が軍都だし、仕方ないとか……
あれ?
 僕、あのとき何て話してた?
 ……。
 僕は、いつから話せなかったのかな?
 僕は、僕は、僕は、僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は────……
……あのね
 僕の反応を待っていたっぽいヒメ先輩が、一呼吸置いてから口火を切った。
私ね、世請くんのこと、名字で呼ばないのよ
 僕はヒメ先輩を見詰めた。
寸沢嵐くん、なんて、呼ばないってこと
“で、どうしたの……寸沢嵐くん(・・・・・)
 出会い頭のころ。詰まるところ、最初から。
僕はヒメ先輩へ手を伸ばし端末を落とす。
 くるくると、回って落下した端末の液晶に一瞬映った僕は首が、くの字に曲がっていた。
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登場人物紹介

ヒメ先輩。『A高校郷土史研究会』を掲げた奥の部屋にいつもいる女性。セーラー服を着ていて、一見普通の女生徒のようだが……?ただ歩くだけで怪異と遭遇する世請くんを見兼ねて、世話を焼いている。

世請くん。何をするでも無く、ただ歩くだけで怪異や事件に巻き添えを食らう男子高校生。ヒメ先輩曰く、世請くんの意志に関係無く自ら怪異に向かっているとのこと。本人に自覚は無く何なら不服ですら在る……が、実質ヒメ先輩に助けてもらっている現状から強く反論出来ない。

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