反撃の時
文字数 1,956文字
キヨは青年と並んで、扉の影にしゃがんでいた。狭い階段で出くわすと不味い。隠れて、やり過ごしたほうがいいとの、彼の案だった。
行きよりも荒々しい足音が、ぼやぼやとした灯りと共に近付いてくる。
何も知らないまま、独り言を続けていた都路が、口を
無言のまま、そっとその背を押すことで、青年はキヨを
闇の
青年がキヨを
始末の悪い如月は、階段の先の扉も開け放ったままだ。行く手には、四角く切り取られたように、光。
そこを潜り抜け玄関へ――と、こっちだと青年がキヨの手を引く。
それは、追い詰められたら逃げ場がないのではないかと、幼い胸にも疑問が浮かぶ。しかし青年は、キヨを引き摺るようにして階段を駆け上がる。
この先には華子の部屋がある。
――華子様!
もしかして、と、キヨは胸をときめかす。
彼は華子も連れ出し、キヨと一緒に逃がしてくれようとしているのではないかと。
如月の怒号。
だが、青年を認めた彼女は、激しく
二人はその間に、二階へと。
明り取りの窓から差す陽の光が、青年を照らす。彼の黒い上着は……、上着だけではなく、その全身は泥に
青年は、ここに隠れているんだ――と、キヨをバルコニーの陰に座らせる。
その先の廊下は停電のせいで、真っ暗だ。
汗ばんだ分厚い肉の中心で、銀色に輝くそれは――黒衣の青年の上着の釦。
たかが釦!
如月は、飛んできたものを刃物だと信じ、あのように狼狽えた
やっとそれだけ言うと、まだ同じ姿勢で顔色を
「忘れるもんか! アンタも、あいつらのことも、片時だって忘れたこたァないさ。よりにも寄って死産だなんて、大嘘つき
青年は、ここで少し哀しいような情けないような、微妙な表情を浮かべる。
キヨはそのやりとりを覗き見ながら、次第にじりじりとした気持ちになっていった。
こうしている暇に、華子の元へと向かいたい。差し迫った危機が去ったような今、華子のことが心配で堪らなくなっていた。
この騒動は、華子の耳に届いているのだろうか。