二少女の語らい
文字数 2,216文字
基本的にベッドから出ることのない華子でも、体調が特に良いときには、裏庭で日光浴をすることがあった。当然、あまり強い日差しには耐えられないので、それは午前中の早い時間に行われる。
お日様の光は、わたしの身体の滋養になるの、と、華子は都路が運んできた寝椅子に横たわり、心地よさげにキヨに話しかける。
華子は事ある
ならば滋養の方が良い言葉だと、華子はキヨに告げた。
キヨには、華子が言うことの半分も理解できなかった。それは華子も察するところである。
キヨはそれから、華子が滋養と口にする
華子と並んで難しい本を読む為に、もっともっとよく学ばねばならないと決意を新たにする。
実のところ、キヨは村に同じ年頃の女児がいなかったため、大勢で遊んだことはさほどなかった。引っ込み思案なところがあり、村の男児は総じて乱暴で意地悪だったのだ。
部屋の中で一人遊びをするか、母にくっ付いて井戸端にいるか、畑を手伝うか、その程度のことしか知らない暮らしをしてきた。
華子は瞳をきらきらさせて、こちらを見つめている。日差しを映していたのかもしれないが、キヨにはそれがとても
話の接ぎ穂のつもりなのだろうが。
――前にいたお友達。
――その前のお友達。
――おままごと。
キヨは華子と、ままごとをしたことはない。
問い正すような調子が、声に
たちまち自分の口調を恥じたが、それが少女らしい
華子は、あら、と
キヨも釣られて目を伏せて、気不味い空気が二人を包んだ。
――お父様から言ってはいけないって注意されていたのに。
キヨは胸の中で、華子の言葉を繰り返す。
そのお友達は、何処へ行ったのか。
ひょっとしたら奉公には期間が決められていて、皆、家へと戻ったのか。それとも――キヨは考えを巡らせる。
自分は――どうなるのか。
ずっと、ここに、華子の傍に置いてもらえるのだろうか。
明朗な空の下に相応しくない、どんよりとした雰囲気。
それを破ろうと言葉を探し始めていたキヨは、つと
寝椅子から飛び起きるように半身を起こした華子が、まん丸く目を開いて凝視してくる。
キヨの身体は、中空にあった。
眼下の華子が、見る見る色を無くしていく。
逃れようとして、キヨは胴に巻き付く細長いものを認めた。
人間の、腕だ。
首を捻じ曲げて、振り仰ぐ。
あの、
あの、黒い馬と共にいた、
あの、黒い馬と共にいた黒衣の青年が、キヨを小脇に抱えていた。
青年は片頬で笑い、顔にかかる長い前髪を、唇を尖らせてふうっと吹き上げた。くっきりとした輪郭の目が、しっかりとキヨを捉えている。
助けて、と、言う間もあらばこそ、キヨの視界は反転し、激しくぶれた。
青年が駆け出したのだ。
喉も裂けよと叫んだ華子は、やがて寝椅子に倒れ込む。
娘の悲鳴を聞きつけた都路が、屋敷から飛び出してきた。
呼吸を乱した華子は、上手く喋ることができない。
如月は、少し遅れてやって来た。息荒く震えている華子が弱弱しく人差し指で差している、裏庭を越えた向こうの森に目を凝らす。何かを察したのか、チッと舌打ち。
そして、都路に向かって早口に話しかける。
都路の背に緊張が走る。
言うだけ言ってしまうと、如月はその場を立ち去った。
都路は華子を抱く手に力を込めて、ただ一度、強く頷いた。