新しい生活
文字数 1,834文字
翌朝からキヨは、一日の大半を華子と共に過ごした。
八時に朝の挨拶をし、そのまま華子の部屋で朝食を摂る。都路が華子の勉強をみるときも、同席を許された。
華子の提案で、キヨは生まれて初めて鉛筆というものを握ることになる。
都路は最初反対したが、華子の勉強が終わってからという約束で事は通った。
ただ、昼食後からは二時間程、華子の部屋から遠ざけられる。お昼寝の時間なのよ、と、華子は言ったが、それだけではなく診察や治療が行われているらしいことを、キヨは察した。
といっても、医者が来ることはなく、意外なことに如月がその代りを務めているらしい。相変わらず
華子の部屋から出てきたばかりの如月が、
キヨは、小さく叫ぶと、すかさず部屋を出る。
コンコンコン。控え目なノックが三度。
華子も付き合い、済まし声で応えた。
ドアーが開き、一礼してキヨが入ってくる。音を立てないようにそっと閉じると、ゆっくり歩いて華子の側へと来た。
何とも不自然で、ぎくしゃくとした一連だったが、華子は真顔を通した。それがキヨには、とても嬉しかった。
キヨは、午後からの逢瀬の時間に、華子から礼儀作法の
まだ華子が五つ六つの頃に愛読していた、少女が人形にエチケットを教え込むという、実に教育的な作りのものだ。それを使うことにより、キヨにとって簡単な読み書きの学びにもなる。
キヨの飲み込みはとても良かった。言葉使いも、元々、母親との〈内緒事〉のこともあり、華子は早くも及第点を出したくらいだ。
華子の先生振りもなかなかに優秀だったが、それに加えて普段より、敬愛する華子の喋り方や振る舞いを、キヨが真面目に観察していたことも大きいだろう。
褒められて、キヨは頬を染めながらも、最初の日の都路の言葉を思い出していた。
華子は、学校に行ったことがないという。
キヨもなかったが、理由が違った。
華子の部屋の脇にある檻が何かも、すでにキヨは熟知していた。
檻のように見えたのは、昇降機の扉。これが伸び縮みして、ドアーの役目をする。
華子は自力歩行が難しい。階段の昇り降りなど、論外だ。なので、基本、この昇降機で階上階下への移動を行う。広い屋敷だが、風呂場は一階にしかない。
キヨはこの昇降機に興味津々だったが、どうにも理屈が解らず、怖い気持ちが先にある。
華子の入浴に付き従う為に、数度、キヨも共に使った。しかし、昇るときは
都路は一応、キヨ一人での使用をきつく禁じたが、言われるまでもないことだった。