幕間講義 2 改正いじめ防止対策推進法・附帯決議 (中)
文字数 7,239文字
直実:そこの会長。これは講義だからあまり恋愛や嫉妬の方向には話を持って行かな
いようにな
倉本:すみません
中条:(この男性……やっぱり出来る?!)
直実:……それで、次に眉をひそめる人が多かった生活指導の先生なんだけど、
実は今回の話の中で一番問題がなかった、言わば模範に近い行動だったんだ
実祝:それはおかしい。あたしたち女子の前で“孕む”とか“小指をたてる”とかは
ハッキリ言って気分が悪い
優珠:それに園芸部の事情聴衆の時にわたしの太ももやスカートばかり気にしてた
のも忘れてないわよ
優希:あのクソ教師……僕の妹にそんな目を向けやがって
佳奈:ホンマに優珠ちゃん想いやなぁ
優珠:お兄ちゃん大丈夫。わたしはハレンチ女とは違うから一切見せてないわよ
愛美:……
咲夜:あの……愛美さん?
雪野:岡本さんがハレンチ……
彩風:冬ちゃん。多分今は喋らない方が良いよ
直実:はいはい。そこ、説明の途中だから少し落ち着いてな――今回そこに関しては
賛否両論あるけど、そこは劇中で教頭先生がしっかりたしなめてるから、そこ
には触れない。ただ小指を立てるのは、良いとは言えなくても駄目とも言えな
いからここにも触れないようにする。
今回生活指導の先生の模範となったのは、加害該当生徒に対して毅然とした
態度でしっかりと注意、指導できたことなんだ。
優珠:そうゆえばあの時も、あの歩く性犯罪者に怒鳴り散らしてたわね
佳奈:優珠ちゃんがそう言うって事は、よっぽどやったんやな
穂高:あの時は私ですらもびっくりしたわよ
直実:この模範となった生活指導の先生だけど、ある都道府県の指導要綱の
“いじめが発生した場合における”(※1)や、文部科学省発行の
【いじめ重大事象に関する調査のガイドライン③項】(※2)にも表記されて
る中に、いじめた側に対する“毅然とした対応をする事”その際に一方的に悪い
と押しつけず、
教育的配慮の元
どうして悪いのか、何が悪かったのかを合わせて相手に理解させる。これが完璧だったんだ。
その証拠の台詞、一連の流れを再掲するな(全て145話より)
「ほぅ……戸塚ぁ。お前の主張とこいつらの言う中身が随分と違うじゃないか。これはどう言う事だ?」
朱寿:実際はこんなやり取りだったんだね
実祝:すごい……そして酷い
中条:男のクズっぷりが全部分かりますね
佳奈:ウチがこんな場面に出くわしたら多分泣きっぱなしなんやろうな……
巻本:岡本……何回も言うようだけど、本当にすまなかった
愛美:もう終わった事ですし、それにもう処分も決まってこの二人共が学校から
いなくなったんですから、必要以上に自分を責めないで下さいね。私との
約束ですよ
雪野:……岡本先輩。本当にすみませんでした
彩風:……
倉本:しかしこの学校にもこう言う生徒がいたんだな……俺は全く気づけ
なかった……
直実:今回掲載したのはみんなに反省して欲しいからじゃないし、愛美ちゃんの
言う通り処分自体はもう出てるんだから同じ事を繰り返さないようにしてい
くしかない。その上で、話を元に戻すと――
中条:(……あーしのしてる事は本当に正しいのか。もう一度考えるべき……か)
直実:――上から戻って順番に行くけど、この初っぱなの台詞だけど、頭ごなしに
決めつけるんじゃなくてしっかりと双方の言い分に一応でも耳を傾ける。これ
は先に述べた
教育的配慮
の他、【同法附帯決議 文部三号】にも表記してある“公平性・中立性が確保されるよう努めること”が守られている具体的な話かな
朱寿:……さすがナオくん。わたしでは聞き漏らしそうな所までしっかり見てくれて
るんだよ
佳奈:そうですね。ウチやったら間違いなく怒鳴り声に萎縮してもうて内容どころ
じゃなかったやろうし
直実:ありがとう。でも、頭に血が上った状態でもしっかりと意識出来てるこの生活
指導の先生は、言葉は乱暴でも押さえるポイントは押さえてるんだ。そして次
に
「調子乗ってんのはお前だろっ! 俺らが知らんと思って勝手な事ばっかり言ってんじゃないぞ! お前のコレについたアザは教頭先生もちゃんと目にしてんだぞ! アレは女が付けられるようなアザじゃないらしいじゃないか! 男なら逃げずに正直に言えや!!」
直実:ちゃんと事実を見た上でしっかりと向き合ってる点。その上、先の台詞の理由
としても成立してる。これは動かぬ証拠として取り扱えるから、加害側も言い
訳しづらい
優珠:たしかにこの後でこの歩く性犯罪者は話題を変えてたわね。あれはゆい訳出来
ないと分かったからなのね
直実:そう言う事。この時点で体勢は決してるんだけど、これは勝ち負けじゃなくて
あくまで“指導”だから先の指導要綱にある『謝罪や責任を形式的に問うことに
主眼を置くのではなく、社会性の向上等、生徒の人格の成長に主眼を置いた指
導を行うことが大切である』を意識してのやり取りなんだ。ちなみに文部科学
省のガイドラインでは
加害者に対して、個別に指導を行い、いじめの非に気付かせ、被害児童生徒への謝罪の気持ちを
醸成
させる。直実:となってるんだけど、ここで注意して欲しいのが文末にある“謝罪の気持ちを
[醸成させる]”なんだ
優珠:醸成って……そうゆう気持ちを持つだけで、直接謝らなくて良いって事?
巻本:そうなんだ。さっき
あくまで『指導』だから、同じ事を繰り返さないための啓発・指導になるんだ
穂高:もう一つ言うと、後の巻本先生の対応の説明で同じ話をするけど、
【いじめ防止対策推進法 第二十三条⑤項】
の中に“いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との
間で争いが起きることのないよう、”と言う文言があって、仮に謝罪させると
言っても、それぞれの親御さんも含めて二人を合わせる訳にはいかないのよ
直実:……ちなみに愛美ちゃん。もう一回この男子に会ったらどうする?
愛美:……怖くて何も出来ないと思います
直実:そしたらあの天城って女子に会ったらどうする?
愛美:……もちろん仕返しをしますよ。
優珠:そうね。それくらいはさせてもらわないと話にならないわね。さすが愛美先輩
分かってるじゃない
穂高:それじゃ駄目なのよ。処分に関しては法で裁く。もしここで岡本さんが天城さ
んに手を出したら、次は岡本さんが暴力で処分・処罰の対象になるわよ
実祝:結局泣き寝入り
蒼依:だからもうそう言う人とは一切関わらない方が良いんだよ。私の為に愛ちゃん
が振り回される必要なんて無いの
咲夜:……
朱寿:だからって愛さんや親友さんの体に傷を付けて音沙汰無しって言うのは納得
いかないんだよ
咲夜:あたしが言えた義理では無いのは分かるけどそう思う。
巻本:そう……だな。だから学校側が生活指導の先生の後に、しっかりと関係生徒
から聞き取りをして、裏付けも取った上で『学校側として』処分を出したんだ
直実:すみません先生。その話はこの生活指導の先生の後にさせてもらっても良い
ですか?
巻本:もちろんだ
愛美:先生。元気出して下さいね
優希:……愛美さんは僕の彼女なのに
優珠:ロリコン教師のくせに
中条:だったら男らしく副会長がフォローすれば良いのに
佳奈:変なとこでこの二人も息ぴったりなんやから
直実:……そして最後の方だけど、生活指導の先生の加害生徒への再度理解の促し
だな。
「何が付き合ってたら普通だ! 大体世の中を何にも知らない、社会経験もない何一つ責任も取れない半人前の男のくせに、何を勘違いしてるんだ!」
「お前……俺らを舐めんなよ? じゃあ聞いてやる。お前、女を傷物にして相手の親にどう説明するつもりだ? 学生の分際で誰が笑って許してくれるんだ?」
「おい貴様ぁ……言うに事欠いて、みんなお前と同じにするなよ? 後、今のお前の発言で余罪があるって自分から言ったも同然だからな。お前、自分の進退も覚悟しとけよ」
「お前はやっぱり分かってないただのガキだな。その件は生徒指導室でじっくり指導してやるけどその前に一つ聞かせろや。さっきから将来とかカネの話ばっかしてるけどな、戸塚! この学校へ通わせてもらってる金は誰に出してもらってるんだ! 言ってみろ!」
直実:これらの文は一聞怒鳴り散らしてるように聞こえるかも知れないけど、
初めから一つずつ話を組立てて、相手に何が悪かったのか、何がいけないのか
を啓発する為の問答に近いんだ
優珠:確かに初っぱなからお金の話をされたって、意味が分からないしお金だけで
解決出来るなんて反吐が出るわね
佳奈:せやな。お金貰ったって恐怖心は無くならへんし傷も治らへんもんな
実祝:そう。愛美の笑顔はお金では買えない尊いモノ
朱寿:そうなんだよ。わたしも愛さんもお金に釣られるなんて事は無いんだから、
こんな事があったなんて一生残ってしまうんだよ
優希:それでも僕は、愛美さんを離すつもりは無いよ。むしろ愛美さんを今後も
支えていきたい
中条:……副会長。それが本心かどうかは今後見続けますからね
蒼依:空木君が愛ちゃんを泣かせた時点で私は認めないから、そのつもりはして
おいてね
愛美:……みんな……本当にありがとうっ そして優希君っ! これからもよろしく
ねっ!
優希:……
佳奈:うわぁ。お兄さんめっちゃ嬉しそう
倉本:(……なんとしてでも岡本さんが欲しい……でもどうしたら……)
彩風:清くん……
雪野:人道的にワタシが岡本先輩から空木先輩を奪い
返す
なんて出来なくなってくるじゃないですか
直実:そしてここのやり取りで一番重要なのが何か分かるかな? これがこの
生活指導の先生が模範だと言う決定打になってるんだけど……
全員:……
倉本:(さすがに分からんな……)
教師:(……多分あれがないからでしょうね)
直実:優珠希ちゃんなら分かるかな?
朱寿:(な?! なんでわたしじゃなくてこの憎い妹さんなの?!)
優珠:ひょっとして――暴力?
直実:そう! 正解!! この生活指導の先生はいかに腹が立とうが、いかに生徒
が生意気言おうが暴力を振るおうともしてないんだ。全部言葉だけで分からせ
ようとしてる。これは非常に重要で、昨今体罰問題が言われるようになって
一番始めに注目される。そしてこの根拠として【学校教育法 第十一条】と
【いじめ防止対策推進法 附帯決議文部七号】にある
(学校教育法 十一条)
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。 但し、体罰を加えることは
できない
。(附帯決議文部七号)
七 教職員による体罰は、児童等の心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるものであることに鑑み、『体罰の禁止の
徹底
』に向け、必要な対策を講ずること。直実:この二つが大きな根拠なんだ。ちなみに
【改正児童福祉法三十三条の二の二 及び 同法四十七条 ③号】
にも体罰の禁止が明記されてるけど、これは別件で取り扱うから、今は気に
しなくてもいい
朱寿:じゃあ教師からの体罰は絶対駄目なの? 逆に体罰以外なら何をしても
良いの?
巻本:それについては俺から答えても良いか?
直実:もちろんです。現役の先生から話を伺えるなら是非お願いします
穂高:……
巻本:ありがとう――先の質問だが、どんな理由があっても駄目だ。先に挙げて
貰った二つの法律の条文をしっかり読み込んで貰えれば分かる通り、
『懲戒』は認められても『体罰』は認められてない。
その証拠に、『体罰』に関しては但し書きの例外もないし、附帯決議の方でも
『体罰禁止の“徹底”』とあるから一切認められてない
穂高:そして何をしても良いのかというとに関しては私から答えさせて貰うと、
これも駄目よ。あくまで“指導”の範疇である事。指導要綱の中にもあるけど
“社会性の向上等、生徒の人格の成長”が基本なのよ。それに『懲戒』にしても
【いじめ防止対策推進法 第十七条 及び 第二十三条 ③項~⑤項】
にある通りあくまでも慎重に、更生や助言の範疇で行わないといけないのよ
中条:それってつまりヤッたもん勝ちって事ですか? あーしら女を何だと思ってる
んですか?
優珠:だからサルみたいな男なんて必要ないのよ
中条:お前とは話が合いそうだな
優珠:はぁ? なんでイキり女にお前呼ばわりされないといけないのよ
佳奈:優珠ちゃん? そんな言い方あかんで?
中条:男嫌いのクセに何で男に媚びた格好してんだ?
雪野:ちょっと! 空木先輩の妹さんなんですから失礼言わないで下さい
優珠:は? やんのか? こら
中条:上等じゃん! 受けて立つぞ?
優希:二人共。愛美さんが困ってる
二人:……
実祝:さすが副会長
愛美:……ありがとう優希君。でも男の人の中でも、今の優希君みたいにそんな人
ばっかりじゃないんだよね
朱寿:そうなんだよ。空木くんみたいに全体を見て物事を判断できる男性もいるし
ナオくんみたいに女の子を大切にしてくれる男性だっているんだよ
直実:朱寿、ありがとうな
実祝:いつ見てもこの二人の関係はステキ
咲夜:被害者側もこれだけたくさん守られてたんですね。ここまで守らないといけ
ないくらいあたし達のした事は卑劣なことだったんですね……本当に謝っても
謝り切れないよ
巻本:確かに月森のした事は褒められた事じゃないが、それでもいじめに関する
指導要綱(※1)や、先の文部科学省からのガイドライン(※2)の中にも
あるように、“いじめた生徒への指導に当たっては、いじめは人格を傷つけ、
生命、身体又は財産を脅かす行為であることを理解させ、自らの行為の責任を
自覚させる”と言うのがあって、今。月森がしっかりと理解してくれたなら、
俺たちとしては嬉しいし、良かったと思う事も出来るんだ
穂高:それは私も同じ意見よ。そして現段階ではそこまで細かく話はしないけど、
月森さんのように自分のした事を反省できる、今後に生かせるようにと制定
されてたのが、来年度から改正される【改正少年法】の本懐なのよ
実祝:そう。ただあたし個人としては【少年法】なんて意識せずに、愛美にも
さんにも一度だけ咲夜を許して欲しいって思ってる。もちろんあたしも同じ
女だから、
だから今すぐにとも言えないし無理にとも言えないけど、咲夜は同じ間違い
は絶対しない。それはあたしが責任を持つ。それだけは理解して欲しい
咲夜:実祝さん……
慶久:……なんかよく分からなくて今まで黙ってたけど、ねーちゃんなら多分最後
には赦すぞ? ねーちゃんってそう言う奴だから。でも俺も身内の一人として
ねーちゃんをこんなした奴もそうだし、愛しの蒼依さんに対して取り返しの
つかない事をした男は許すつもりはねーけどな
咲夜:慶久君。本当にありがとう。でもあたしは自分のしてしまった事に対する結果
にはしっかりと向き合いたいんだ。だから慶久君の気持ちだけもらっとくね
巻本:月森……ありがとう。確かに【同法 十七条や二十三条】のように法律もある
んだろうけど、俺としてはそう言うのを抜きにして月森の応援や支援はしてい
きたい。それが岡本が俺を理想の教師へと向かう応援をしてくれる動機にもな
ると思うから
穂高:こう言う巻本先生の気持ちが岡本さんの心を掴んだんでしょうね
蒼依:それでも私は……咲ちゃんを許すつもりは無いよ
愛美:蒼ちゃん……
優珠:つまり、あの生活指導の先生も暴言と怒鳴り合いの応酬に乗っていただけだ
と思ってたけど、裏ではしっかりと各種法律や責務に関して意識してたって
事なのね
直実:そう言う事。
雪野:じゃあ岡本先輩の担任の先生はどうなんですか? 今までの話を振り返る限り
決して褒められた状態じゃないみたいですけど
彩風:冬ちゃん。今のしんみりした雰囲気で言う事じゃないって
中条:でもこのロリコン教師も、愛先輩の恥ずかしい所を狙って見てたり、助けを
求めた愛先輩をあしらったりしたんですよね
優希:先生。学校に告発しても良いですか?
愛美:優希君。先生は私も応援しているから、先生の笑顔が無くなってしまうような
話はしないで欲しいな
優希:――っ! 分かった
佳奈:お兄さん。もう岡本先輩に敷かれてんねんな
優珠:そんなのわたしが認める訳ないじゃない
倉本:このままだと岡本さんが空木家公認になってしまう!
彩風:(そこまでして愛先輩なの?!)
巻本:ありがとう岡本……でもそれを言われると俺は何も言い返せないな
愛美:先生。さっきも優希君相手に言いましたけれど、私は先生の応援をするって
もう決めているんですよ? それに大人になったら失敗をしてはいけない
なんて、それはあんまりだと思いませんか? だから胸を張って下さい。
慶久:な? 結局ねーちゃんはこうやって赦して行くんだ。だから俺たちがその分
しっかりしないと駄目なんだけどな
朱寿:そうなんだよ。ようやく慶久くんが分かって来たんだよ
佳奈:なんや本編みたいな空気になってんな
優希:でもこれが愛美さんだから。その分僕がしっかり愛美さんを守っていくよ
蒼依:何度でも言うけど、空木君が愛ちゃんを泣かせた時点で会わせないのには
変わりないからね
咲夜:……
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