第8話

文字数 458文字

受付が慌ただしくなってきたのを察知したのか、チーフがバックヤードから戻ってきた。
「新患?」
「は、はい、そうなんですけど…あの、」
私の挙動不審な様子を見てチーフがどうしたの、と聞く。
「ここ、見てください」
私は小声でチーフに保険証を見せながら言った。
彼は芸能人だった。
笹平優生(ささひら ゆうせい)。
本名と芸名が同じだった。
彼はSNSで10万人弱のフォロワー数がいる。
よく舞台を観劇する友人がSNSで頻繁に彼の記事をシェアするので、私はこの名前を何度も目にしたことがあった。
「私は知らないけど、有名な人?」と小声でチーフが言う。
「えっと、テレビとかには出てないんですけど、ゲームとかアニメとかをモチーフにした舞台では有名な俳優さんです」
思わず声が震えた。
受付のカウンターから彼の様子を垣間見る。
トートバッグの中から何かの資料に目を通したり、スマートフォンを操作しているのでこちらに気づくことはない。

3ヶ月前に友達に誘われて連れて行ってもらった公演に彼は出演していた。
「チーフ、私、この人の出てる舞台、見たことあるんです」
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