第12話
文字数 663文字
検査室からカタンと物音がした。
いつの間にか時計の針が進んでいる。
さっきまで全然時間進まなかったのに。
そろそろ診察が終わる頃だろうか。
「ありがとうございましたー」と院長にお礼を言って彼が待合室のソファーに戻ってきた。
2人きりの空間。
パソコンの画面を見るふりをして、私は彼の様子を観察した。
彼はやはり手元のスマートフォンに夢中で視線が重なることはない。
本当に実際の生活の中で芸能人と遭遇することなんてあるんだ…
モコモコハットは検査のときに外したようで、このとき彼の茶色い髪を初めて見た。
以前イベントで見たときは役に合わせて青髪のウィッグを被っていたのでわからなかったのだ。
ふわふわでつやつやの髪にうっとりしてしまう。
あ、だめだめ、仕事しなくっちゃ。
点数計算をして処方箋と領収書を準備した。
「さ、笹平さんどうぞ」
名前を呼んだだけで声が上ずってしまった。
心臓の音が騒がしい。
「本日お会計が2810円です」
ドキドキしてるのが伝わらないように落ち着いた様子を装ってみたが、変な風に見えなかっただろうか。
「はい」と言って彼は財布を取り出した。
しかしカウンターの銀色のトレイになかなか手が伸びない。
待っていると彼が申し訳なさそうに切り出した。
「あの、ここってクレジットカードとか電子マネーとか使えますか…?」
「…申し訳ありません、こちら現金のみなんです」
「そうなんですね、どうしようかな…」
どうやら手持ちの現金がないようだ。
「あの、銀行行ってきます!すみません!すぐ戻ります!」と言って彼は傘も持たずに慌ててエレベーターで1階に降りていった。
いつの間にか時計の針が進んでいる。
さっきまで全然時間進まなかったのに。
そろそろ診察が終わる頃だろうか。
「ありがとうございましたー」と院長にお礼を言って彼が待合室のソファーに戻ってきた。
2人きりの空間。
パソコンの画面を見るふりをして、私は彼の様子を観察した。
彼はやはり手元のスマートフォンに夢中で視線が重なることはない。
本当に実際の生活の中で芸能人と遭遇することなんてあるんだ…
モコモコハットは検査のときに外したようで、このとき彼の茶色い髪を初めて見た。
以前イベントで見たときは役に合わせて青髪のウィッグを被っていたのでわからなかったのだ。
ふわふわでつやつやの髪にうっとりしてしまう。
あ、だめだめ、仕事しなくっちゃ。
点数計算をして処方箋と領収書を準備した。
「さ、笹平さんどうぞ」
名前を呼んだだけで声が上ずってしまった。
心臓の音が騒がしい。
「本日お会計が2810円です」
ドキドキしてるのが伝わらないように落ち着いた様子を装ってみたが、変な風に見えなかっただろうか。
「はい」と言って彼は財布を取り出した。
しかしカウンターの銀色のトレイになかなか手が伸びない。
待っていると彼が申し訳なさそうに切り出した。
「あの、ここってクレジットカードとか電子マネーとか使えますか…?」
「…申し訳ありません、こちら現金のみなんです」
「そうなんですね、どうしようかな…」
どうやら手持ちの現金がないようだ。
「あの、銀行行ってきます!すみません!すぐ戻ります!」と言って彼は傘も持たずに慌ててエレベーターで1階に降りていった。