第11話

文字数 600文字

数千人規模の会場。
暗転した瞬間、会場が様々な色で彩られる。
観客の持っているサイリウムがそれぞれ眩い光を放ち、その熱い想いとともにステージに向けられる。
その頃は流行病の影響で、観客は全員マスク着用、そして声を出して応援することが禁止されていた。
声援を送れないため、うちわやサイリウムだけで気持ちをアピールするしかない。
ライトが明るく舞台を照らし出すと、タイプの違うたくさんのイケメン達がステージ中央の花道に何人も飛び出してきて、彼らが登場するたびに観客たちのボルテージが上がっていくのを肌で感じた。
そこで中盤あたりにゆっくり登場したのが笹平優生だった。
彼は主役ではなかった。
しかし凛とした佇まいで、台詞を口にすると会場の空気を一変させるそんな存在感があった。
彼が話し出すと、会場はさらに水を打ったように静まり返る。
呼吸をするのも忘れてしまいそうなほどの空気で圧倒された。
彼の一挙一動を見逃すまいとみんなが固唾を呑んでステージを見守る。
歌を歌うところでは指先まで神経が研ぎ澄まされたキレのあるダンスも披露し、終盤では時折微笑みながら観客席に手を振ったりファンサービスもしていた。
…うわぁ、こんなに綺麗な人、世の中に実在するんだ。
笹平優生は雪穂とその友人、どちらの推しでもなかったが私はうちわとサイリウムを両手に持ち、まるで催眠術にかけられたように、公演が終わるまで彼の動きだけをずっと目で追いかけていた。
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