第7話

文字数 585文字

エレベーターから出てきた男性は黒いモコモコしたバケットハットを目深に被り、黒のジャケット、黒のマスク、白のトップスに黒のワイドパンツ、トートバッグとスニーカーも白で揃えていた。
モノトーンだが清潔感があり、綺麗めのコーディネート。
ここの職場ではなかなか見ないような格好だ。
そもそも若い患者さんの来院が久しぶりである。
エレベーターの前に置いてある傘立てに真新しいビニール傘をゴトンと置き、彼はゆっくり受付に向かってくる。
うっすら肌寒い気温ではあるが、そのモコモコのバケハはさすがに季節を先取りすぎでは?
少し不思議に思いつつも、私は明るく対応を試みた。
「こんにちは、こちらのクリニックは初めてですか?」
「はい、そうです」
小さな声ではあったが、はっきり聞こえた。
「それでは、カルテ登録しますのでこちらの申込書と問診票のご記入お願いします」
ボールペンと用紙が挟んであるバインダーを手渡して、向かいにある待合室のソファーで書いてもらうよう伝えた。
「本日保険証お持ちですか?」
「あ、はい」と彼はカバンの中からガサガサと保険証を取り出し私に渡すとソファーにおずおずと座り、申込票にサラサラと必要事項を記入した。
「保険証と申込書、問診票お預かりします」と言って何気なく名前を確認したとき身体に電流が走った。

モコモコハットで顔があまり見えなかったが、保険証に記載された名前は見覚えがあった。
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