第4話

文字数 668文字

受話器を置くと、チーフが声を掛けてきた。
「さらに時間空いちゃったね、何する?」
うーん、と私は一瞬悩む素振りをして、「今のうちに書類作業しちゃいます」と言った。
普段の診療時間内になかなか手の付けられない雑務を片付けるにはうってつけだと思った。
そもそも、今日は臨時休診のはずだった。
院長が地方で行われる学会に出席するはずだったが、オンラインに変わったので急遽診療することになったのだ。
定期的に来る患者さんへは事前に今日は休診と伝えていたため、今日の予約の患者数はいつもと比べて格段に少ない。
予約数が少ないので今日は院長、チーフ、私の3人体制である。
患者さんがいない時間帯は、オンライン学会に参加しているので院長は部屋から一歩も出てこない。
患者さんが来たら受付や検査室から院長に声をかけるシステムになっている。

「これ、この後誰か来るんですかねー?」と言いながら私は書類に文字や数字を記入していく。
お気に入りのゆるキャラがデザインされたボールペンを白衣の胸ポケットから取り出し、少しでも時間を使おうと一文字一文字普段よりもゆっくり丁寧に文字を書いた。
「今日は、もう11時の患者さん以外来ないんじゃない?雨も降ってきたし。来ても飛び込みの患者さんが来るぐらいかもね」
隣の椅子に座ってデスク周りの整理整頓をしているチーフが答えた。
チーフは職場で唯一の私の先輩である。
11年前に私が入社した頃からずっと可愛がってくれる先輩。
チーフは優しいし、てきぱき仕事をするので皆から慕われている。
「そうですよねー、この雨じゃ来ないですよね…」
しばし沈黙が流れた。
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