来る日も来る日も同じことを繰り返す(5/19)

文字数 538文字

その人はいつもそこにいた
私の記憶が始まった時からいつも
朝起きるとそこにいた

大きな座布団にちょこんと正座して
使い古した湯呑みを手に
仏壇の斜め前で
おはようさん
今朝も上々
毎朝、同じ言葉を並べ
おだやかに微笑んでいた

座布団が大きいのではなく
その人が小さいのだと気付いたのは
小学校に上がる頃だったと思う

年々、私は大きくなり
その人は小さくなって
座布団が成長しているような気がした

この人は
いったい何のために生きているのだろう?
この人は
生きていて楽しいのだろうか?

甘える季節を過ぎて
外の世界が広がれば広がるほど
ずっと、同じ場所に座り
茶を飲むその人が理解できなくなった

名前を呼ばれるのが
煩わしくなり
おはようさん
今朝も上々
同じ言葉を聞くのがつらくなり
壊れたロボットのようだと馬鹿にした

来る日も来る日も
同じことを繰り返すことが
たいくつで
つまらないことだと思った少女は
来る日も来る日も
同じことを繰り返すことが
どんなにうれしく
ありがたいことなのかを知った

帰省しても
その人はいつもの場所にはもういない
斜め後ろで微笑んでいる

私は毎朝早起きをして
キッチンでひとり
コーヒーを飲む
おはよう
今朝も上々
懐かしい言葉を並べて
眠そうな子供達に微笑む
私は同じでも
子供達は日に日に変わる
きっと祖母も同じだったのではないだろうか
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