ジョーダン(5/28)

文字数 570文字

冗談は顔だけにして
そう言った妻は
冗談、冗談
と僕の肩を叩いて笑うのだけれど
笑っていいのかどうか分からない
本気も少し入っているよね?

あなたの冗談は冗談に聞こえない
そう言った妻は
冗談、冗談
と僕の耳を引っ張って笑うのだけれど
怒っていいのかどうか分からない
君の冗談の方が冗談に聞こえない

冗談の切れ目が縁の切れ目と言うけれど
そう言った僕は
冗談、冗談
と妻の手を握って笑うのだけれど
笑っていいのかどうか分からないようだ
笑うところなんだけどなぁ

冗談、冗談と繰り返す夫婦に明日はない
そう言った僕は
冗談、冗談
と妻の頬を捻って笑うのだけれど
妻は全く笑わない
冗談の切れ目が縁の切れ目なんだね
そう言って出て行ってしまった


とにかく
冗談、冗談と言っていると楽なんです
何もかも
冗談で済ませていたら
素を出すのが不安になり
冗談を繰り返すしかできなくなってしまったのです
冗談は顔だけにして
と言われて
冗談だと言われても
傷つくのです
段々と冗談の意味が分からなくなってきて
僕の存在自体が
妻の存在自体が
冗談のような気もしてきて
こうして暮らしていることも
夫婦でいることも
冗談にしか思えなくなってしまったので
妻がいなくなって
ひとり
ようやく
冗談ではないことに気付いた次第です


冗談、冗談
そう笑いながら玄関のドアが開くのを待っている
間もなくと思っているのに
なかなか開かない

まったくもって冗談ではない
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