点の人生(5/13)

文字数 443文字

遠くを見ると眼に良いと聞いて
朝起きてベランダから山並みを眺めたり
信号待ちの時に空を見上げて雲を追いかけてみる
視力に影響しているのかどうかは分からないが
目玉の奥の方がスッと抜ける感じがする
毎日に精一杯なふりをするのに精一杯で
明日のことを考える余裕はない
一年先、五年先、十年先なんて考えることすら忘れてしまった
遠くを見るつもりで将来を見ても
何も見えない
コンビニ弁当をやめ
ご飯を炊いて、野菜を炒めてみたら
ビールが美味しくて
頭が脱力していく
凝り固まっていたのだ、ずっと
遠くを見る練習を続けたら
将来が何となく見えてきた
遠くを見て近くを見たら、嫌なことも我慢できる
近くを見て遠くを見たら、嫌なことも忘れてしまう
本屋で手にした仏像の写真集を
三十分立ち読みしたら
どうしても欲しくなり
レジに並んだ
一万一千円也
遠い昔に造られた或る仏像は
金箔が剥がれ落ち
腕が失われているのだが
経て来た時間の長さを考えると
自分の一生は点みたいなものだ
そう思い知らされたら
どうでもいいことばかりで
心も身も軽くなる
点、転、…の人生
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