消える(5/26)

文字数 556文字

誰とも話したくないから
誰にも話し掛けられたくないから
昼になると
公園のベンチで過ごす

一人になりたい

みんな似たり寄ったり
ばかりが集まるので
距離感は確保される
誰にも邪魔されず
空を仰ぎ見る

存在しているのに
存在していない
ここにいるけど
気配は消えている

昼食を抜いて
完全な抜け殻になったのに
時間になれば会社に向かうなんて
馬鹿みたいだと思うけど
馬鹿みたいな自分を馬鹿だとは思わない
馬鹿が馬鹿なんて言うのは百年早いと叱られた

帰り道でいつもの犬とすれ違う
毛の長い茶色っぽい雑種
名前はど忘れした
飼い主の老婆を力強く引っ張る
こら、ツヨシ
そうだツヨシだ
ツヨシは僕に見向きもせず進む
後方で猛烈に吠えるので振り向くと
すれ違ったサラリーマンに吠えまくり
老婆が何度も頭を下げる

もしかして
ツヨシは僕の存在に気づかなかったのではないのか?
本当に消えてしまっているのかもしれない
僕は太陽を見上げる
眩しいからきっと大丈夫
僕は存在している
その証拠に
力強く手を叩いてみる
すると
ツヨシがこちらを振り向く
けれど
不思議そうに首を傾げて、再び前を向いてしまう
やはり見えていないようだ

いてもいなくても
誰一人として気づかない
そんな存在に
僕はなりたいから
昼の僕は
理想形だと思う

まもなく
つまらない僕に戻る

いつか
きっと
消える
どうせ
みんな
消える

明日も
ツヨシは
吠えないのだろうか?
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