カムカム(5/17)

文字数 885文字

久しぶりに実家に戻り
大家族で食事をした
祖父母、父母、兄、義姉、姪二人と甥
あんたもっとゆっくり食べな
早食いは太るんよ
口が達者な祖母に叱られる
早食いは早死にの始まりって言うんよ
口の悪い母が説教を始める
酒を飲まないのは僕だけだから
とにかく時間を持て余し
コーヒーを三杯も飲み
目が冴えた状態で
酔っ払いの相手をして
片付けと洗い物をこなした
一人暮らしが長く
帰宅も遅いので
弁当を数分でかきこみ
風呂に入って寝るという生活を続けている
もちろん
風呂上がりのアイスは欠かせない
体型は維持していたのだが
三十を過ぎてから体重が急激に増え始めている
別れ際
またきてね、ふとっちょオジちゃん
と三歳の甥っ子に笑われた

ゆっくり咀嚼する

運動でも食事制限でもない痩せる方法を探して
見つけたのだが、胡散臭い
本当にそれだけでいいの?
でも、体重が減ったら儲けものだ
祖母の言葉を思い出し
騙されたと思って試してみる

噛む回数を増やすことで
満腹感を覚え、消化も良くなるそうだ
一口入れたら箸を置く
カムカムを繰り返す
さしすせそが苦手なので咀嚼ではなくカムカムと呼ぶ
一口で百回が目安らしいが
顎が疲れるので免除して三十回にする
それでも、食材は細かくなり、喉にズルっと入る
消化には良さそうだが
途中から何を食べているのか分からなくなる
トンカツでも餃子でも牛丼でも同じ
トンカツでも餃子でも牛丼でもない
カムカムしたモノになるのだ
もっと味わいたい
もの足りない
つまらない
不満が爆発しそうなのでカムカム十回で手を打つ

風呂に浸かると
顎だけが疲れを感じる
風呂上がりのアイスはカムカムしなくていいので
顎が癒される

噛むようになったら
プレゼンで噛まなくなった
もしかしたら
カムカム効果なのかもしれない
カムカムは挫折しかけているのだが
噛まないために噛み続けるかどうか悩む
上司から
顔が入社の頃みたいにスッとしたね
活舌も良くなったし
どうしたの? 急に
と褒められる
悪い気はしない

その気になって
カムカムを続けていたら
三十回噛んでも顎に疲れは出なくなった
今は五十回まで増やし
カムカムしたモノにも慣れた
最終的には百回を目指す
カム×100
その頃には腹部にも効果が出ているはずだ
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