流れ(5/9)

文字数 751文字

流れに乗れない
そんな日は誰にだってある
人の流れに乗れずに舌打ちされた
足首を捻挫していつものように歩けないのだ
「捻挫中」のステッカーを背中に張るべきだったのかもしれない
故意ではないのに故意のように思われてしまうのは心外である
捻挫していなければ流れに乗っている
いつもは無理して乗っている
舌打ちされるのが嫌だから
本当は自分のペースで歩きたいのだけれど
先導する誰かが作った流れに乗っている
先頭のペースが遅ければ、誰かが抜いてペースを作る
先頭のペースが早ければ、二番手がペースを作る
見も知らぬ先導者が作ったペースなのに
乗れないと舌打ちされる
理由なんて誰も考えてはくれないのだ
「捻挫中」のステッカーを背中に張っても同じかもしれない
「挫折中」の方が共感を呼ぶかもしれない
そんなことを言っている僕も普段は舌打ちする
される側になって初めて気づくことがあるのだけれど
きっと、捻挫が治ってしまったら忘れてしまうだろう
立ち止まったらどうなるのか?
危ないと思いながら、立ち止まりたいとふと思う
立ち止まりたくて仕方がなくなって
僕は立ち止まる
将棋倒しになることを覚悟して目を閉じる
舌打ちは聞こえるが、みんな避けていく
肩でぶつかる人もいない
避けるようなスペースはないはずなのに避けていく
中州のようだ
異分子と見做されれば関わりたいと誰も思わない
何だ、立ち止まっても大丈夫なんだ
すっかりと心の大きくなった僕は流れに逆らってみたくなる
立ち止まるよりも危ないと思いながら、逆らいたくなる
捻挫した足首を庇いながら回れ右をして歩き始める
今度は舌打ちもされない
みんな驚いたように避けてくれる
完全なる異分子と見做されると道が開ける
僕は会社を休むことにして
アテもなく足を引きずる
足首が限界になったら座り込むだけのこと
流れに乗らない
そんな日があってもいい
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