行列(5/16)

文字数 713文字

ランチを終え
木陰で休んでいると
大木に毛虫がのぼって行く
人には真似できないような動きでのぼって行く
直ぐに次の毛虫が続き
また次の、そのまた次の黒い生き物が続いて
絶えることはない
一列が二列、二列が三列と増え
大木はあっという間に毛虫に占領されてしまう
あまりにも見事なので
虫嫌いなのに一歩も動かずに眺めている
なんていうのは嘘で
あまりにも怖くて
一歩も動けないだけだ
のぼり続けた黒い毛虫が次々と落ちてきて
頭やワイシャツに群がり始める
痛くも痒くもなく
温かくも冷たくもないのは
感情を殺しているからなのかもしれない
埋め尽くされた僕は
大木をのぼり始める
後ろから突かれるのでとにかくのぼる
何のためにのぼるのかは誰も教えてくれない
分からないけれど、のぼるしかないのだ
真似できない動きを真似たら
腰痛が治っている
前の仲間が力尽きて落ちても
力の限りのぼり続ける
あっ
そう思った瞬間には宙を舞い、落下していた
つい先ほどまで
毛虫で最期を迎えるとは思いもしなかったが
腰痛が治ったことでよしとする
土の上に落ちても何の痛みもなく
直ぐに動き始める
視界が変わり
目の前には大きな黒いお尻
先までとは違う動きになる
蟻の行列らしい
毛虫は蝶になるが
蟻は蟻のままだ
このまま一生を終えることになるだろうか?
蟻になるために生まれて来た訳ではないのだが
そもそも
僕は本当に人間だったのか?
自信がなくなる
前の蟻も後ろの蟻も人間だったのかもしれない
そう思うと
蟻ではなくて人間なのかもしれないという気がする
蟻でも
毛虫でも
人間でも大して違わない
必死に前のお尻を追いかける
急にスピードが上がる
蟻なのか
毛虫なのか
人間なのか
そんなことを考えている暇はない
生きている限り
行列に加わり
とにかく引き離されないことだ
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