第70話

文字数 2,405文字

「いらっしゃい…って、あら、さっきの」
 武器屋に入ると、店主らしき女性が驚いた顔をした。
「何度もすみません」
 苦笑するアルドに女性が笑みを浮かべ「良いんだよ。かなり悩んでいたから、また来るだろうと思っていたよ」と言って柄の長い、ロッドではなくスタッフをカウンターに乗せた。
 杖先は淡い緑で、上部に向かうにつれて淡い青へと変わり、上部はまるで氷の結晶のような形をしている。
「これだろ?ずっと見ていたからね」
 言って女性が歩み寄ったアメリアに「持ってみるかい?」と言ってスタッフを差し出す。
 それを受け取ったアメリアは「これ?」とアルドに訊いた。
「そう。だけど、どうも属性が違う気がして」
 アルドの言う通りだった。
 リマは今体の大きさが人間と同じで羽も消えているが元は妖精だ。
 妖精は本来無属性。
 炎や氷、様々な属性を扱えるが、得意とする魔法は有る。
 リマの得意魔法は風だ。
 そして女性が差し出したのは氷。
 扱えない訳ではないが…。
「形と色合いが気に入ったの?」
 アメリアの問いにアルドが苦笑し「うん」と頷く。
 その気持ちは解らなくもない。
 アメリアも同じ理由で買った事が有るからだ。
「よし解った!これ買います!」
 宣言にアルドが「え⁉」と驚き、女性店員は笑みで「まいど」と言う。
「ちょっと待って!」
 止めに入ったアルドに「何?」と問う。
「何?じゃなく!リマに合う属性ではないだろ?」
 小声で問うアルドにアメリアは普通に「得意ではないだけで、使えない訳ではないよ」と返す。
「まぁ、私に任せなさ~い♪」
 言いながら女性にお金を支払いスタッフを受け取る。
「何の話をしているのか解らないけど、壊さないでおくれよ?」
 女性が苦笑し言うので、アメリアは何も言わず笑みだけ返した。
 正直久し振り過ぎて成功するか解らないのだ。
「そうだ。此処に鉱石店って在りますか?」
 アメリアの問いに女性が「それなら、店を出て右へ行くと在るよ」と答える。
「有難う御座います」
 言って歩き出したアメリアの後にレオン達が続く。
 4人が店を出て行くと、店の奥から男が顔を覗かせ「珍しいな」と言った。
「何がだい?」
 女性の問いに男が「騎士団の奴以外が買いに来るのがさ」と言った。
「確かにそうだけど、たまに旅人が来て買っているんだ。珍しくもないだろ」
 言って小さく溜息を吐いた女性に男が飲み物が入ったコップを差し出す。
「さて!また新しい物を作らないと!」
 気合を入れる女性に男が苦笑し「おいおい。少しは休んだらどうだ?」と止めるも、女性は「明日はちゃんと休むさ」と返し、店の奥の工房へと入って行った。
 そんな女性に男は苦笑しつつも、店の鍵を閉め、閉店を知らせる看板を掛けた。

 武器屋の女性が言っていた店は直ぐに見つける事が出来た。
 あの店からそれ程離れていない。
 店の中へと入ると、年配の男性が「いらっしゃい」と暗い声で言った。
 アメリアは「どうも」とだけ言うと店内を見渡した。
 レオン達はアメリアが何を探しているのか解らず、ただ様々な形をした鉱石を眺める事しかやる事が無い。
「オリフィスとアグモール、アゼリウスは有りますか?」
 アメリアの問いに男性が鋭い目になった事で場の空気が張り詰め、レオンすらも息を呑んだ。
 ただの商人が放てる物ではない。
 殺気とは違うが、このような気を放てるのは騎士団のトップでもそうそういない。
 そんな空気の中、アメリアは平然と「無いですか?」と訊く。
 命知らずなのだろうか。
 心配になったレオンがアメリアの傍らに立ち目を向けるも、アメリアは一瞥しただけで男性の方へと視線を戻す。
 数秒アメリアの目を見ていた男性が小さく溜息を吐き「高いぞ」と言って店の方へと歩いて行き、少しして幾つか鉱石を手に戻って来た。
 黒い石にしか見えない物、中心が黄色く周りが透明な石、透明感のある緑の石柱。
 それも掌に乗るくらいの大きさだ。
 男性が持って来た物をアメリアは暫く見詰め、1つずつ手に取ると「これくらいで足りますか?」と言ってポーチから取り出した小袋を差し出した。
 男性がそれを受け取り、中を確認し、手にしていた3つの鉱石をアメリアに渡した。
「ありがとうございます」
 言ってアメリアが鉱石をポーチに仕舞い、レオン達に笑顔で「行こう」と言って歩き出したので、レオン達も店主に一礼して店を出た。
 店から少し離れた所でアルドが「あ~。緊張した~」と言って息を吐いた。
「あの人…ちょっと怖かったです…」
 同じくリマも一息吐く。
「そう?ちょっと真面目なくらいじゃない?」
「お前のその強靭な心が羨ましくなる時がある」
 レオンの呟きにアメリアが「何?」と訊き返すも「なんでも無い」と返された。
「それにしても、さっきの鉱石で本当に変換なんて出来るの?」
 アルドの問いに、アメリアは笑みを浮かべ「任せない!」と言い切る。
 それがレオン達に僅かながら不安を与えた…。

 アメリアが足を止めたのは町から離れた荒れ地の僅かに窪んだ場所だった。
「こんな所でやるんですか?」
 リマの問いに、アメリアは地面に仕舞っていた鉱石を置きながら「そう」と答える。
「3人は離れてた方が良いよ」
 アメリアの言葉にアルドが「どうして?」と問う。
 答えは1つしかない。
「危険だから」
 そう言ったのはレオンだった。
 それに対してアメリアは親指を立て、笑顔で「正解!」と返した。
 リマとアルドが不安げな表情をする。
「大丈夫!いきなりこれでやらないから!」
 言ってアメリアはポーチから杖を取り出した。
「試し用の物はちゃんと有るから」
 そう言って杖を円形に並べた鉱石の中心に置く。
「さて…皆は離れて」
 それを聞いてレオン達がアメリアから離れる。
『そこまで離れなくても…』
 皆との距離に少し悲しくなりつつも、両手を前に伸ばして地面に置いた杖に翳す。
「ふぅ‥」
 息を整え、杖に意識を集中し始めた。


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