第74話

文字数 1,872文字

 アメリアの掛け声にリマが答え、2人同時に杖を振り上げ、迫る光に向かって振り下ろした。
 2人から放たれた光が黒い光と衝突し、貫くのと同時に黒い光が凍り付き粉砕され、貫通した光は男まで到達し、腹部まで貫通して爆散した。
 その爆風で男から離れ避難していた仲間達までも吹き飛ばしてしまったが、心配している余裕など無かった。
「そんな…」
「浸食が早い…」
 リマは驚き、アメリアは直ぐ次の手を考える。
 腹部を貫かれたというのに、男は平然と立っていたからだ。
「この程度か」
 男から放たれた声は今までと違っていた。
 幾つかの声が重なり、異様な物に変化している。
 貫かれた部分から再び謎の物体が現れ穴を塞ぐ。
「これくらいじゃ俺は死なないぞ?」
 不気味な笑みを浮かべて男が言い、男の周りに謎の物体に取り込まれた者達が集まる。
「何なんだあれ」
 アルドの疑問は、その場にいる誰しもが抱いていた。
 腹部を貫かれようと平然としているという事は、男の体は既に黒々とした何かと化していて、如何なる攻撃も効かないのではと考えてしまう。
「オォオオオオオオオ!」
 男の周囲に集まった傀儡となってしまった者達が異様な声を上げて飛び掛かって来る。
「手加減は無用だ!やれ!」
 ロードの指示で騎士達が傀儡と対峙する。
「さぁて…。どうするか」
 言って剣を構えたアルドの隣にレオンが立つ。
「あぁ…。アイツには感謝しないとなぁ…。これで…俺は…」
 男が何やらぼやき、腕だった物を鞭のように振るい、レオンの剣がそれを弾いた。
—キィイイイン!
 響いたのは金属同士がぶつかる音。
 見た目とは裏腹に相当な硬さだ。
 黒々とした物体は更に男を飲み込み、頭部しか残っていない。
『さっき攻撃は貫通した。何も効かない訳では無い。なら…』
 攻撃を躱しながら思考し、メルセアを仕舞うと、代わりに短剣を取り出した。
 どんな魔物にもコアとなっている魔石が存在する。
 ならば、あの男にも原因となったコアが存在している筈だ。
「騎士団の方で傀儡化した人達を引き付けて!」
 言ってリマの杖に左手を翳す。
「杖の強度を上げるから、全力で風の刃を放って」
 アメリアの指示にリマが頷き返して男の方へと杖を構える。
「レオン!アルド!あの暴れる奴の動きを一瞬でも良いから止めて!」
 言って駆け出したアメリアの後に二人が「了解」と応えて続く。
「死ね!」
 男が叫び、腕だけではなく、身体だった部分のいたる部分から黒々とした触手を生やし、アメリア達に向かって放った。
「大人しくしてなさい!」
 言ってアメリアは短剣に光を集めた。
 同時に幾つか光球を周囲に形成し、それを男に向かって放つ。
 放たれた光球が狼の姿へと変わり、向かって来ていた触手に喰らい付いた。
「クッ!たかだか魔力で作った糞犬に!」
 男が触手に喰らい付いた狼達を払おうとするも、狼達は「ウゥウウウ」と唸り声を上げ放さず、鋭い牙を更に食い込ませる。
 レオンとアルドも剣に魔力を込め、全力で触手に剣を刺し、そのまま地面に突き刺して動きを止めた。
 合図をせずともリマが全力で風の刃を放った。
 アメリア達のギリギリを通った刃が触手だけではなく、男の身体も切り裂いた。
 切り裂かれた物体が木の葉のように舞う。
 そしてアメリアは確かに〝ソレ〟を見た。
 周囲に舞った物体が磁力に引き寄せられるように集まり、再び一つの塊へと戻る。
「そんな攻撃でやられはしない!」
 男が叫び、再び無数の触手を生やす。
「一体どこからあんな魔力が」
 触手を躱しながらアルドが言う。
「さっき、確かにコアになっている魔石が見えた。アレを壊せれば」
 アメリアの言葉に、アメリアへと向かって来ていた触手を弾いたレオンが「だがどうする」と問う。
 明らかに触手は先ほどよりも強度を増し、レオンとアルドが剣に魔力を込めていても僅かに切れる程度になっている。
 リマにもう一度風魔法を頼もうにも、騎士団の方の援護をしているらしいので厳しそうだ。
 確かに騎士団の方も援護を必要とする状況だった。
 傀儡化した者達は動きは単純だが速い。
 手加減はしないと言ってはいたが、騎士団は殺さないよう考えながら戦っているため、あまり時間を掛け過ぎれば全員の武器がダメになり、間違いなく殺られてしまう。
「方法は有る」
 言ってアメリアは短剣を仕舞うと、再びメルセアを取り出した。
「無理はするなよ」
 心配するレオンに、アメリアは何も言わず、ただ笑みだけ返した。
 メルセアを持ち、男へと目を向ける。
「行くよ…」
 呟き、深呼吸をしてメルセアを握り締める。
「一か八か!」


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