第64話

文字数 2,221文字

 ロードから聞いた町に到着して時、アメリアだけではなく、全員が唖然としてしまった。
 夕焼けに照らされた町は活気に溢れ、露店では騎士団のマークが入った小物が売られていたからだ。
 愛馬達を厩舎へ預けて宿を探す。
「どういう事だ」
 ロードが呟いて露店を見渡す。
「見る限り…嫌っている感じはしないね」
 アルドも言って露店へ歩み寄る。
「いらっしゃい♪」
 髪飾りなどを出している女性が笑顔で迎える。
「へぇ…。これだけの物をこの値段で…」
 言ってアルドが髪飾りを手にする。
 アメリアも同じく小さな耳飾りを手にしてみた。
「これ…ケルビメス。温度調節が難しい筈なのに…こんな細工が出来るなんて…」
 ケルビメスは熱すると柔らかくなり、それによって加工しやすくなる。しかし、熱し過ぎれば冷めた時に脆くなり過ぎて崩れてしまうという厄介な鉱石だ。
 それにも関わらずこうして髪飾りなどにするのは凄い事だ。
「気に入ったのか?」
 後ろからレオンに声を掛けられ、アメリアは「え?」と訊き返した。
 レオンが無言でアメリアの持っている耳飾りを指さす。
「あぁ…。違う違う!何の鉱石を使っているのか気になっただけ」
 言ってアメリアが耳飾りを戻すと、レオンが少し残念そうに「そうか」と呟いた。
「あの衣装を着た時に付けるのかと思ったんだけどな」
 その言葉にアメリアは「あの衣装?」と訊き返した。
「前にお前が着たおど「あれは二度と着ないから!」
 叫んでレオンの言葉を遮ったアメリアにリマが「どうしました?」と問う。
「何でもない!」
 そう返したアメリアの顔は真っ赤になっている。
「またレオンが何か意地悪を言ったんだろ」
 言いながらアルドがリマの髪を束ね、器用に丸めて留めると、頭と纏めた髪の間に三日月の形をした淡い青色の簪を刺した。
「え?アルドさん?」
「いくら?」
 驚くリマを無視してアルドは支払いを済ませる。
「あのアルドさん?」
 もう一度問うと、アルドが振り向いて「気になってたんじゃないの?」と訊き返した。
 どうやらリマはジッとその簪を見ていたらしい。
「確かに綺麗だなと思いましたけど…」
「お詫びとして受け取ってよ」
 そう言われたら返す事など出来ない。
 リマの纏められた髪元で、蔦と花が描かれた三日月が輝く。
「ありがとうございます…」
 そう呟くようにお礼を言ったリマの表情はとても嬉しそうで、それを見たアルドも笑みを浮かべる。
 そんな二人から視線を逸らし、アメリアはロードに「聞いてた話とだいぶ違うんだけど?」と小声で話し掛けた。
「私も違い過ぎてどうなっているのか…」
 顔に出ていないが、ロードも困惑しているらしい。
 どう見ても騎士団を嫌っているように見えない。寧ろ、友好的にさえ見える。
「今日は宿で休んで、明日町を散策しよう」
 アメリアの提案に、皆が頷き返す。
 宿に到着するまで、騎士団に対して文句を言っている人を見掛けなかった。
 宿に到着し、少し遅めの夕食にする。
 お店の若い女性は「大した物は出せませんが」と申し訳なさそうだったが、結構な数の料理を出してくれた。
 ふとアルドが女性の胸元を見て「騎士団のバッチ…ではないですよね?」と問い掛けた。
 それを聞いてアメリア達もそれを見ると、確かに騎士団のバッチのようだったが、本物の騎士団のシンボルとは違う。
 騎士団のシンボルは盾の後ろに剣と、両翼を広げた鳥が描かれているが、女性の付けているバッチには鳥と盾しか描かれていない。
「えっと…」
 女性が困ったような表情で言葉に困っていると、男性の店員がやって来て「この町について何も知らないのか」と呆れた様に言った。
「もう!そんな言い方しないの!失礼でしょ!」
 女性が怒鳴って男の頭を叩き、アメリア達に「すみません」と頭を下げる。
「この町は少し前まで騎士団を憎んでいる人が多かったんですけど、何度も騎士団の方々が訪れて、話をするうち、次第に恨む人達は減りました。けど、未だに昔の話を聞いて恨んでいる人はいて…。それで、敵意の無い証明としてこのバッチを付けているんです」
「そうなんですか」
 アメリアがそう呟くと、女性が慌てながら「けど!優しい人ばかりですから!」と言ったが、優しいのなら昔の話を聞いただけで騎士団を憎んだりしないだろう。
 そう思いはしたが、レオンは言わず隣のアメリアを見た。
「きっと、これから良い方へ変わって行きますよ」
 アメリアが笑みを浮かべて言い、女性も「はい」と頷く。
 それからはオススメの食べ物などの話をし、食事を終えて各自部屋へと戻った。
 リマはアメリアと同室で、レオン達は一人部屋。
 男3人で寝たくないと意見が一致したのだ。
「男の人ってそういうものなんですかね?」
 不思議そうに言ったリマにアメリアは何も言えず、ただ苦笑して誤魔化した。

 翌朝。
「さてと…。行きますか」
 宿の前で背伸びをしつつアメリアが言う。
「何処から見るんだ?」
 レオンが問う。
「取り敢えず、裏道でも散策しよう」
 アメリアが何を考えているのか解らない。
「私とアルドさんは武器屋さんとか見てますね」
 リマが言ってアルドの隣に立つ。
「私は仕事だ」
 ロードはそう言って歩き出し、リマが「お気を付けて」と言い、アルドも「それじゃあ後で」と言いリマと共に歩き出す。
「行こう」
 呟いて歩き出したアメリアの後にレオンが続く。
 レオンにはアメリアが何を考えているのか全く解らず、ただアメリアに付いて行くだけだった。

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