第73話
文字数 2,661文字
遠くからやって来た荷馬車に気が付いたのはアルドだった。
中では老人が男達に責められ、有らぬ疑いを掛けられている。
それをどうにか止めたいが、近付いて来ている荷馬車から嫌な気配がしてならない。
アメリアも荷馬車に気付き、何かを感じたのかポーチから短剣を取り出した。
リマが男達を飛び越えて老人の元に降り立ったのと、荷馬車が屋敷の前に止まるのはほぼ同時だった。
「退け!」
荷台から顔を出した男が叫び、手にしていた物をアメリア達がいる方へと放り投げたその瞬間、閃光と共に入口に向かって稲妻が走った。
土煙が上がり、中から「やっとか」と男の声。
風が土煙を払い、アメリアが「そんな物を何処で手に入れたの?」と問うのは同時だった。
「嘘だろ⁉直撃した筈だ!」
荷馬車から降りて来た男達の顔が蒼褪める。
稲妻が直撃する瞬間、アメリアが短剣、ウルファンドで結界を張ったのだ。
「くそ!それなら!」
「良いからそれをよこせ!」
荷馬車から降りた男が言って何か出そうとしたが、中からの声で手を止め、他の男が何かをアメリア達に向かって投げた。
それが不気味なほど淀んだ黒い光を纏っている事に気付いたアメリアは「逃げて!」と叫んだ。
その声にレオン達だけではなく、ロードや他の騎士達もその場を離れた。
黒々とした物体がアメリア達がいた場所で巨大化し、中から同色の蔦らしき物が現れ、蠢くと屋敷全体を覆った。
「リマ!」
アメリアが呼ぶと、どす黒い物に覆われた屋敷の上部から光が飛び出し、アメリア達の元へとやって来た。
「大丈夫です」
そう言ったリマの隣には老人の姿が。
無事だった事に安堵する間も無く、屋敷が軋む音を上げ始め、集まっていた男達が血相を変えて屋敷から飛び出して来ると、ソレを見て「これが…これが」と蒼褪めながらも口元を歪め、笑いながら言った。
「アハハハハハハ!」
1人の男が狂ったように笑い出し、他の者達が男を凝視し「おい…。どうしたんだよ」と心配する。
「本当にこれなのか?」
別の男は不安げに男に問う。
「これだよ…。言っていて通りだ!」
笑っていた男が両腕を広げてどす黒い物体へと近付く。
「ダメ!それから離れて!」
アメリアの忠告を無視し、男が物体に触れた瞬間、それは一瞬で屋敷を粉砕した。そして、男の両腕に黒々とした物体が巻き付いていく。
「これさえ有れば…俺達はコイツ等に勝てるんだ…」
言いながら振り返った男の目は人の物ではなかった。
謎の物体と同じ目の色。
姿形はかろうじて人を保っているが、もう既に人間ではなくなってしまっているのだ。
「おい…。大丈夫なのか?」
心配する仲間に男が「あぁ…。何だろうな…。今なら何でも出来そうだ」と言って仲間の方を向いた。
「お前も感じてみろ」
言うなり男が仲間に触れた瞬間、男の両腕に巻き付いていた物体の一部が触れた者にも移り、仲間が声を上げる間も無く一瞬で全身を覆った。
その光景はアメリア達には異様でしかなかった。
「これさえあれば、俺達は騎士団にも勝てるんだ!」
謎の物体に覆われた仲間を心配する事も無く、男は歓喜の声を上げる。
仲間を覆ていた謎の物体が消えると、中から出て来たのは肌の色も何もかもがどす黒くなった者だった。
到底生きているようには見えない。
まるで人形が何かに操られているような…。
「そんな…」
リマが哀し気に呟く。
「なぁ…。凄いだろ?これで俺達は勝てるんだ」
言って男が他の者達にも〝ソレ〟を渡そうとする。
「ダメ!」
アメリアが叫んだ瞬間、光の矢が男の両腕を貫いた。
放ったのはロードだった。
男は両腕を貫かれたにも拘わらず、痛がる事も無くロードを睨む。
その男の前に生気を失った仲間が立ち、人とは思えない声を上げると、足元から先程のどす黒い蔦を召喚しアメリア達に向かって放った。
「止めろ!」
アルドが言ってアメリア達の前に出て剣を抜き、一閃を放って蔦を切り裂くも、直ぐに繋がり再び襲い掛かって来た。
レオンも前に出て応戦するも、いくら切っても復活し切りがない。
「お前等も戦えよ」
言うなり男が怯えて下がっていた仲間達の方を向く。
「ひっ!」
悲鳴を上げて逃げようとした仲間達に男が「戦うために集まったんだろ!」と怒鳴り、物体を纏った腕を向けるのを見てアメリアは純白の杖、メルセアを取り出すのと同時に周囲に光の球体を幾つか造り出して放った。
放った光が男の仲間へと向かっていた物体を消滅させたが、残った幾つかが男の仲間を取り込んでしまった。
「止め—」
「た…助け—」
悲痛な叫びが一瞬上がり、撮り込まれた者達がまるで死者のような姿で現れる。
「酷い…」
リマの呟きに、男が「酷い?」と言いながらアメリア達の方を向いた。
「酷いのはどっちだ!俺達の町を食い物にして好き勝手しやがって!しかも誘拐までしている!お前達が…お前達が!」
男が叫ぶと、取り込まれた仲間達が飛び掛かって来た。
その動きは人間というよりも動物に近く、跳躍力も増加しているらしく、一瞬で間合いを詰められた。
「くそ!」
「仲間を何だと思っているんだ」
アルドとロードが言って飛び掛かて来た男達を鞘で薙ぎ払う。
謎の物体に操られているだけと考え、なるべくなら傷付けたくはないのだ。
勿論それだけで動きは止まる事無く、直ぐに反撃して来る。
「他に使い方は無いのか?」
そう言う男の体は上半身が謎の物体に飲み込まれつつある。
「ダメ!それ以上ソレを使ったら「黙れ!」
止めようとするアメリアに男が怒鳴り、男の前に黒い光が現れ、それが魔法陣へと変化した。
それを見てアメリアもセルメアを構え魔法陣を描いた。
「総員退避!」
ロードの声に騎士達がアメリアの後方へと駆け出す。
「アメリア様!」
リマがアメリアに駆け寄り、並び立つと手にしていた杖をアメリアと同じように構えた。
「風魔法を全力でお願い!」
「はい!」
アメリアの頼みにリマが頷き、アメリアの描いた陣の中心に白い光と淡い青の光の二つが集まり始め、そこにリマが造り出した風が合わさり、中心へと集まり始める。
「この力が有れば俺は最強だ!この力で…俺は全てを手に入れるんだ!」
「何言ってるんだよ!俺達は町を取り戻すんだろ!」
男の言葉に仲間が言うも、その言葉は男に届かなかった。
男の前に現れた魔法陣に黒々とした光集まる。
「俺は最強なんだよ!」
そう男が叫んだのと同時に、黒々とした光がアメリア達に向かって放たれた。
轟音を上げて黒々とした光が向かって来る。
「やるよ!」
「はい!」
・
中では老人が男達に責められ、有らぬ疑いを掛けられている。
それをどうにか止めたいが、近付いて来ている荷馬車から嫌な気配がしてならない。
アメリアも荷馬車に気付き、何かを感じたのかポーチから短剣を取り出した。
リマが男達を飛び越えて老人の元に降り立ったのと、荷馬車が屋敷の前に止まるのはほぼ同時だった。
「退け!」
荷台から顔を出した男が叫び、手にしていた物をアメリア達がいる方へと放り投げたその瞬間、閃光と共に入口に向かって稲妻が走った。
土煙が上がり、中から「やっとか」と男の声。
風が土煙を払い、アメリアが「そんな物を何処で手に入れたの?」と問うのは同時だった。
「嘘だろ⁉直撃した筈だ!」
荷馬車から降りて来た男達の顔が蒼褪める。
稲妻が直撃する瞬間、アメリアが短剣、ウルファンドで結界を張ったのだ。
「くそ!それなら!」
「良いからそれをよこせ!」
荷馬車から降りた男が言って何か出そうとしたが、中からの声で手を止め、他の男が何かをアメリア達に向かって投げた。
それが不気味なほど淀んだ黒い光を纏っている事に気付いたアメリアは「逃げて!」と叫んだ。
その声にレオン達だけではなく、ロードや他の騎士達もその場を離れた。
黒々とした物体がアメリア達がいた場所で巨大化し、中から同色の蔦らしき物が現れ、蠢くと屋敷全体を覆った。
「リマ!」
アメリアが呼ぶと、どす黒い物に覆われた屋敷の上部から光が飛び出し、アメリア達の元へとやって来た。
「大丈夫です」
そう言ったリマの隣には老人の姿が。
無事だった事に安堵する間も無く、屋敷が軋む音を上げ始め、集まっていた男達が血相を変えて屋敷から飛び出して来ると、ソレを見て「これが…これが」と蒼褪めながらも口元を歪め、笑いながら言った。
「アハハハハハハ!」
1人の男が狂ったように笑い出し、他の者達が男を凝視し「おい…。どうしたんだよ」と心配する。
「本当にこれなのか?」
別の男は不安げに男に問う。
「これだよ…。言っていて通りだ!」
笑っていた男が両腕を広げてどす黒い物体へと近付く。
「ダメ!それから離れて!」
アメリアの忠告を無視し、男が物体に触れた瞬間、それは一瞬で屋敷を粉砕した。そして、男の両腕に黒々とした物体が巻き付いていく。
「これさえ有れば…俺達はコイツ等に勝てるんだ…」
言いながら振り返った男の目は人の物ではなかった。
謎の物体と同じ目の色。
姿形はかろうじて人を保っているが、もう既に人間ではなくなってしまっているのだ。
「おい…。大丈夫なのか?」
心配する仲間に男が「あぁ…。何だろうな…。今なら何でも出来そうだ」と言って仲間の方を向いた。
「お前も感じてみろ」
言うなり男が仲間に触れた瞬間、男の両腕に巻き付いていた物体の一部が触れた者にも移り、仲間が声を上げる間も無く一瞬で全身を覆った。
その光景はアメリア達には異様でしかなかった。
「これさえあれば、俺達は騎士団にも勝てるんだ!」
謎の物体に覆われた仲間を心配する事も無く、男は歓喜の声を上げる。
仲間を覆ていた謎の物体が消えると、中から出て来たのは肌の色も何もかもがどす黒くなった者だった。
到底生きているようには見えない。
まるで人形が何かに操られているような…。
「そんな…」
リマが哀し気に呟く。
「なぁ…。凄いだろ?これで俺達は勝てるんだ」
言って男が他の者達にも〝ソレ〟を渡そうとする。
「ダメ!」
アメリアが叫んだ瞬間、光の矢が男の両腕を貫いた。
放ったのはロードだった。
男は両腕を貫かれたにも拘わらず、痛がる事も無くロードを睨む。
その男の前に生気を失った仲間が立ち、人とは思えない声を上げると、足元から先程のどす黒い蔦を召喚しアメリア達に向かって放った。
「止めろ!」
アルドが言ってアメリア達の前に出て剣を抜き、一閃を放って蔦を切り裂くも、直ぐに繋がり再び襲い掛かって来た。
レオンも前に出て応戦するも、いくら切っても復活し切りがない。
「お前等も戦えよ」
言うなり男が怯えて下がっていた仲間達の方を向く。
「ひっ!」
悲鳴を上げて逃げようとした仲間達に男が「戦うために集まったんだろ!」と怒鳴り、物体を纏った腕を向けるのを見てアメリアは純白の杖、メルセアを取り出すのと同時に周囲に光の球体を幾つか造り出して放った。
放った光が男の仲間へと向かっていた物体を消滅させたが、残った幾つかが男の仲間を取り込んでしまった。
「止め—」
「た…助け—」
悲痛な叫びが一瞬上がり、撮り込まれた者達がまるで死者のような姿で現れる。
「酷い…」
リマの呟きに、男が「酷い?」と言いながらアメリア達の方を向いた。
「酷いのはどっちだ!俺達の町を食い物にして好き勝手しやがって!しかも誘拐までしている!お前達が…お前達が!」
男が叫ぶと、取り込まれた仲間達が飛び掛かって来た。
その動きは人間というよりも動物に近く、跳躍力も増加しているらしく、一瞬で間合いを詰められた。
「くそ!」
「仲間を何だと思っているんだ」
アルドとロードが言って飛び掛かて来た男達を鞘で薙ぎ払う。
謎の物体に操られているだけと考え、なるべくなら傷付けたくはないのだ。
勿論それだけで動きは止まる事無く、直ぐに反撃して来る。
「他に使い方は無いのか?」
そう言う男の体は上半身が謎の物体に飲み込まれつつある。
「ダメ!それ以上ソレを使ったら「黙れ!」
止めようとするアメリアに男が怒鳴り、男の前に黒い光が現れ、それが魔法陣へと変化した。
それを見てアメリアもセルメアを構え魔法陣を描いた。
「総員退避!」
ロードの声に騎士達がアメリアの後方へと駆け出す。
「アメリア様!」
リマがアメリアに駆け寄り、並び立つと手にしていた杖をアメリアと同じように構えた。
「風魔法を全力でお願い!」
「はい!」
アメリアの頼みにリマが頷き、アメリアの描いた陣の中心に白い光と淡い青の光の二つが集まり始め、そこにリマが造り出した風が合わさり、中心へと集まり始める。
「この力が有れば俺は最強だ!この力で…俺は全てを手に入れるんだ!」
「何言ってるんだよ!俺達は町を取り戻すんだろ!」
男の言葉に仲間が言うも、その言葉は男に届かなかった。
男の前に現れた魔法陣に黒々とした光集まる。
「俺は最強なんだよ!」
そう男が叫んだのと同時に、黒々とした光がアメリア達に向かって放たれた。
轟音を上げて黒々とした光が向かって来る。
「やるよ!」
「はい!」
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