第11話

文字数 3,025文字

 朝食を終えて店を出る。
 隣ではアメリアが不服そうな顔をしている。
 それもそうだ。
 彼女が支払いをしようとしたのをレオンが止めて支払い「自分の分は返す」と言って差し出した金を受け取らなかったのだから。
 それから少し歩いてアメリアが店に入って行き、レオンは外で待つ事にした。
 アメリアに付いて行かなかったリマが隣に来る。
「座って待てば良い」
 レオンがそう言うと、リマが嬉しそうに「有難うございます」と言って肩に座った。
 先程、店で言っていた事がどうしても気になる。
「彼女は本当に魔導師なのか?」
 小声でリマに問うと、リマは首を傾げ「どうなんでしょう」と答えた。
「知らないのか?」
「先程も話しましたけど、アメリア様とお逢いしたのはつい最近なんです。それより前の事はお聞きした事が無いです」
「そうか」
 自分と共にいる妖精にも話さない過去とは一体何なのか。
「どうして魔導師かどうか気になるんですか?」
「魔導師は基本、魔道具を使用する者の事を指すからだ」
 意味が解らないというようにリマが首を傾げて見上げる。
 レオンは視線を通りに向け「この世界で魔法使いと呼ばれる者達は3つに分かれているのは知っているか?」と訊いた。
 リマが「はい」と答える。
「先程君は〝払った〟と言っていたな」
「…はい」
「その時、彼女は何か魔石は使っていたか?」
「…いいえ…。でも、何か唱えてはいました」
 それだけでレオンの疑問は確信に変わった。
 魔導師は魔道具を使用する。
 魔道具を使用する時に何かを唱える事があったとしても、魔石を使用せず黒い物を払ったとするなら、彼女は魔導師ではなく、魔法師か魔術師だ。そして、恐らく彼女は国に登録をしていない。
 別に申請を出さなくても構わないのだが、国から証明書のような物を発行して貰えば、普通に依頼を受けて報酬を受け取るよりも高額な報酬を受け取る事が出来る。
 その為、多くの魔師達が国に申請を出し、証明書を受け取り仕事をしている。
 店の扉が開き、買い物を終えたアメリカが出て来た。
『詳しい事を訊きたいが、用事を済ませた後にするか』
 リマがレオンの肩から離れてアメリアの肩に移動する。
「何処まで付いて来る気?」
 溜息交じりにアメリアが問う。
「俺は武器屋に用が有る。そのついでだ」
「ついでにただの旅人に付き合わず、武器屋に行けば良いでしょ」
 冷たく言って歩き出したアメリアの後に続く。
 持ち物は恐らく腰のポーチのみ。
 武器らしい物は持っていない。
 軽装だとは思ったが、こうも何も持っていないと大丈夫なのか気になる。
「何処の出身なんだ?」
「唐突に…」
 並んだレオンを一瞥し、溜息を吐いて「忘れた」と言う。
 家族がいるはずなのに忘れるだろうか。
「国に資格保有の証明書を申請しなかったのか?」
「それが無くても生きていけるでしょ」
 正論だが、出身などについて話さないつもりらしい。
 何も話さず目的の武器屋に到着して中に入る。
 奥の左にドアがあり、四方の壁に様々な武器が掛けられている。
 この町に来てからレオンは何度か訪れているが、何度見ても凄い量だと思う。
 奥の椅子に座って剣の手入れをしていた、がたいの良い男がこちらを見る。
 見た目は四十代くらいだろうか。
「いらっしゃい」
 少し掠れた低い声で言って男が仕事に戻る。
 レオンは男に歩み寄って腰の剣を差し出し「新調したいんだが」と声を掛けた。
 男が差し出した剣を一瞥し「騎士団のか」とぼやく。
「直すのは刀身か?」
「何か問題でも?」
 レオンの問いに男が面倒臭そうに溜息を吐く。
「簡単に新調してくれって言うけどよ、それがどういう代物か知っていて言ってるのか?」
 訊き返され、レオンが「騎士の為に作られた物だろ?」と答えると、男が呆れたように溜息を吐き「新調するのは初めてか」と呟いた。
「普通の剣とは違う」
 そう言ったのは何故かアメリアだった。
「その通り!」
 男がアメリアに向かって親指を立てて見せ、手入れをしていた剣を近くの台に乗せて立ち上がる。
「鞘に罅が入っているとかなら直すのは簡単だ。けどな、おたく等騎士団様の刀身部分の修理となると、色々と面倒臭いんだよ」
 言って男が近くに置いてあった商品らしき剣を手に取った。
「これは何処にでも有るような鉄鉱石と魔石を組み合わせて作った。けどな、只混ぜて叩けば良いわけじゃない。割合が間違っていたら簡単に折れる」
 それは基本的な事なので知っている。
 魔法学でも似たような事が書かれていた。
「そんで、おたくの持っているそれは、簡単に折れたりしない、特別な方法で作られてる。俺みたいな簡単な物しか作れない凡人に頼まれても困るんだよ。失敗した時の保証も出来ねぇ。どうしても新調したいなら、それを作った奴の所に行くんだな」
「そんな特別な物なのか?」
 レオンにはそんな大それた物には見えなかった。
 不思議そうに剣を眺めるレオンを尻目に、男が商品の剣を戻し、再び椅子に座って作業に戻る。
「それを作った人を知っているの?」
 初めてアメリアの方から質問された。
「いや。入団した時に渡された物で、誰が作ったかまでは」
「そう…」
 呟き、アメリアが少し考え込み、作業をしている男に「ヴェゼッタって聞いた事有る?」と問い掛けた。
「あ?…まぁ…この国で一番古い鍛冶屋だろ?」
 それを聞いてアメリアがレオンを見る。
「自分で持って行くか、送って新調して貰ったら良い。たぶんそれはヴェゼッタで作られた物だから」
「どうして言い切れる?」
 男の問いに、アメリアは「それぞれの国で、騎士団専属で剣を作る鍛冶屋がいるから」と迷わず答えた。
「ふっ…。だからって、そこだっていう確証は無いだろ」
 鼻で笑って男が言う。
「壊してしまうかもしれないという理由だけで依頼を断って、他の店に行けって投げやりにするような鍛冶屋に笑われる覚えは無い」
「なんだと?!
 怒った男が立ち上がる。
「作っている物はそれなりに良さそうだけど、大物狩りには向かない物ばっかり」
「冷やかしなら帰れ!」
「言われなくても帰るよ」
 言ってアメリアが店を出て行くので、レオンも後を追って店を出た。
「おい」
 並んでアメリアに声を掛けるも、アメリアは応えない。
「どうして喧嘩を売るような事を言ったんだ」
 無視して歩いているのに苛立ち、アメリアの肩を掴み「おい!」と言って振り向かせた。
「試しただけ」
 立ち止まり、振り向かせたアメリアが溜息混じりに言った。
「試した?」
「そう。あそこで追い返すんじゃなく、やってくれるっていう話になるかなぁと思ったんだけど、どうやら本当に簡単な仕事しか引き受けない鍛冶屋だったみたい。あそこで売っている物も、何処からか買い取った物だし。知らないのも有ったけど、幾つか別の町で見た事が有る物が置かれていたから。でも、あの人は作れない訳じゃない」
 言ってアメリアが店の方を見詰める。
 その目が少し寂しげに見えた。
「残念だけど、それを此処で新調するのは諦めるしかないね」
 そう言ってアメリアが歩き出した時、鍛冶屋のドアが開き、男が出て来て「おい!」と叫んだ。
 アメリアが立ち止まる。けれど、振り向きはしなかった。
「引き受けてやる!けどな、もし失敗しても責任は取れないからな!」
 その言葉にアメリアが振り返る。
 ほんの一瞬だが、レオンにはアメリアが勝ち誇ったような笑みを浮かべているように見えたが、男の方を見た時には真顔に戻っていた。

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