第15話

文字数 739文字

 人並みと違うことを憂うこの心こそが、疎ましい――。

 ディランがサラの肩を引き寄せてくる。
 抱きしめられて、しばらく泣いた。

「クリフの症状は悪化しているから、近いうちにまた病院に付き添わないといけないわ……」

 サラは涙が滲んだ目で、ゆっくりと自分の手の中にある物を見つめる。

 そこにはピアスがあった。

 ピンクダイヤモンドが装飾された、高価なピアス。
 しかし片方だけだ。

「……やはり美しいね」とディランが覗き込んでくる。これはもともと、彼から妻のサラへの贈り物だった。

 だがある時、たまたまそれを知ったクリフが激昂して奪ってしまった。

 ――以来、あたかも自分が見繕ったかのようにシチュエーションを作り上げては、サラにプレゼントと称してピアスを贈ることを繰り返している。

 もう数えきれないほどに。

 贈られたダイヤは都度に、サラがさりげなくクリフの目に付きやすい場所に戻していた。

 でないと彼はいつまでも、いつまでもダイヤを探し続ける。

「血の絆」は厄介だ。

 もし他人であったなら切り捨てられるものも、肉親同士だからこそ見捨てられない――かけがえのない関係は、同時に束縛でもあるとサラは思う。

「私はこれからも、あの子と上手くやっていけるわ。だってディランがいるから……」

 だが声は震えたままだ。

 サラは、ふと手近な棚に目を留める。
 その上には彼女たちの結婚式の集合写真が飾られていた。

 ドレス姿で微笑むサラ。
 そのすぐ後ろに、強張った顔で写る一人の人物の姿がある。

 サラと同じ髪色。
 同じグリーンの瞳。

「彼」は、まるで世界中の全てから姉を守るかのように、断固としてそこに居た。

 また感情が溢れそうになり――それに気付いた夫は立ち上がると、無言でそっと、写真立てを下に伏せたのだった。


 

 
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