第4話

文字数 1,165文字


 彼女の声も、変わりないような気がした。

「ああ、そうだよ。ここも片付ける……でも、もうすぐ移動しなきゃいけないけど」

 クリフは少し目線を逸らしながら、応じる。
 照れてしまって顔を直視できないのだ。

 ――彼女と、いつかデート出来たらいいのに。

 婚約解消の真偽について知りたかったはずが、会えたことがただ嬉しくなり、次々と違う思考が浮かんでくる。

 それから束の間だけ、当たり障りのない会話を交わした。サラはこちらの作業の邪魔にならないよう、少しするとすぐに立ち去った。

 残されたのは、赤面したままのクリフのみ。

 ……でも、久しぶりに話せたのはうれしかったけど。

 詐欺とはそもそも、どういう騙し方をするのだろうか、と思う。
 自分には見当もつかない。

 とにかく、サラは思ったより元気そうだった。
 クリフは頭を振って、作業に意識を切り替えた。



 午後を回って休憩の時間になった。

 短い時間だが、落ち着いた環境が彼にとっては大切だった。

 クリフは一人で物陰に座る。
 ランチョンミートサンドイッチを黙々と食べていた。

 そこへ同僚のディランがやって来た。

 彼は時々、クリフをからかいにくる。

「じゃんけんしようぜ。負けたらソーダを奢ってくれ」

 ディランはそう言うと、唐突に足でクリフを小突いてきた。

「……自分で買いなよ」

 なるべく相手にしないようにしたが、今度は身体ごと体当たりされた。
 
 弾みでサンドイッチが下に落ちる。

 あり得ない、と思った。

 前から感じていたが、ディランはちょっとおかしいのではないか。

 しかし、ここで怒ってはますます厄介なことになる――そう直感したクリフは、抵抗せずに無言で、落ちた食べ物を拾った。

 するとディランはクリフを上から覗きこんで、信じられないことを言った。

「勝負しないんなら、俺がサラにちょっかいかけるぞ」

「――え?」

 一瞬、言われたことがわからなかった。

 呆気に取られてディランを見返す。

「だから、おまえが俺を無視するんなら、サラ・ベネットに手を出すぞって言ってる」

 ディランは薄い笑みを浮かべ、挑発的に見下ろしてくる。

「……なんてこと言うんだよ」

 クリフの背筋が怖気だった。

 自分がサラに好意を持っていることは、誰にも言ったことがない。
 いつ見抜かれたのだろう。

 いやそれよりも、この男のことだ。
 本当にサラに何かするかもしれないと思った。

「クリフは分かりやすいから、見ていたらすぐ気付くんだよ。――で、どうするんだ? じゃんけんするか、しないのか」

「するよ!」

 クリフは即答した。
 冗談であっても、気分が悪かった。

 二人は三回じゃんけんをして、結果的にクリフは勝つことが出来た。

 負けると相手は急に怒って、「サラに振られればいい!」と乱暴に言い捨ててから、向こうに行ってしまった。

「何なんだ、あいつ……」

 

 
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