第9話

文字数 321文字

 サラの元婚約者について、正直何も知らない。

 本当に石油王だったのかもクリフは知らないのだ。
 もしかして事実はどこか違っていて、そんな噂に惑わされた自分を、彼女は軽蔑したのかもしれなかった。

 ――噂。

 しかし現にクリフの周囲では、ここしばらくサラの話題で持ちきりだった。

 彼女が詐欺師に騙されたこと。

 たとえば作業中に、あるいは休憩中、移動中と、様々なところでサラの破局は囁かれていた。
 自然と耳に入ってくる情報だったはずだ。

 問題は、クリフにはその真相を尋ねられるような相手がいなかったことである。

 もしも事実が違っているのなら、彼女に謝らねばならなかった。

 ――逆に本当だったとしても、きっとサラは自分など恋愛の対象ではないだろうが。

 
 
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